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そのドキドキは、命がけかもしれない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山本和輝 (スピード・ライティングゼミ)
 
 
「手術しますか? どうしますか?」
いきなりそう言われても。心の準備などあるわけもない。
あの時の私は先生の言葉にあせって、心拍が上がっていただろう。
 
事の発端は一昨年の忘年会の帰り。私は電車の中で気を失って倒れた。
その時はすぐに回復したからよかったのだが、それをFacebookに書くと友人の多くが強く言ってくるのだ。「絶対に検査を受けろ!」と。特に社長はめちゃくちゃ押しが強かった。「絶対に脳ドックを受けたほうがいい!」
 
これだけプレッシャーをかけられては、病院に行かないわけにはいかない。さっそくネット検索して脳ドックを予約し、検査をした。幸いなことにMRIの結果は、脳には何も異状が無いという事だった。
 
「よかった。でもあれはいったい何だったのだ?」
 
私は、倒れるまでの経緯を一つひとつ思い出しながら、原因を考えてみた。
お酒は飲んだが、酩酊するほどの量ではない。
でも倒れる前、かなり心臓がドキドキしていたのを憶えている。
そして、軽い乗り物酔いのような症状が出て、吐き気がして…
食べたものはおそらく大丈夫。食中毒なら間違いなく吐いているはずだし…
 
「となると、原因は心臓のドキドキか?」
 
私はすぐさまApple Watchで記録された自分の心拍データを見てみた。
そうすると、飲み会を切り上げた時刻あたりから、毎分140を超える脈拍が記録されている。しかも、ところどころで50拍ぐらいの低い箇所もある。
 
「これは…… 何かおかしい!」
 
私には思い当たる節があった。
以前から特にきっかけもなく、心臓がドキドキすることがあったのだ。
正確にはドキドキに加えてグリュグリュッといった動きが左胸に起きる。
お酒を飲んだ時も心臓が異常にバクバクして苦しくなることもあった。
 
でも、症状がすぐ収まることを言い訳に、病院に行くのをためらっていたのだ。もう先送りはできないなと覚悟を決めた。
 
いろいろ調べた結果、心臓や循環器治療の病院を見つけ、診察を受けた。そして先生から言われたのは「心房細動」という病名だったのだ。
 
心房細動は、不整脈の一種ということだ。心臓の心房の部分が小刻み収縮して、心室の動きとタイミングが合わなくなる。そして血液を送り出すポンプ力が弱くなる。
ボートを2人で漕ぐときに、オールのタイミングがバラバラだと推進力が生まれない。心室と心房の収縮タイミングもうまく連携しなくては、ポンプ力が落ちてしまう。倒れたのは、血液を送り出す力が一時的に低下して低血圧になったからだろうと。
 
そして心房細動が本当に危険なところは他にあるという。心拍の乱れがずっと継続するようになると、血管内に血栓ができやすくなる。つまり、脳卒中や心筋梗塞を引き起こす危険性がものすごく上がるらしいのだ。
 
「コワイ! メッチャコワイ!」
 
とりあえず、薬での治療もできるとは言われた。しかしドキドキが出る頻度が高いのなら、手術をして根治してはと勧められた。
 
その手術は「カテーテルアブレーション」と呼ばれ、首に1か所、両足の付け根2か所に穴をあけて、カテーテルを太い血管に差し込み、治療器を心臓まで運ぶ。
そして、マイナス60度のバルーンで心臓の内側をジュッと焼く。不整脈のパルスが伝わる箇所を焼くと、電気信号が絶縁されて脈拍の乱れが無くなるらしいのだが…
 
「コワイ! 心臓に管を入れて中を焼くなんて、メッチャコワイ!」
 
血管の中をカテーテルがグリグリ進んでいくのを想像すると、身震いしてしまった。しかし、恐怖でドキドキしながらも、結局私は手術をすることを選んだ。
怖いけど、入院はわずか3泊4日。胸を切って開いたりしないので、治りも早いらしい。それが唯一の安心材料だった。
 
そして、ついにその日が来た。
前日の検査が始まると、機械的にテキパキとものごとが進んでいく。
もう考えてもしょうがない。なるようになると信じよう。
 
手術の朝は早かった、午前6時にいつもと違う看護婦さんがやってきた。
北川景子似の美人さんだ。
「手術の前に、下の毛を少し切りますね」
そして、バリカンで私の陰毛をカタカタカタと音を立てながら刈っていく。
彼女の視線は私の股間に集中している…
まったく、変なところでドキドキさせないでくれ!
 
その後のことは動転していたのかあまり覚えていない。
予定の時間が来ると私は手術室に運ばれ、CTスキャンのような巨大な機械の上に寝かせられたのだった。
 
壁面には6つの液晶モニターが取り付けられ、病院らしさが全く無い。
消毒液のにおいもしない、何かのハイテク工場のような雰囲気だ。
先生はこのモニターを見ながら、カテーテルを挿入していくのだろう。
きっと心臓を焼く時も、画面を見ながらゲームのように操作するのかも。
自分が手術される側でなければ、その様子をつぶさに見てみたいところだ。
 
「麻酔を入いれていきまーす」
確かそんな声を聞いたかもしれない。
点滴のチューブにつながれた注射器のシリンダーが押し込まれた。
やがて全身麻酔が効いてきて、私はすぐに意識を失った。
 
手術は予定より早く終わったようだ。
時計を見ると開始時刻から3時間ほど経っていた。
直後は血圧が上がらずとても辛かったが、その翌日の回復は驚くほど早かった。
そして次の日の退院の際には、普通に歩いて帰れるまでに回復していた。
一昨日、術後に集中治療室で虫の息だった私がもうピンピンしている。
最新医療はほんとにスゴイことになっている。
 
ちなみに、払った治療費は約20万円。本当は総額200万円以上なのだが、高額療養費制度のおかげで負担が少なく助かった。日本の医療制度マジありがとう!
 
退院後しばらく体調の不安定さが出ていたものの、手術した箇所の経過は極めて良好。
術後4週目には恐る恐るではあったがシャンパンやワインを久しぶりに飲んだ。
「お! あのドキドキが出てこないぞ! お酒も心配なさそうだ」
私の心臓から、あの命の危険につながりかねない恐怖のドキドキは消え去っていた。
 
もし、少しでも私と同じような症状の自覚がある人がいたら、ぜひ早め病院に行くことをお勧めする。先生いわく、不整脈が常態化する前に対処すると再発しにくいらしい。悪化する前に手術すれば、あっという間に回復し根治もできるし、何も恐れることは無い。
私はあの時、手術のドキドキを選択してホントに良かったと思っている。
 
 
 
 
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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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