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元不登校生徒が不登校の支援者にお願いしたい「待つ」ということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:町田和弥(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「いまのままでよいと思いますか?」
 
いま私は、不登校生徒やひきこもりの学び直しを支援する塾で働いています。塾に通う生徒たちの中で、不登校やひきこもりのままでよいと思っている人は誰一人いません。誰もが変わりたいと思ってもがいているのです。
 
それでも一歩前に進むことに戸惑って、何年も停滞してしまう生徒がいます。
本当に生徒は停滞したままでよいのか、塾で生徒と向き合う支援者たちは多かれ少なかれ悩んでいるのです。
 
そこで不登校やひきこもりの支援者へ、参考になるかは分かりませんが、私の不登校の経験をお話したいと思います。
 
――いまから約20年前、私は中学生で不登校をしていました。
当時は、いまよりも不登校に対する風当たりは強く、学校にも行かないで怠けているとか、学校にいけないやつは弱いとか、いろいろな言葉で父親に非難されていました。
 
「いい加減にしろ。いつまで待てばいい?」
「このままじゃ、就職できなくなるぞ。嫌でも学校に行け!」
 
まるで、不登校になってしまうと人生が終わってしまうかのような言い草です。
 
一方で、廃人のように毎日ゲームをする私を間近で見ていた母親も心配だったことでしょう。半年の間、同じゲームを繰り返して過ごす私。何も変化の見えない毎日は、母親から見れば大変なことだったと思います。
 
しかし、母親は私のことを非難もせず待ってくれました。
ただただ、ゲームをする私の話相手になってくれました。
当時なにを話していたのか忘れてしまいましたが、ゲームをしながら母親と話す時間は、ほっとする時間でした。
 
まるで私はぬか漬けに入ったキュウリになった気分です。
ぬかの中の微生物が目に見えない変化をキュウリに与えるように、ほっとする居場所によって私は目に見えない変化をしていったのです。居場所の中でゆっくりと休むことで前に進む気力が回復したのでしょう。
 
「勉強がしたい。でも学校には行きたくない」
と私は思えるまで回復できたのでした。
 
そして私は半年のひきこもり生活を経て、適応指導教室という不登校生徒を支援する学校に行くことになったのです。
 
では、どうして私は変化したのか?
母親に特別な言葉をかけられた訳でもありません。医者に薬を処方された訳でもありません。それは母親が私のことを待ってくれたからだと思うのです。
 
では、「待つ」ということはどういうことなのか?
大阪大学名誉教授で哲学者の鷲田清一さんの著書『「待つ」ということ』では「待つ」ということは「発酵」に似ていると書いてあります。
 
鷲田さんは様々な「待つ」という場面の中から「待つ」ことの本質を見抜きます。
 
たとえば、
・焦れ
ラブレターの返事を待つようなジリジリとしたもどかしさ。
・自壊
巌流島に定刻通りにやってこない宮本武蔵に対する佐々木小次郎の苛立ち。
・待機
寒い冬に暖かい春を心待つ、自然に対する信頼感にも似たような期待。
・放棄
陶芸家がこねた土を窯の中に入れ、作品がどんな色や形になるか、偶然に身をゆだねること。
・閉鎖
名宛人不明でいつまでも届くことのない手紙。
・酸欠
誕生を待つ胎児が、産道をくぐり抜けるときの酸欠のような苦しさ。
など。
 
確かに、不登校やひきこもりに寄り添って「待つ」という支援を行うときにも、このような同じ感情が心の中に交差するのです。
 
支援の中では、いつになったら心を開いてくれるのだろうという焦った心が、いつまで待てばいいのだろうとイライラさせて、自分が壊れていくこともあるでしょう。それでもいつか前に進んでくれるだろうと期待します。
 
もしかしたらイライラしていたのは、相手を助けてあげようという上から目線の気持ちが少なからずあったのだということに気付くかもしれません。正しいアドバイスをしたとしても、人は思い通りに動くものではないのです。そもそもアドバイスとはあなたは間違っていますよという批判が込められたメッセージなのですから。
 
次第に支援者が相手に対してこうあるべきだという考えが薄れていけば、相手がどのように変化していくのか偶然に身をゆだねながら楽しみに待つことができるかもしれません。
 
しかし、その変化を待つ過程が長くなればなるほど、のれんに腕押しのような感覚が増していくばかりで閉塞感に苛まれることもあります。ひきこもった部屋の中で酸欠のような苦しさを感じることもあるでしょう。
 
待つことで生じる心の葛藤は、ぬか漬けの微生物の働きのように目に見えなくて、一見なんの変化も見られないから不安が増していくことがあります。
 
それでも道が開けることを信じて待つということ。
期待や願いや祈りを込めて待つということ。
支援者のポジティブな思いが、発酵というよりよい変化を生み出すことがあるのです。
 
逆にイライラしたり、叱咤激励したり、批判ばかりしていると、
支援者のネガティブな思いが、腐敗という悲しい変化を生み出すことがあるのです。
 
――2019年10月17日、文部科学省が発表した不登校生徒数、16万4528人。
 
不登校生徒一人一人の心の痛みに寄り添って「待つ」ということが、いま私たち支援者に求められています。
 
 
 
 
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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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