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キャッチボールって何にでも応用できる


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記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「へー、またキャッチボールやってるんだー。いつになったら、通常練習ができるのかね?」
 
中学校2年生のあの時のことが、今でも忘れられない。
 
当時入っていた部活は、ソフトテニス部。
団体戦でも、個人戦でも、中学校がある郡大会では上位入賞が当たり前、県大会はほぼ毎年出場するという強豪だった。それに比例してか、放課後の練習はもちろんのこと、毎日授業開始前には朝練、土日祝日の他校との練習試合など、とにかく忙しい部活だった。
 
そんな部活に3年間所属していた私。これだけ聞くと、「佐々木さんもさぞかし強かったのでしょ?」と言ってくれる方もいるかもしれない。
しかし、ソフトテニス部において、私はいわゆる「落ちこぼれ」だった。
 
千年に一度の記念すべき年、「ミレニアム」と言われた2000年4月。
私は中学校に入学した。広い校舎に、校庭、新しい制服に、新しい友達、目に入るもの全てが新鮮だった。
何より特に新鮮に感じたのは、部活。
小学校時代、クラスの友達以外と特に遊んでいなかった私にとって、クラス以外のグループに所属するというのは、まさに未知の領域だった。
 
4月中旬からの部活見学は、知らない世界に足を触れるわくわく感で心はいっぱいだった。
吹奏楽部、サッカー部、科学部、美術部……、興味のある部活には片っ端から足を運んだ。
その中で、私が選んだのは「ソフトテニス部」。
見学に行った時にいた先輩にみたいにかっこよくボールを打ちたいな、雰囲気も良さそう、という軽い気持ちで入部届に名前を書いた。
 
思えば、これが苦難の始まりだった。
 
筋トレやラケットの素振りに半年間励み、いよいよ実際にラケットでボールを打つ練習の日がやってきた。
「ついに、ラケットでボールを打てる! 先輩みたいにかっこよくなれるぞ!」
意気込んで練習に臨んだ。
テニスコートの反対側にいる先輩が打ってきたボールを、心地いい反発音を響かせながら、打ち返す。
……そのはずだった。
 
おかしい。何回やっても、上手く打ち返せない。
空振り、ラケットの枠に当たる、ボールを場外ホームランする、失敗のオンパレードだ。
 
初めてで慣れてなかっただけ、と気を取り直して臨んだ翌日の練習でも、3日後の練習でも、私のラケットからは、心地いいボールの反発音を聞くことができなかった。
一週間経っても、一ヶ月経っても変わることはなかった。
 
一年が過ぎた。
スマッシュ練習、サーブ練習、いろいろな練習に取り組んできたが、まったく成果が出ない。
私より後に入部した後輩の中でも、上手い人はレギュラーに選ばれ始めていた時期。
年功序列が許されるほど甘い部活ではなかった。
 
まさに、どん底のまっただ中だった。
 
そんな状況に転機が訪れたのは、顧問の先生の一言がきっかけだった。
「キャッチボールをしよう」
「え、キャッチボールですか?」
ラケットを使わないで素手でボールを投げ合う練習なのだという。
 
「ラケットを持たない練習をしろだなんて、つい先生にまで愛想を尽かされてしまったのか……」
絶望に打ちひしがれたが、ここで拒否したら部活を辞めるしかなくなる、直感的にそう感じた私は先生とのキャッチボールに臨んだ。
練習場所は、テニスコートの隅。
他の部員がラケットを使った練習をしている中で、ただ一人私はひたすらキャッチボール。
とてもみじめだった。
同級生や後輩の一部からのからかいも、みじめさに拍車をかけた。
 
そんな気持ちでキャッチボールを1ヶ月ほどこなしていたある日、先生からラケットを使う許可ができた。
先生が打ってきたボールをおそるおそる打ってみる。
「ポンッ!」
「あれ、ラケットの真ん中で打ててる!」
私のラケットから心地いいボールの反発音が聞こえてきた。
 
それからというもの、少しずつではあるが、試合にも出してもらえるようになった。
定着はしなかったが、3年生の時には、レギュラー入りすることもできた。
 
時が過ぎて、大学時代、そして社会人となった私。
バレーボールやバドミントン、卓球など、仲間や友人といろいろな球技をしたが、特に下手さを指摘されることはなくなった。
 
キャッチボールを練習していなかったら、このようなことになっていただろうか。
いや、きっと今でも球技が苦手だったに違いない。
 
考えてみると、小学校時代に球技を行っていなかった中学生時代は、ボールの基本的な扱い方を全く分かっていなかった。
先生は、キャッチボールを通して、「ボールを身体の真ん中で受ける」、「相手にボールを渡すときは一度身体にボールを引きつける」といった球技の基本を私に学ばせてくれたのだ。
 
ここで、ふと一つの考えが頭に浮かんだ。
「キャッチボールって、球技以外にも基本的なことではないか?」
 
例えば、会話をはじめとしたコミュニケーション。
相手の言葉を真ん中で受けて、自分で考えた上で、相手に言葉を返す。
「会話は言葉のキャッチボール」なんて、よく言われるが、まさに的を射ている。
 
キャッチボールって何にでも応用できるんだ。
先生、とても大事なことを教えてくれて、本当にありがとうございます。
 
 
 
 

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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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