メディアグランプリ

「生ききる」ということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ミヤザキノリコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「まさに生ききった人でしたね」
義母の葬儀に弔問に訪れた近所の人に私は言った。
「本当に凄い精神力の持ち主でしたよね。でもお嫁さんはさぞかし大変だったでしょう?」
私は何も言わずに微笑み返した。
 
92歳の義母は今年の1月3日に、息子である夫に見守られながら息を引き取った。
亡くなる数日前まで日課の朝日新聞の『天声人語』を書き写し、2週間前まではフルに予定を入れてディサービスで作品を作り、山中湖や箱根にドライブに行くなどやりたいことをし尽していた。
車椅子になってからは、どう勘違いしたのか、電車に乗り降りの駅員のVIP待遇にご満悦であった。
 
末期がんである肉体にはあらゆる苦痛がおそらくあったのではと想像するが、おくびにもそんな素振りを見せなかった。大腸がん摘出手術の後は便のコントロールができずにオムツをしていても、2週間前の最後の入院の前日にもは庭の花の手入れをし、美容院に行きパーマをかけると言い張り聞かなかった。
 
遺影は本人の生前からの希望で仕事で頂いた藍綬褒章の写真である。
どういうわけかその時の写真の義母は恐ろしいほど厳しい表情をしている。本当はもう少し可愛い表情の写真もあったのだが、本人の希望を尊重した。
 
最期の入院では日に日に衰弱していき、面会に行っても反応があまりなくなってきた。しかし数日前に体調が回復した日があった。
 
「ノリコさん、唇が渇いているからリップクリーム買ってきて!今すぐ!」
ドラマ「家売る女」の主人公、北川景子扮する三軒家万智が「GO!」というような形相で病院のベッドの上で義母は言った。 何だか妙に嬉しくなった。そうだ、お義母さんはそうでなきゃと思った。
 
嫁は家政婦だからと私に言っていたが、義母の姑さえも家政婦と呼んでいた人なので、相当の強者である。相手が大学教授であろうと、医師であろうと、大会社の社長であろうと、歯に衣着せぬ物言いで、自分の正義を押し通した。その正義のほとんどが、それはどうかと思うものであったのは否めないが、相手の地位にひるむことや媚びることなく挑んでいった。
 
結婚して35年、この義母の「今すぐGO!」に仕えてきたが、私はこの義母の愚痴を人にほとんど言ったことがない。
 
私は義母と同居をしているが、実母も目の前に呼び寄せ、二人を介護していた。
今「毒親」という言葉がネットなどでよく聞かれるが、私の母は正直「毒親」であると思う。
 
ところで「毒親」とは、過干渉や暴言・暴力などで、子どもを思い通りに支配したり、自分を優先して子どもを構わなかったりする「毒になる親」のこと言う。
 
実家の商売を手伝い、睡眠時間3時間で働き続け、他の仕事に就くことも許されずに、暴言を浴びせ続けられた私は、この毒親から逃げるように結婚しても、その後何度も距離を置こうとしても追ってくる。私への執着は半端ない。
「あなたはかわいそうね。私とお義母さんと旦那さんと子どもたちみんながぶら下がっているんだから」と母はいつも言う。だがぶら下がっているのはあなただけですからと心でいつも思っていた。
 
義母が亡くなってみると、この対照的な二人によって、自分が何とか精神的均衡を保てられたのかもしれないことに気づいた。
 
実母:過去に生きる
義母:今、未来に生きる
 
実母:他人の目を気にする
義母:全く他人の目を気にしない
 
実母:因果論で生きる
義母:目的論で生きる
 
実母:被害者になりたがる
義母:被害者には絶対ならない。加害者になっても自分の非は絶対認めない
 
実母:気を遣う良い人と思われたい
義母:人が自分のことをどう思うかなどどうでもよく、自分のやりたいことをやる
 
実母:私のためにこれだけ犠牲になったとコントロールする
義母:嫁=家政婦だからとコントロールする
 
どちらも毒親かもしれないが、義母はストレートで攻略はとても容易であった。
義母がどんなに家政婦と見なしてきても私は家政婦の役を降りればいいだけなのだ。
私が役を降りてしまえば、それはそれでと割り切って、ネチネチと意地悪も言わない。
 
だが実母はそう簡単にはいかない。毒親の呪縛から解放されたく色々なワークを受けたりしたが、一向に開放されない。それは私の中にも同じ思考パターンが根強くあるからだ。
過去のトラウマを消そうとしたり問題解決をしていると、モグラ叩きをしているようでまるで改善していかない。それより意識を未来に向けることの方が上手く回りだす。
 
強烈な個性を持った義母は「今に生きろ」「人のことなど気にするな」「自分のやりたいことをやり抜け」と教えてくれたのではないかと思う。
 
それが「生ききる」ということなのではないかと厳しい眼差しの遺影の義母を見ながら思う。
「これからあなたはどう生きたいの?」「どうありたいの?」未来に意識を向け、自分に問うてみた。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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