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虫歯は治療したから大丈夫? いいえ、そんなことはありませんでした


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:一ノ瀬 朔(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「なんか、左上の奥歯がズキズキするんだよね。でも、甘いものを食べると痛いとかいう感じでもないし、鏡で見た感じ虫歯もなさそうなんだよ」
 
ズキズキと痛む歯を宥めるように頬をさすりながら言うと、母は「そういうの、たまにあるよ」とあっさりとした声を返してきた。
 
「疲れているときとか、神経が敏感になって歯が浮くような感じがするよ」
 
「それって、痛いの?」
 
「痛い痛い。それこそ、ズキズキするよ」
 
正直に言えば、ただの神経痛と判断するには痛すぎるんだよな……と思った私だが、家族の中でも群を抜いて痛みに強い人間(過去、咳のし過ぎであばらにヒビが入っても、普通に「痛い」と訴えるだけだった)である母の言葉に妙な説得力を感じてしまった私は「なるほど」と小さく頷いた。
 
仕事の繁忙期が終わり、疲れが抜けさえすれば歯の痛みも治まるだろうと信じることにしたのだ。
 
しかし、事件は母に歯の痛みを相談してから一週間後の夜に起こった。
 
相変わらず痛みの引かない歯を抱えながら過ごす日々の中で、私は「ズズッ」と鼻をすするようになっていた。
 
「風邪でも引いたかな……」
 
仕事も忙しさから抜けられず、歯も痛ければ風邪も引く。
 
なかなかの悪循環だな、と落ち込みながらも、せめて呼吸は快適にさせよう鼻をかんだのだが、そこで私は思わず「なんじゃこりゃっ」と大袈裟なリアクションを披露した。
 
鼻をかんだティッシュに赤い血がついていたのだ。
 
何だ、ただの鼻血じゃないか。
 
そう気軽に考えられなかった理由は、記憶の限り鼻血を出したのが、その時が人生で初めてだったからだ。
 
鼻血との初対面に、妙な焦りを感じた。
 
そう言えば、風邪かと思って鼻をかんだけど、左の鼻しか鼻水を感じないな……
 
もしや、と思って左の頬を押さえた。
 
もしやとは思ったが、自分の左奥歯で何が起こっているのか、全く分からなかった。
 
痛みが走る場所は歯であるはずなのに、どうして鼻血が出るのだろうか、と。
 
鼻血が出たことがきっかけだったのか、それまで“かなり痛い”に留まっていた歯の痛みは、急激にグレードを上げ“尋常じゃないくらい痛い”に変化した。
 
例えるならば、麻酔なしで歯を削られる痛みである。
 
市販の鎮痛剤を飲んでも、痛みの強さはほとんど変わらず、寝ようにも寝られないほどだった。思わず、既定分量の3倍の薬を飲んでしまうほどに。
 
いっそ、痛みで気を失いたい。
 
そう願いながらも、気はしっかりと保たれたままで、その日は「ぐぬわぁああ、痛いぃいい!!」と枕に向かって叫ぶ夜を過ごす羽目になった。
 
ほとんど眠ることもできないまま次の日になったときには、歯も痛ければ、定期的に鼻血も出て、更には頭を振ったり俯いたりすると眼球の裏側に痛みが走るまでに症状は進行していた。
 
おまけに、頭も痛いとくれば、虫歯でも神経痛でもない病気を疑わずにはいられない。
 
早速、私は痛みを抱えながら歯医者へと向かった。
 
原因さえ分かれば、この痛みから解放される。
 
そう期待しながら、レントゲンの結果を待つ私に、先生は
 
「ここの部分、顎の骨が溶けていますね」
 
とレントゲンに映った上顎の部分を指さしながら伝えてくれた。
 
「左上の歯は神経を抜いた歯なんですけど、神経を抜いた際にゴミが残っていたのか、根っこの部分が腐っていて。そこから歯茎が膿んで炎症を起こしています」
 
先生の説明によると、それは『歯性上顎洞炎』と言うもので、膿が上顎の骨を溶かし、副鼻腔(顎の上にある空洞)に穴を空けて鼻血が出たとのこと。
 
眼球の裏側が痛いのも頭が痛いのも全部、歯茎から広がった炎症が原因だと言う。
 
そりゃあ、痛いわけだ。と私は納得したのだが、その膿を取り除く治療が、それこそ激痛であった。
 
「膿の原因となっている奥歯の根っこに穴を空けてそこから膿を取り出しますね」
 
「分かりました」
 
神経を抜いた歯ならば削られても痛くはない、と安易に考えたことを、私はすぐに後悔した。
 
あろうことか先生は、穴を空けた根っこの部分から膿んでいる歯茎に向かって細い針をブスブスと刺し始めたのである。
 
たしかに、歯の神経は抜いているが、歯茎に関しては、神経は生きている。
 
麻酔なしで突如として行われた治療に、思わず叫びそうになったが、先生は至って真面目な顔で針をブスブスと刺してくるので、拳を握り痛みに耐えることにした。
 
ブスブスブスブス……繰り返すこと、約5分。
 
「あれ、可笑しいな……思ったより膿が出てきませんね」
 
と首を傾げた先生にちょっとした殺意が芽生えたことは否定しない。
 
結局、針をブスブス刺しただけでは膿は取れず、違う病院での治療を勧められ、その日の治療は幕を閉じた。
 
ただの、刺され損である。
 
その後、私は4つの病院を渡り歩く羽目になった。
 
「上顎洞に広がった膿を綺麗にするためには手術が必要ですので、入院できる病院を紹介しますね」
「手術は必要ないですよ。根幹治療(歯の根っこの治療)を専門としている病院に行ったら、歯も抜かないで済むと思います」
「これは、うちでは抜くことしかできないです。大学病院で診てもらって、最終的な判断をされてみては」
「あー、これは2本歯を抜く必要がありますね」
 
と言った感じに次から次へと違う病院を勧められ、最終的に私は膿に接している一番奥の歯と、その隣の歯の2本を抜かれる羽目となった。
 
治療が終わるまでにかかった時間は約3ヶ月、歯の痛みは抗生剤と鎮痛剤で誤魔化し続ける日々であった。
 
虫歯を治療したからと言って、安心することはできないんだな……と、身をもって痛感した事件。
 
唯一、良かった点を挙げるのならば、多少の痛みでは痛いと思わない強い精神を手に入れることができたくらい。
 
もしも、神経を抜いたはずの歯が痛くなった時は、迷わず歯医者に行きレントゲンを撮ってもらうことを、私は全力でお勧めする。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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