メディアグランプリ

オーロラ観賞はアイドルの出待ち


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:芝田エル(ライティングゼミ平日コース)
 
「死ぬまでに一度でいいからオーロラを見てみたい」
長いことずっと思い続けてきた。
「行きたいなら行っておいで」と何度も家族に言われてきたけれど、ことはそう簡単ではない。
旅費もかかるし、仕事も休まなきゃならない。
英語もろくにしゃべれないのにフィンランド語なんて。
行けない理由はいくつも上げられた。
「定年したら行こう」とぼんやり思っていたけど、姉が定年して2年目にがんになったことで、考えがガラッと変わった。
人生は短い。
「行きたい」と思ったときに行こう。
自分ですたすた歩けるうちに。
そして新聞で見たフィンランド旅行を、半年前に申し込んだ。
 
「そう簡単には見られないよ」
フィンランドにオーロラを見に行くというと何人かからそう言われた。
まず天候が良くなければ見えない。
曇りや雪では見えない。
晴れていたとしてもオーロラが活動していなければ見えない。
数日滞在しても一度も出現しないこともある。
天気と運。これに尽きる。
 
1月半ばフィンランドの北、サーリセルカという村に着いた。
現地には日本人ガイドがいてほっとした。
私はここで2回のオーロラ・ハンティング・ツアーを申し込んだ。
ツアーは80ユーロ(約1万円)で深夜3時間のバスツアーだ。
着いた当日はひどい吹雪でまったく見えなかった。
翌日の夜、私は重装備でバスに乗り込んだ。日本人客だけ30名ほどのバスツアーだ。
三脚付きカメラを持った女性のツアーガイドさんが、マイクを持って話し始めた。
「今夜は薄曇りですが、このバスで半径50キロくらいのところを移動しながらオーロラハンティングに参ります」
オーロラは肉眼では煙か雲のように見えること。
目が慣れないと色までは見えないこと。
町の明りや車のヘッドライトがあると見えづらいこと。
それでなるべくそういう光のない山道に入り、オーロラの出そうなポイントに止まって出るのを待つこと。
そして一度出現したらオーロラから目を離さないようにして、観賞してくださいと教えてくれた。
 
バスは30分くらい走って細い山道に入り、ポイントに着いた。
乗客は降りて、それぞれ思い思いに空を見上げる。
カメラを設置する人、スマホを構える人。
私は事前にカメラを勉強してから行こうとも考えたが、結局今回は肉眼で見ようと決めてきた。
いくら練習してきたとしても、撮影することにあたふたして全体像が見えなくなるのではないかと思ったからである。
 
「さあ、みなさん北の方を見てください。空が晴れてきました。あれが北斗七星、オリオン座。天の川も見えますね」
満天の星空。ああ、これだけでも十分に来たかいがある。
人工光のない場所で、手が届きそうな星たち。
 
そして待つこと20分くらいでついにオーロラが現れた。
「みなさん、見えますか? 白く横一直線にたなびいているもの、あれがオーロラです。今私が写真を撮りました。カメラの画像を通すとこのように色がついて見えます。順番に見比べてください」
え~? オーロラの実物ってこんな感じなのか。確かに肉眼で見ると白いすじのように見える。言われないとオーロラだとはわからない。動いていることはわかるが、よく写真でみるような鮮やかな緑色ではない。ところがカメラの画面越しには鮮やかな緑のカーテンが写っている。
カーテンは2段に増え、形が刻々と変化していく。
目をじっと凝らしていないと見失いそうだ。
そうこうするうちに違う方向からもアーチ状のオーロラが出てきた。
あちこちから歓声が沸く。
想像以上に動きが早い。アーチを追っているうちに最初のカーテンは消えてなくなっていた。
「目が慣れてくると肉眼でもうっすら色が見えることがありますし、最初から見えるという特別な人もいます」
残念ながら私は特別な人ではない。
でもなるほど、オーロラはカメラを通して初めてその姿を確認できる。
だからオーロラの撮影にハマる人がいるのだ。
オーロラは動いている状態を色付きで撮影することはできない。よくカーテンが揺れているように見える映像は、実は写真を連続撮影し、つなげて映像のように見せている、と聞いたことがある。
撮影したことではじめてオーロラをつかまえたことになるんだ。
 
今回、肉眼で見てよかったという思いと、次回はカメラを勉強してから来ようという思いが一度に湧いてきた。見たらうれしいから次にまた来ようと思えるし、見られなくてもまた次来ようと思う。こういうところはアイドルをコンサート会場で出待ちするファンの気持ちに似ている。
オーロラを見た帰りのバスの中で、後ろに座った女性が「わたしフィンランド3回目、ツアー6日目でようやく会えたのよ」と嬉しそうに話していた。
 
「今日私が撮った写真は明日フェイスブックにアップします。その写真は自由に取り込んでお使いになってください」ガイドさんが言った。
おお、なんてすばらしいお土産付きだろう。
 
こうしてその日のツアーは無事終了した。
これぞビギナーズラック。天気と運に恵まれた。
空を見上げながら、私は亡くなった両親が見せてくれたんじゃないか、という気持ちになっていた。それから休暇をくれた上司や同僚、家で待つ家族への感謝の気持ちでいっぱいになった。
もし以前の私のように迷っている人がいたら、今はこういうだろう。
「死ぬまでに」なんて言わず、少し無理をしてでも今行ったほうがいいって。
見たいときこそ行き時なんだよって。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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