メディアグランプリ

母の愛、父の愛


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木ゆうみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「もう〜こんなにいっぱい食べれんっていつも言よるやん! 一人暮らしなんやけん。」
 
この言葉を私はいつまでも言えると思っていた。しかし、この言葉には早くに終わりが来て、また次の「食べれんよ」を言うことになるとは、この時はまだ知らない……。
 
わたしが家を出たのは、大学へ進学した時だった。
小さな小さな田舎町で育ったわたしが、右も左も分からない大都会へ進学した。
 
「地元の大学行って、地元の人しか知らずに嫁に行ってもいけん! せっかくなんやけん、都会に出て、色んな人見て、それでも地元の人がいいと思ったらまた帰ってきたらいいけん。」
 
そう言って、わたしを地元から出したにも関わらず、さぞかし母は心配していたのだろうか。
 
月1くらいで宝箱のようなダンボールが送られてくる。中には、祖父が作った米や野菜、地元の特産品、どこでも買えるお菓子やインスタント食品も。そして母の手料理。
 
何人前ですか?と言った量がいつも送られてくる。
 
「ねえ、あんまり送ってくれても腐るけん、いらんよ?」
 
「なんでや、友達あげたら良かろうがい?」
 
「友達って言ったってそんなまだ出会ってすぐやのに、もらっても迷惑やろ?」
 
「そうやって、友達作ったらいいんよ。」
 
何を言っても母はこれからも送ってくれるだろうな、と思ったわたしは、母にとやかくいうのを辞めた。時には腐らせてしまうこともあったが、次第に母からのお宝BOXが届くのも楽しみになっていく自分もいた。
 
地元を離れて時が経てば経つほど、地元の特産品や母の味が恋しくなる。
 
こうしてわたしは、大学進学から新社会人になってもずっと母のお宝BOXを受け取り続けた。
時にはこのお宝が、どん底に気落ちしたわたしを励ましてくれたり、お友達を家に招いて仲良くなるきっかけになったり、味以上の価値をわたしにいつも運んできてくれていたのだ。
 
社会人2年目の日曜日だった。
その日もまたダンボールいっぱいのお宝がわたしの元へ届いた。
 
中には、半分以上が母の手作りの料理。わたしが社会人になってご飯を全く作らなくなり、朝昼夜コンビニや外食で済ませていると聞いた母が心配してわたしの好きなものばかりを作って送ってきてくれたのだ。
 
煮込みハンバーグ、魚の煮付け、炊き込みご飯と菜っ葉ご飯のおにぎり……他にも大量に。
 
到底食べきれやしないと思ったわたしはかつての「こんなに送ってきてどうするの? 症候群」を再発させていた。午前中に荷物を受け取ったにも関わらず、夕方になってようやく母に電話をした。
 
「あんなに送ってきても食べれんよー」
 
「すぐ冷凍しとき!朝おにぎりチンして車に乗ったら仕事行きながらでも食べれるやろ?いっぱい食べて仕事がんばりや!」
 
そう言って、5分も話すことなく母は電話を切った。
 
なんとなく、その日は食欲が湧かず、母から届いたご馳走を全て冷凍庫にしまった。
 
そしてその日から、もう2度と母からのお宝BOXは届くことは無くなってしまった。
 
母は最後に電話をした翌日、脳卒中で倒れた。
地元まで、4〜5時間はかかるところで勤めていたわたしが、母の病室に到着した時にはもう、わたしの知る母ではなかった。
 
喋ることはもちろん、目を開けることさえ出来なくなり管に繋がれて眠っていた。
 
「昨日、電話したやんか。あのご飯どうするんよ……」
 
わたしの言葉を聞いて、父が言った。
 
「あれなあ、夜中まで母さん一人でゆうみの為にって一生懸命作ったんよ。 帰ったらちゃんと食べえや。」
 
と。しかしわたしは、結局母の愛の詰まった宝のご飯を最後まで食べることが出来なかった。これを食べて、無くなったらもう2度と母のご飯が食べられない、と思うと冷凍庫を開けることさえ怖かった。
 
最終的に、当時一人暮らししていた家を引越しをする日に全て処分するまで、わたしは冷凍庫で大事に大事に保管することとなる。
 
あれから7年。母は生きている。しかし、喋ることも出来ず、家に帰ることも出来ない状態である。
 
こうしてあの日以来、母の愛情弁当がたくさん詰まったお宝BOXがわたし宛に届くことは無くなった。
 
しかし……
 
「ピンポーーーーーン」
 
わたしは今日、段ボール箱を2箱受け取った。
差し出し人は父。
 
頑丈に止められたガムテープを剥がすと、そこには2箱びっしりとみかんが詰まっていた。
 
そう、わたしはあれからお宝BOXを受け取る事はなくなったが代わりに父からの詰め込みBOXを受け取っている。
 
父が母の代わりにわたしに送ってくれるのだ。
そしてこの中身はいつも、食べきれないほどの同じ食材(今回ならばみかん前回はキウイ、その前はさつまいも)がめい一杯詰め込まれている。
 
不器用な父なりの最大限の愛を感じるBOX。
 
今日はなぜか、1個だけみかんにりんごが紛れていた。どんな気持ちでこのリンゴを父はダンボールに入れたのか。
 
母を失ったことで知った、父の愛。
 
母の愛はお宝BOX、父の愛は詰め込みBOX。形は違えどそれぞれの愛を知って私は今日も生きる。そして、私は我が子たちにどんな私の愛の形を残そうか……
 
 
 
 
***
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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