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メディアグランプリ

その日から、私は靴が選べなくなった

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡邊 眞也(スピード・ライティングゼミ)
 
 
25歳の時、初めて名古屋に行った。その日から靴を自由に選ぶ事ができなくなった。
 
その日まで、靴にはこだわりがあった。洒落た靴が好きだった。ファッション誌で靴の特集を見ると、靴屋をチェックしていた。買うのも、代官山や渋谷で買っていた。つま先の細いイギリス靴が多かった。かっこよく見えたからだ。
 
当時通い始めたばかりの呼吸法教室の師匠が、「なべちゃん、靴を買いに名古屋に行け」と突然言い始めた。
「今の若いうちは大丈夫だけど、そのうち、膝、腰、首とやられるぞ」と脅された。
 
足が扁平足だというのだ。自分にはその意識がなかった。座って、足の裏をじっと見れば、一応アーチはある。扁平足というのは、アーチのないことだと思っていた。
 
師匠の言うことには逆らえず、指定された名古屋の靴屋に予約を取り、行くことにした。「ちゃんとK社長の予約はとれよ。彼で駄目なら、ドイツまで行くしか無い、ってくらいの腕だから」と言われた。
 
腕だから、というとオーダーするのかな、と思って確認した。木型から職人にオーダーした靴は数十万する。そんな金はない。どうやら違うらしい。よく分からないまま名古屋に行くことになった。
 
繁華街の栄からも近い上前津に、その靴屋はある。1階の店舗で、「予約している渡邊ですが」と告げると、4階に案内された。いよいよ閉じ込められて、高いものを買わされるのではないか、とビビった。
 
出てきたK社長は、圧のある顔だった。聞けば、師匠が名古屋で働いていた時からの付き合いらしい。
 
師匠には、「靴は自分で決めるんじゃない。K社長にお任せにするんだ。特に初回はな」と言われていた。K社長には、挨拶の後、カジュアル用と仕事用の靴が一足ずつほしいと告げた。
 
最初にフットプリントを取った。カーボン紙を紙で挟んで、その上に立ち、足の形とどこに体重がかかっているかを測る。スタッフが私の足に反って線を引いた。
 
フットプリントを見たK社長は、「中度から重度の外反扁平足ですね。アーチがあっても使えてない状態です」
 
自分ではガニ股と思っていた。つま先が進む方向に平行ではなく外側に開いてたからだ。でも、違ったらしい。足首がよじれ、アーチが使えてないとのことだった。
 
フットプリントを見せられて、説明されて、ようやく自分の状態が理解できた。
「すいません、師匠。正直、師匠が何言ってるか理解できてなかったです」と心のなかで師匠に謝った。
 
出されてきた靴を見て、ガッカリした。
カジュアルの靴の方は、大手のスポーツシューズメーカーのものだった。同じメーカーのジーンズによく合うシューズは持っていた。同じ大きなロゴが入っているのに、勧められた靴は圧倒的にダサかった。
 
色は黒一色。がっしり重厚なイメージで軽快さが全く無い。ウォーキングシューズとの事だった。K社長によると、元々、ウォーキング用というジャンルに力を入れているメーカーとのことだった。靴の芯がしっかりしていて、自分のような足に歪みのある人間にはいいらしい。
 
ビジネス用のシューズは、これもまた当時はかっこ悪く思えた。今まで好きだった先の細いイギリス靴とは違って、つま先が丸かった。ドイツの健康靴メーカーのものと説明を受けた。カジュアルの方と違い、メーカー名自体が初耳だった。ドイツの靴のメーカーなんて、サンダルで有名なビルケンシュトックしか知らなかった。
 
カジュアルの方は、インソールをフルオーダーする必要があり、後で郵送となった。ビジネス用の靴は、インソールをちょっと加工するだけでよい、と言われた。20分くらいして出来上がった。
 
「仮で作りました。体重があるから、全体に厚みをもたせました。特に足裏の支える必要がある所を厚めにしたので履いてみてください」と言われた。
 
驚いた!
つま先が進行方向にまっすぐ。今まで、逆の「八の字」だった足が、平行になっていた。
試しに歩くと、地面をちゃんと蹴って歩けている感覚が分かった。
 
「今日が初回なので、様子を見ます。よく歩いて、2日後以降にまた来てください。これは、あくまでも仮の直しです」
 
今までの自分だったら、名古屋まで来て一発で直しまでやらないのかよ、と思ったに違いない。「クララが立ったの」くらいの衝撃を受けていた自分は、はい、と大きく返事をした。
 
家には10足以上の革靴がまだあった。名古屋で買ったビジネス用の靴は一足なので、当然回らない。1日休みのハードローテーションでも、火曜日、木曜日は今までの靴を履かざるを得なかった。
 
初めての靴は、チェックのために3ヶ月後以降にまた来てください、と言われていた。3ヶ月後、すぐにまた名古屋を訪れた。
 
「スゴイ踵の減り方ですね。でも、これは足の代わりにダメージを受けてくれた、ということです」K社長が厳しい職人の目で私の靴を見ながらの説明してくれた。その説明にK社長への信頼が増した。この人は信じられる。
 
そして、靴をまた買った。名古屋で靴を1足買うごとに、今までの靴を1足捨てていった。半年に1度行くペースが数年続くと、靴は全て名古屋で買った靴に入れ替わっていた。
 
本当に靴に、姿勢に悩む方がいれば、何かの機会に名古屋に行ってほしい。
 
だいぶ足がマシになってきた今、浮気して他の靴を履くこともある。1日中履くと足が痛くなる。他の靴には本気になれない。
 
 
 
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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