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君は愛媛のタルトを知っているか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:いづやん(スピードライティングゼミ)
 
 
「え、愛媛のタルトってロールケーキみたいなやつなの? タルトじゃなくない?」
 
知人にそう言われて、はたと気がついた。そうか、タルトは世間一般では洋菓子のタルトを思い浮かべるのか。
 
僕の両親は愛媛県出身で、実家で暮らしていた小さい頃は、季節になると親戚から大量のミカンが送られてきたものだった。正直、毎年うんざりするくらいだった。
 
だが、愛媛のもので「これだけは未だに心から好き」というものが、「タルト」だ。
 
愛媛のタルトは、いわゆる洋菓子のタルトとは似ても似つかない代物で、薄いスポンジ生地でこしあんを巻いた、あんこのロールケーキのようなもの。
 
愛媛ではこのタルトが銘菓として様々なメーカーから出されている。
 
僕は特に老舗の「一六本舗」が作っている「一六タルト」に目がない。
 
最近は一切れずつの個装のものも種類豊富に売られているが、本来の一六タルトはロールケーキ状の長い一本のままで売られているし、僕はそっちの方が遥かに好きだ。
 
箱を開けるとしっとりとした肌目が細かく鮮やかな黄色のスポンジが現れる。スポンジに覆われているから軽いかと思いきや、持つとずっしり重く、その重さにまた期待が高まる。あんこがたっぷり入っているのが分かるからだ。
 
切り分けるのに包丁が必要かって? 気遣いは無用。老舗の心配りは食べる前から始まっている。タルトを覆うビニールを剥がし、長いタルトの端を少し押せば、2センチずつ切れ目が入っていることに気がつくだろう。
 
スポンジを潰さないように手で慎重に端を持って一切れ離せば、もう食べられる。待ちきれないファンの心がよくわかっているし、うっかり切れない包丁でスポンジとあんこを無残に押しつぶす心配もなくなるだろう。
 
綺麗にカットされた断面からは、これまたじっくり丁寧に作られたこしあんが見えるだろう。
 
皿に盛るのさえ待ちきれずに、僕はいつも最初の一切れをそのまま食べてしまう。
 
ふんわりとした甘さ控えめの生地と、これまた繊細な仕事の賜物であるなめらかなこしあん、それを柔らかくまとめる柚子の香り。あらかじめカットされた幅は、「一六タルトはこの厚さで食べるのが一番美味しいですよ」と教えてくれる。
 
家に僕一人だけなら、このロールケーキ状の一六タルトをすぐさま一本の半分くらい食べてしまうほどに好きだった。
 
だが、この愛媛のタルト、当たり前だが関東ではほとんど馴染みがない。というか、四国以外ではあまり知られていない。実にもったいない。
 
愛媛に行った時に、いくつかのスーパーに寄ってみたが、色々な種類のタルトが売られている。値段も結構ピンキリだ。
 
以前試しに結構安めのものを買って食べてみたのだけれど、スポンジ生地も餡も、なにもかも僕が好きな一六タルトとは違っていて失望した。愛媛で色々売られていても、僕が好きな一六タルトじゃなかったら意味がないのではないか。
 
「それなら六時屋のタルトはどう?」
 
そんな時に愛媛在住の知人に言われた。
 
どうやら、愛媛タルトの最高峰は、一六本舗と六時屋が二分しているようだった。元祖と本家のようなものだろうか。
 
実は一六タルトは、関東のスーパーでも時たま置かれていることがある。そんな時は迷わず買うのだけれど、六時屋のタルトが置かれているのを見たことがない。名前も知らなければ食べたこともなかったのだ。
 
だが、その機会は突如訪れた。
 
「結婚おめでとう! これ、色々入ってるからどうぞ」
 
友人が、色々な地方のおやつやらお酒を詰めたプレゼントを結婚のお祝いにくれたのだが、その中に、六時屋の包みが入っていた。
 
「ついに、一六タルトのライバル、六時屋のタルトを食べられる時が来たのか!」
 
友人が帰った後、期待半分、恐れ半分と言った面持ちで、その金色に箔押しされて一六本舗よりも高級そうに見える包みを開けてみた。
 
果たして、中から現れたのは、確かにロールケーキ状のものだったのだが、タルトとは少し違ったものだった。
 
「ビスキーロール……? タルトじゃない??」
 
包装を開けた箱にはそう書かれていた。持ってみると、タルトよりもさらにずっしりしている。
 
切れ目は入っていないので包丁で切ってみるが、中はうずまき状のあんこではなく、なんとたっぷりのキャラメルクリームだった。
 
おそるおそる食べてみると、タルトの奥ゆかしい甘さとはまったく違って、しびれるようなキャラメルの甘さが押し寄せてきて、ちょっと頭が痛くなるくらい。お供には濃い紅茶かコーヒーが必要だ。
 
だが、これも美味い。そして、これはこれで唯一無二のお菓子だった。
 
このビスキーロール、甘さも味わいのベクトルもタルトとは違っていたので、結局、自分の中での一六本舗と六時屋タルト勝負はまたもお預けとなってしまったが、こんな美味いものを作るところのタルトなら、きっと好みの味だろう。今度愛媛に行くことがあったらちゃんと買ってこよう。
 
そう思い、昨年の夏に愛媛に行ったのだが。
 
「ええっ、今こんなの出てるんだ!?」
 
通りがかった一六本舗のお店に入ったら、栗や抹茶、ミカンなどの一六タルトが出ているのを見てしまい、結局それらをたくさん買ってしまったがために、未だに六時屋のタルトは買わず仕舞い。
 
人はそうそう、冒険できるものではないらしい。
 
 
 
 
***
 
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2020-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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