メディアグランプリ

恩送りの夢


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ひとのわ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「先月独立したんですけど、
今後のことを相談にのってもらってもいいですか?」
同業の真さん(仮名)から久しぶりにご連絡をいただいて、
私はちょっとおしゃれなお店のランチを予約しました。
 
独立を決意した経緯やこれからやりたいお仕事、
大事にしたい思い、将来に向けた壮大な夢……
人生の舵を大きく切った人特有の、
晴れやかで勢いのあるお話を聴いていると、
彼が成功するイメージがどんどん膨らみ、一緒にわくわくします。
 
お祝いにごちそうしようとすると、
「貴重な時間をいただいて相談にのってもらったのに」と
恐縮されるので、
「私も、同じことをしてもらってきたから」と
とっておきのエピソードを披露しました。
 
私がフリーランスになってまもないころ、
憧れていた麻美先輩(仮名)のお仕事をお手伝いする機会を
いただいたときのことです。
お客さまに接する姿勢やわかりやすく説明する様子などを
お隣でたっぷり学び、夕食までごちそうになったのです。
「アシスタントをさせていただけるだけでありがたいのに、
ここは割り勘にしてください」
「いいのよ。私も、同じことをしてもらってきたから」
 
同じ女性から見ても惚れてしまいそうなほどクールに微笑んで、
お支払いをすませて立ち去られました。
 
なんてかっこいいのでしょう。
 
後日お会いしたときにお返しをしようすると、
「私には返そうと思わなくていいから。
将来、後輩ができたら、同じことをしてあげて」
 
あまりにもシビレるセリフに声もことばも出なくなり、
ただただポカンと見つめている私に、
「私なんて、今までどれだけ大勢に助けてもらったことか」と
先輩の新人時代のことをいくつか話してくださいました。
ベテランの方々からお仕事を回してもらい、
失敗のしりぬぐいをしてもらい、
どんなにお世話になっても、どの方も口々に、
「お礼なんていいから、次の人に同じことをしてあげて」
とおっしゃったそうです。
「自分も同じことをしてもらってきたから」と。
 
「私は、麻美先輩の先輩の、そのまた先輩の……
面識もない大勢の方からのご恩を受け取っているんですね」
 
「この業界は、そうやって順番に回っているのよね。
私だって、やっと返せるようになったんだから、
今は気持ちよく受け取ればいいのよ」
 
ある日、友人に勧められて、
映画「ペイ・フォワード 可能の王国」を観ました。
少年が3人に親切をして、その人たちがまた別の3人に親切をして、
街中に連鎖していくというストーリーでした。
 
これ、麻美先輩から教えていただいた世界そのものだ!
私がしてもらったことは、ペイ・フォワードだったのか。
 
スクリーンの向こう側のお話ではなく、
自分の身近な世界で現実に起こっているという事実に、
驚きと感動で心が震えました。
 
私の夢が1つ生まれました。
いつか私も、こんなことができるようになりたい。
 
心の中でそう誓った後も、
「こんなこと」ができそうな機会はなかなか訪れません。
何年たっても、何歳になっても、
人やお仕事を紹介していただいき、
知らないことを教えていただき、
相談にのってもらった方にごちそうしてもらい、
ご恩を受け取りっぱなしの年月が続いています。
 
いつまで未熟なままなのだろう。
受け取ったご恩を次の誰かに送ることは、
私にとっては見果てぬ夢なのだろうか。
 
あ!
レストランで、熱く語った先輩とのエピソードに
「へぇ~」としきりに感嘆している真さんの表情を見て、
気がつきました。
私、今、「こんなこと」ができるようになっている?
 
いやいや、ふつう、お店を予約する時点で気づくでしょう。
せめて、話し始めた時点で気づくでしょう。
と、心の中で自分に突っ込みましたが、
本当にその瞬間まで気づかなかったのです。
 
相談したいと言ってくれる相手がいるからこそ、
受け取ってくれる相手がいるからこそ、
はじめて、ご恩のバトンが渡せるのですね。
 
真さん、ありがとう。
私に、機会を与えてくれて、ありがとう。
 
恩を送ったはずなのに、
逆に、私の方がもっと大きなものを受け取ったような感覚が
身体の中に残っています。
自分の手を離れていくどころか、
先輩方から受け取ったご恩が1つ1つ息を吹き返したように
私の全身を駆け巡っているような気がします。
 
数年ぶりに、麻美先輩にお会いしたくなりました。
 
今お会いしたら、今度は対等に、割り勘にしてもらえるでしょうか。
それともまた、ご恩をいただくのでしょうか。
 
きっと、「やっと夢が叶ったんです!」と興奮気味に語る私に、
また「ふっ」とクールに微笑んで、
想像もつかないステキな近況を聴かせてくださることでしょう。
 
「やっと追いついたかなと思ったのに、
また先輩は、はるか遠いところにいらっしゃるのですね」と
憧れの上書きをさせてください。
 
その背中を見上げて、私もまだまだ前に進みたいです。
 
 
 
 
***
 
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2020-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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