メディアグランプリ

あたたかい苦労


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡部梓(ライティング・ゼミ特講)
 
 
ここ数年、冬は、いつも肩こりをはじめ全身のこりに悩まされている。
原因は「動く湯たんぽ」だ。
「動く湯たんぽ」は毎晩決まって、こう私に言う。
「おかあさん、一緒のおふとん入ってもいい?」
 
この「動く湯たんぽ」が二人いる。私の息子と娘である。
そんな湯たんぽたちは、私にぎゅっと抱きついて寝る。子供は体温が高いので、本当に温かい。布団に一緒に入ってくれると、あっという間に布団が温まる。
 
だが問題もある。私の布団はシングルサイズなので、大人一人と六歳と三歳の子どもが入ってしまうともうぎゅうぎゅうだ。寝返りも簡単にできるものではない。
更に困ったことに、私の子供たちは枕の下に手を入れるのが好きだ。枕に頭を預けても頭がぼこぼこしていて、どうにも落ち着かない。
 
子供たちは寝相が悪い。特に三歳の娘は私の布団と枕を寝ながら奪いにかかってくる。気付けば私の枕の半分以上を娘が占拠している。そのうえ体の向きが大きく斜めになっているので、私が眠れるスペースは布団の二割程度になっている日もある。
 
この斜めになった足が、ちょうど私のお腹に当たる。夜中に何回もキックを繰り出され痛みで起こされることもしばしばだ。夜中に何度娘を自分の枕に移動させてやっても、私の布団と枕に向かって来る。娘はしっかり寝息を立てているのに不思議だ。
この時、私の横で寝付いたはずの息子は、いつの間にか私の布団から大きく移動して寝ている。しかし明け方になると体が冷えるのか決まって私の布団に再度もぐりこむ。そして娘同様、私のお腹にキックを繰り出してくる。
 
毎日こんな調子なので、私は冬の間、眠りが何となく浅い。起きても首や肩がかなり痛い。先日も首を後ろに倒すことができず、「あたたたたたた!」と声が出る始末。
 
しかし子供たちは、ほぼ毎日
「おかあさん、一緒のおふとんに入っていい?」
と聞いてくる。どんなに私にきつく叱られた日でも、このセリフをほとんど欠かさず冬の間言う。夫の布団ではなく、私の布団に入る、という。
 
実を言うと、私は元来子どもがさほど得意なタイプではなかった。子供との関わり方が良く分からない上、子供を持つまで子供が可愛いと思ったこともなかった。だから私の子育てのモチベーションは「子供が可愛いから」ではなく、「自分が子供を育てないと子供が死んでしまうから」だ。
 
子育てを楽しみましょう! 子供と一緒に遊ぼう! という文句を子育てにおいては聞くこともあるが、やっぱり私の中では違和感がある。楽しむというよりも義務感と責任感が先に立つ。とにかく、死なせず、それなりにまともな大人に仕立てる。それが私のミッションだと思っている。
 
上の息子が誕生してしばらくは、その責任に押しつぶされそうになっていた。子供を見ると、可愛いという気持ちより先に「この子の生死は自分の行動次第だ」という強迫観念に似た責任感で一杯だったのを思い出す。そのせいか、私は子供に対して必要以上に冷たく当たってしまったり、義務感でいっぱいの対応を取っていると感じることもある。
 
子供たちは、私が義務感で子育てをしていることを本能で感じ取っているのではないかと思う。なぜなら、私に対しての愛情表現がオーバーかつ、ものすごく多いからだ。
私が少しでも疲れたそぶりをすると、息子は決まって
「おかあさん、大好きだよ」「マッサージしてあげるね!」と、肩もみを始める。
娘も私の眉間にしわが寄っているのを察知すると、「ままぁ~」と言って満面の笑みで甘える。
 
私が子供の時には親に対してそんなに好き好き言わなかったのに、私の子供たちは一日三回以上言っていると思う。子供たちが一緒に私の布団に入ろうとするのも、この愛情表現の一環ではないかと思われる。
 
実際、私より子供に対する苦手意識が少ない夫の布団にはあまり入らない。が、夫が
「子供たちがお父さんの布団に入ってくれないな」
とぼやくと、息子が夫の布団へいそいそと移動していたりする。子供たちの本能的に親を見る力にちょっと怖くなることもある。
 
子供たちの愛情表現が大きいおかげで、私の精神は保たれているような気がする。どんなに怒っても、家事や育児が上手くいかなくても、
「おかあさん、大好き」
「おかあさん、一緒のおふとん入っていい?」
の言葉に頬がゆるんでしまう。
 
子育ては手がかかる。つらいことも多くある。責任は重大だ。でもその分私の子供たちはとびっきりの愛情表現で私を和ませる。子供は親のことをよく見ていると痛感させられる。
私のところに来るべくして子供になってくれた息子と娘なのだろう。そんな彼らに怒ってばかりいないで、感謝しないといけないなと思う。
 
あと数年もすると、「うるせぇ」とか「くそばばあ」とか言うようになるのかもしれない。
布団が狭いのも、動く湯たんぽを感じながら眠るのも、夜中にキックを繰り出されて体中痛くなるのも、きっと懐かしく思い出す日がくる。
義務感と責任感で一杯だった日のことを思い出し、子供の成長を嬉しく寂しく思いながら一人で布団に入る日もきっといつかやってくる。
 
子育てに義務感で一杯、子供が苦手だった私でも、自分の子供は大好きだ。今日もまた、一緒に布団に入ろうと思う。今しかない、このあたたかい苦労をしっかり味わっておきたい。
 
 
 
 
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2020-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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