メディアグランプリ

「はじめての自転車」は世代を超えて進化していた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:杉本 知隆(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「お父さん離していいよ……。乗れた、乗れたよー」
 
バランスを崩して転んでしまわないかと心配をする父親をヨソに、一発で自転車に乗ることに成功したのは、もうすぐ小学生になるうちの娘でした。
「まずはペダルなしでバランス感覚を掴んでから練習すると良いよ」
自転車屋に言われていたのを忠実に守ってきた私と娘。
その日は、バランス練習のため外していたペダルを取り付けてもらい、いよいよ補助輪なしで自転車に乗る練習をしよう、という日でした。
 
ところがそんな日に限って、今年一番の寒さ。雪がチラつく中での練習となりました。
今日は寒いし別の日に改めようと提案するも、本人はやる気満々。別の日に改めるどころか、はじめは一旦家に帰って公園で練習する予定のはずが、すぐにでも練習したいという本人の希望で、そのまま自転車屋の前の歩道で練習することになったのです。店の前で人も通るから、避けたかったのですが、本人の熱意と、雪の日のせいか人通りもそんなに多くなかったので、折れて店の前で練習することとしました。
 
私の心配とは裏腹に、こぎ出しこそまだ不安定なものの、一発で成功させてしまったのです。
 
そもそも自転車の練習をさせようと思ったのには理由がありました。
娘は三人兄妹の長女で、一番下の弟が今1歳をすぎて歩き始めています。そうなると、お出かけの際に、三人兄妹の二人までは子乗せ自転車に乗れますが、一人はあぶれてしまいます。
長女が一人で自転車に乗れるようになれば、家族みんなで自転車で出掛ける時に楽になるのです。
というのは、実は半分本音で半分建前です。
 
本音のところは、娘の自転車の練習という「通過儀礼」への憧れにあったのだと思います。
自転車一人乗り練習は、子どもがまた一つ親から自立する、「通過儀礼」です。
その一人乗り練習と言えば、何度も何度も転倒を繰り返しながらも、諦めずに続けた結果、最後ついに乗れるようになる、そんなことを想像します。
 
実際私も、父親に付き添われて練習をして、やっとこさ乗れるようになった記憶があります。
「お父さん離さないでね、まだ離したらダメだよ」
「離してないよ」
「本当に?」
そっと振り向くと、父親の姿は小さくなっていました。私は一人乗りに成功したのです!
少し脚色していますが、誰もがそんなイメージをこの「通過儀礼」に抱いているのではないでしょうか? それを来年度小学校に入学するまでに経験しておきたかったのです。
 
なので、一発で自転車に乗れたというのは、驚きでもあり、肩透かしでもありました。
通過儀礼とは幻だったのでしょうか。知らず知らずのうちに植え付けられた「はじめての自転車」に対するイメージなのではないか。意外と自転車なんて苦労せずとも、誰でも乗れるものではないのかとも思えてきました。
 
対する妻は、いたって冷静でした。
「ストライダーに乗っている子は、一発で成功するみたいね」
 
ストライダーとは、ペダル無しの自転車です。チェーンやペダルがついた自転車に乗る年齢よりも、さらに前の未就学児を対象にした乗り物です。ペダルがないので、地面を蹴って蹴って乗りこなして遊びます。最近の幼児はみんな持っているんじゃないかというくらい普及していて、暖かい季節に大きめの公園に行けば、何人かはこのストライダーで遊んでいる風景が見られるでしょう。
 
自転車屋さんに教えてもらったペダルなしで乗るのと同じで、ストライダーに乗ることで知らず知らずのうちにバランス感覚が養われていくのです。
 
ここで改めて自転車屋がオススメする、はじめての自転車の乗り方を振り返ります。
まずは補助輪付の自転車でペダルをこぐ練習をする。補助輪付で乗りこなせるようになれば、次はペダルを外して、補助輪も外し、自転車に乗って左右のバランスを取る練習をする。最後に、ペダルを付けていよいよ自転車に乗る。
 
それぞれのステップはそんなに難しくありません。補助輪が付いていれば、初めからある程度乗れるでしょうし、バランスを養うだけなら、コケたりすることもありません。
しかも、最近はストライダーのおかげで自然とバランスが養われるので、自転車屋がオススメするペダルの着脱をすることなく、一発で成功する子どももいることでしょう。
 
私たちがイメージする自転車についての「通過儀礼」はもはや過去の遺物なのです。
今や、自転車を乗るのに、膝を擦りむく子どもはいないのかもしれません。
 
子育てにおいて、親と祖父母との対立の原因のほとんどは、世代間の子育ての常識の違いです。子育ては、世代を超えて進化するのですが、祖父母の世代はその新常識に追いついていないのです。
そんな進化した子育てが子どもの成長を促します。
私が思っている以上に早く、子どもは親の元を離れていくのでしょう。
自転車に乗って、どんどんと遠く、小さくなっていく娘の姿を見ながらそんなことを思いました。
 
 
 
 
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2020-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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