メディアグランプリ

妻が離婚を選ぶとき


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺まほ (ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
夫婦生活においては、お互いにパートナーに対して多かれ少なかれ不満があると思う。現代でも家事や育児を担っているのは女性が大半ということを踏まえると、こと3歳以下の小さい子供がいる家庭の妻は、夫に不満がないという人はほとんどいないのではないだろうか?
うちの妻は何も言わないから大丈夫。
果たしてそうだろうか?
口にしない、イコール、何とも思っていない、ではない。
 
私自身も、子供たちが小さいころは、夫の些細な言動にイライラしていた。
例えば、トイレの便座の蓋を閉めてくれない、食べたお菓子のごみをゴミ箱へ捨ててくれない、などごく些細な事なのだが、これが毎回となるとイライラするのだ。
下の子が乳児の頃はゴミ捨てに行くのさえ大変だった。幼児の上の子を家に置き去りにするわけにもいかず、前に抱っこ紐で下の子を抱っこ、右手で上の子の手を引き、左手でゴミを持つという形だ。上の子は平気で手を振り払って走り出そうとするし、子供を抱っこした状態の足下の視界が狭いなかでゴミをもってそれを追いかけるのは一苦労。
このように子供が小さいときは、ちょっとしたことをするのも億劫になる。加えて自分ひとりの時間が少ないので心に余裕がないこともイライラに拍車をかける原因だ。
 
一度、古新聞の回収日に夫が外出するというので、10キロ近くある古新聞を束ね、淡い期待を込めてドアの前にドンッと置いておいたことがある。
しかし、夫は見事にあっさりとそれを乗り越えて出かけて行った。
「はあ」ため息。
ちなみに私が期待していた回答はこれだ。
「ああ、この重さを子連れで捨てに行くのは大変だろう。古新聞は集合ポストの下に置くだけだしついでに行けるな。持って行ってやろう」と妻の気持ちを慮り、何も言わずに持っていき捨てる。
これはできすぎだとしても、
「これ捨てるの? 持っていこうか?」と尋ねてくれたら上々。
 
夫たちからすれば、「面倒くさ。はじめから言葉にして伝えてくれればいいだけだろ!」と言いたいのも理解はできる。
しかしだ。
妻もたまにはペットの猫のようになりたいのだ。
猫を飼っていれば、その子が何を今欲しているのか表情やしぐさから読み取るであろう。それを妻に対してもしてほしいのである。子連れの家事は大変なのだ、少々夫に甘えてもいいではないか。
これが、妻が夫に対して抱く不満の根底にあると思う。
 
些細な不満なんて大した問題にはならないと思っているかもしれない。
しかし、心はダムのようなもの。不満という名の水が溜まり続け、適切に放流しなければ決壊することもあり得ることを先日知った。
 
その日、私と友人は、カフェで、所属する団体の子供たちへのプレゼントに関する打ち合わせをしていた。何を注文しようかと考えているところに、彼女がこう問いかけてきた。
 
「ねえ、幼稚園にシングルマザーの人っている?」
 
彼女は、スタイルがよく10人に8人は振り返るのではないかと思う美人。物腰が柔らかく素敵な笑顔で控えめに意見を述べる姿が周りの女性達にも評判だ。
きっと素敵な家庭を築いているのだろう、周りにそう思わせる雰囲気が彼女にはある。
 
そんな彼女が妙なことを聞くなと思った。
 
「そうね……。そういえば、上の子が年長組の時に『私はシングルマザーです』って言っていた人がいたかな」
「そうなのね、いるんだ。よかった」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「私ね、そうなろうと思って。もう弁護士もたてちゃった」
 
離婚……。
まさかと思う以上に、「そうなろうと思って」という前向きな発言に驚いた。
彼女にはまだ小さい子供が2人いるが、もはや後戻りはしないぞという強い意志を感じた。そこまで強く彼女に思わせる何かがあったのだろうか?
 
「離婚するの? ……すごい決断ね。その、ご主人と何かあったの?」
「決定的な何かがあったわけじゃないの。4か月くらい前かな、お金の使い方のことでちょっとね。向こうが後で話すって、いつまで経ってもきちんと話してくれなくて。私と向き合うことから逃げているの。それで子供たちを連れて実家に帰って、今は別居してる。振り返ってみたら、私いろんなことを我慢してたなって思うの。もうこの人と一緒に暮らしててもね、楽しくないし、ずっとこうなのかなって思うとね。ひと月くらい前に修復したかったのかなって雰囲気は出てたのだけど、また些細なことで言い争いになっちゃって。向こうが弁護士立てるぞとか言うものだから、それならこっちが先にって弁護士たてちゃったの。そうしたらもう溝は広がるばかりよ。性格の不一致ってやつかな、不満が積もりつもった結果よ」
 
彼女の心のダムは一気に決壊してしまったようだった。
浮気や不倫などの嵐がなくても、怒涛のごとく流れ出した不満という名の水が、まさにエネルギーとなって迷いなく離婚に突き進んでいく印象を受けた。
控えめなように見える彼女でさえ一気に進んでしまうのだと少し恐ろしかった。
 
決壊を迎えたくないのであれば、何らかの方法で不満を流す放流が必要で、互いに作業手順を示し、その手順に従った行動が必要だったのだろう。
それは夫が妻の考えを汲み取ろうと努力することであるかもしれないし、妻が夫に対して気持ちを伝えることなのかもしれない。
猫になりたい妻と矛盾するが、不満を夫に口にせずわかってほしいと甘えすぎるのもまたよくないのだ。
長く夫婦生活を送りたいのであれば、シンプルなことだが喧嘩しようともお互いに不満を口にする。大切なのは互いを思いやる気持ちとコミュニケーション、両方だ。
 
夫にも彼女の決断を話した。
「ふーん、離婚の理由なんてそんなもんなのかもね」
のん気なことで。
もうすぐ月末。古新聞の回収が迫ってきた。また猫になってみようか?
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/103447
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事