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文章は人生の物理学だ!


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記事:鈴木亮介(スピード・ライティングゼミ)
 
 
「ma=F」
これは運動方程式と呼ばれる、最も基本的な物理学の方程式である。
高校で物理を選択すれば、まず初めに習う式だ。
物理学では、このような基本的な方程式を、個々の事象に当てはめて、物体のふるまいを解析していく。
最近気づいたのだが、文章を書くことは、物理学の思考と非常によく似ているということだ。
 
まず運動方程式ma=Fについて、簡単に説明しよう。
この式の意味するところは、重さmの物体に、大きさFの力を加えると、大きさaの速度変化をもたらす、ということだ。
具体的に、箱を手で押す動作を考えてみよう。
例えば止まっている重さ1(= m)の箱を、1の力(= F)で押したとする。運動方程式ma=Fによれば、箱は1秒後には速さが1になっている(a=1)、ということだ。
こう聞くと、とても単純な式である。
 
しかしながら、これだけでは全く実体を反映していない。
例えば、地面との摩擦は無視できると考えている。空気抵抗も考えていない。
地球上にいる限り、摩擦や空気抵抗は不可欠だろう。
じゃあ、宇宙空間ならどうだろう? 宇宙空間なら地球の重力や空気がないので、「箱を手で押す」という状況では、空気抵抗や摩擦はほとんどないと考えてよい。
しかしながら宇宙空間であっても、どんな2つの物体にも互いに引き合う力、つまり万有引力が働いているので、たとえ小さな塵があっても厳密には箱の運動に影響を及ぼしてしまう。
だから厳密にma=Fが成り立つのは「宇宙空間で箱が1個だけある」という状況しかありえない。
もちろん摩擦や空気抵抗を考慮して、式を立て直すことはできる。が、箱の大きさや手で押したことによる箱の変形もあるかもしれない。そう考えると「箱を手で押す」という動作を厳密に式に落とし込んで、箱のふるまいを計算するのは至難の業だ(大学物理までいけばできるかもしれないが)。
 
じゃあ、ma=Fは全然実用的じゃないじゃん! となるかといえば、全くそんなことはない。
 
確かに「箱を手で押す」という1つの事象を正確に記述することは難しいが、ma=Fと単純化したことで、運動方程式の応用範囲は格段に広がる。
例えば「手で押す」だけじゃなく、「ゴム紐で引っ張る」でも「バネで押す」でも、同じくma=Fが使える。また物体も、箱でなくてもよく、ヒトでもゴリラでもいい。
要は、モノと力の関係に関して全般的に、ma=Fは成り立つのだ。
原子レベルのミクロな世界と、光の速さで動くモノの世界を除けば、この運動方程式ma=Fの組み合わせで記述できる。
余計なディテールを省いて、本質的な要素だけを抜き出したからこそ、ma=Fは普遍性を獲得できたのである。
物理学において、この複雑な現象を単純化する操作を「モデル化」という。
 
人が文章を書くときも、「モデル化」が行われている、と僕は思う。
つまり実際にはカオスな出来事のはずなのに、頭の中で整理して必要なことだけを抽出している。
 
例えば、受験の合格体験記の文章を想像してほしい。
1年間の受験勉強を経て、ある大学に合格したとしよう。
ただ実際には、受験期間中に勉強しただけじゃなく、友人と遊ぶこともあっただろうし、受験に関係ない本を読むこともあっただろう。また後から考えると、失敗した勉強法を実践していたかもしれない。
さらに「合格した」といっても、一か八かで答えた選択肢が偶然にも当たっただけかもしれないし、もしくは勉強したことと全く関係ない小論文の評価が意外にも良かっただけかもしれない。
だが合格体験記では、「〇〇を勉強したおかげで、〇〇大学に合格しました」というストーリーを作ってしまう。
勉強内容と合格という2つの内容だけを、頭の中で結びつける。
これは、まぎれもない「モデル化」である。
 
さて、過去の経験を「モデル化」したとして、それは実際の経験を反映してないから、無意味だろうか? 話の流れからお察しだろうが、全くそんなことはない。
仮に過去に経験したことが些末な出来事の集合体だとすれば、僕らはそこから何も生かせないだろう。経験をある程度単純化して、一定の「方程式」を導くことで、応用可能な経験則として自分の中にストックできる。
自分の経験に普遍性をもたせるには、「モデル化」することが必須なのだ。
「学校生活で経験したことを、仕事でも生かしたい」
そういう言葉は、経験から得た知恵が一般化できると思っているからこそ出てくる。
つまり「文章を書く」とは、混沌とした人生の中から本質的な要素だけ抜き取って、それらの関係を記述することだ。
その過程で導き出した「方程式」がこれからの自分に生きるなら、文章に書いて経験を「モデル化」することは、むしろ積極的にやるべきだと思う。
 
浪人時代に、予備校の先生が言っていた。
物理学とは、未来予測の学問である、と。
つまり物理学とは、ある条件からその後の物体のふるまいを予測していく学問である、ということだ。
もし文章が人生の「物理学」であるならば、文章を書くことで、僕らも未来予測ができるのかもしれない。
ある経験を文章に書き残すことで、脳内に経験則として溜めておく。
そしていつか同じような経験をしたときに、過去の経験と類似性を見つけて、経験則に当てはめて未来予測をすることができる。
もちろん今直面していることが、過去に経験したものと全く同じというわけではないだろう。
でもよくよく今の状況を分析して要点だけを抽出すれば、「ああ、あのときと同じかも」と思えるかもしれない。もしくは、「方程式」の組み合わせで今の状況を説明できるかもしれない。
そんなとき、過去に書き溜めた「物理学」が生きてくる。
 
さあ、過去の保存だけでなく、来たる未来に応用すべく、文章を書くとしようか。
 
 
 
 
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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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