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メディアグランプリ

雑談ができないという雑談で仲間ができた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:さかの(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「趣味は何?」
「休みの日何してる?」
 
この手の雑談に、私はいつも苦戦する。
「趣味」と言えるほど詳しくないし、「何してる」と言うほど特別なことはしていない。休日なんて、ゆっくり起きて、買い物行って、溜まりに溜まった家事を消化して、ご飯食べるぐらいで大抵終わる。でもそれじゃ、わざわざ聞いてくれた相手に悪いから何か答えなければ……。
無理矢理ひねり出した答えが、 「YouTube見てます」
うーん……。間違えではないけど、何か違う気がする。盛り上がりに欠ける。
 
会社に入って間もない頃、とにかく休日のことを聞かれるのが苦手だった。特に私の所属していた部署では年齢が一回り二回り離れている上司と先輩社員、嘱託のおじさまばかりで、なかなか共通の話題も見つからない。当時家にテレビがなかったので、テレビの話もできないし、結婚も出産もしていないので、子育てや家族サービスの話もとにかく聞き役に徹するしかない。
 
「ドラマ」「ゴルフ」「投資」「ふるさと納税」このあたりが鉄板ネタだった。
特に、部署が秘書室だったこともあり、雑談と言えどやはり社長を立てなければならない。社長が大のテレビドラマ好きだったので、ドラマの新クールに合わせて、担当決めをし、必ず誰かしらが話を合わせられるように対策をしていた。(テレビを持っていない私は視聴担当は免除されたが、本好きを公言していたのでかわりに原作本を読む担当だった。)
 
そういうわけで、私は雑談タイムが始まるたびに、妙な緊張をしていた。
 
最初は「そのうち慣れるだろう」と思っていたが、日を追うごとに、まるで別の星へ来てしまったかのような感覚に襲われるようになっていった。さすがにこれはまずいと思い、私はある人に雑談への悩みを打ち明けることにした。
 
相談したのは、派遣で秘書補佐をしているミキさん。
社長の隣の席に座っている彼女は、どんな話題にもしっかり笑顔で相槌を打ち、振られればいつも「ちょうどいい」受け答えをして、円滑な雑談には必要不可欠な存在だ。私からすれば、雑談のスペシャリストだ。8つ年上ではあるが、部署で一番年が近く、結婚しているが子供はいないので、私とミキさんはよく雑談の中で「若者組」に分類されていた。噂によると前職はアパレル関係で、新卒から勤め続けてきた社員ばかりの秘書室ではかなり異色の経歴の持ち主だった。仕事中、彼女から進んでプライベートな話をすることはほとんどないので、かなりミステリアスな存在でもあった。
 
終業後、二人で食事をすることになった。
開口一番にミキさんから言われたのは、意外な言葉だった。
「さかのさん来てくれて、ちゃんと話聞いてくれる人いてほんと助かってる! 私なんてもう何度も同じ話聞いてるから、新鮮なリアクションするの大変だよ……」
目から鱗だった。私は心のどこかで「何か言わなくては」と思っていたが、どうやら「新鮮な聞き役」の役割は果たせていたらしい。
 
ミキさんの言葉は続く。
「私、地下アイドルが好きで何なら休みはほとんどそれに費やしてるけど、全然言える空気じゃないから「カフェ巡りしてます」とか言ってる。行ってるのアイドルカフェだけど」
これも予想していなかった。どうやらミキさんの「ちょうどいい」受け答えは、自然に生まれてくるものではなく、綿密に作り込まれたものらしい。
 
「でもね、掘り下げられた時にだんだんしんどくなってくるからあんまりおすすめじゃないよ……。完全武装するとね、もうそれをやめるタイミングがわかんなくなってくる」
なるほど。ミステリアスでも何でもなく、単純に、彼女は鉄の鎧を纏っていたのだ…!
 
私とミキさんは、「雑談ができない」という思わぬところで意気投合した。
二人で食事をするのは初めてだったが、「雑談ができない」という話題から、話がどんどん広がった。そもそも「出していい話題」「ダメな話題」の線引きはあるのか、なぜ私たちは「場には合わない話題」と感じてしまうのか、そもそも年代が違うから仕方ないのか、「世間話」をするにも、会社一筋ウン十年のベテランと派遣や新人社員とでは見えている「世間」が違うのか……。
結論めいたものが出たわけではないが、私は久しぶりに会社の人と仕事以外で心からの会話ができたような気がした。まさか「雑談に困っている」というトピックでここまで盛り上がるとは思っていなかった。お互い翌日仕事があるのに、すっかり話し込んでしまい、結局その日は終電帰りだった。
 
その日以降も変わらず雑談は得意ではなかったが、ミキさんと話をしてから雑談への妙な緊張は減った。今までは、如何に周りに馴染んでいくかばかり考えていたが、とことんまで掘り下げた結果、特に解決策も浮かばなかったので、良い意味で諦めがついたのだろう。意気込んでしまったらそれはもう雑談ではない。別に雑談なのだから、肩の力を抜いていれば良い。不思議なことに、そのスタンスを変えてからの方がむしろ雑談を楽しめるようになってきた。
 
そして何より、雑談ができないという雑談がきっかけで、思いがけない仲間が出来た。昨年私はその会社を辞めてしまったが、ミキさんとの交流は今でも続いている。思わぬ副産物である。
 
 
 
 
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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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