メディアグランプリ

雪景色は新しい人生のはじまり


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西田 千佳(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「うわー、まぶしい!」
 
東京出張に向かう新幹線の窓から、まばゆい光が差し込んできた。
久しぶりに、雲一つない青空の中の雪景色を見て、何だか嬉しくなった。
「今回が、最後の出張になるな」
しんみりしそうなものだが、私の心は、窓の外の景色と同じくらい晴れ晴れとしていた。
一つの決心をしていたからだ。
 
大学卒業後、5年勤めた会社を退職した。公務員試験に備えるためだった。
その年に受けた試験は、見事に不合格……
正直、落ちることは考えていなかった。浅はかだったと、深く反省した。
 
翌年は、年齢制限ギリギリ、最後のチャンスだった。
試験に落ちたら……「派遣で食いつなぐか」とも考えた。
そんな時、知り合いから「別の試験も受けてみたら」と勧められた。
「それもアリか」
安易な気持ちで、別の採用試験の願書も提出した。
 
最後の公務員試験に臨んだ。
本命は見事に不合格。
何気なく受けた、別の採用試験は……
なんと、合格してしまった。
それが、今、辞めようとしている仕事だ。
 
飛び込んだ世界は、まさに男社会。女を言い訳に、逃げられるものではなかった。
「女だからできないんだ」と言われるのは嫌だった。女扱いされるのも嫌だった。
上司には、他の男の同僚たちと同じように扱って欲しいとお願いした。
何故か、こんな小生意気な奴の願いは、快く受け入れられた。
 
私が目指した仕事には、女の先輩がいなかった。というより、女がするという前例がなかった。
何とかして道を拓こうと、その部署にちょくちょく顔を出した。
怖い顔をした男の先輩には、「女なんかにできる訳がない」と相手にしてもらえなかった。
そんな言葉にもめげず、自分の意志を貫いた。
7年目にして、やっと念願の仕事に就くことができた。
 
実際は、そんなに甘くなかった。
やりたいのに、できないことが多かった。
 
当たり前だ。経験がなかったからだ。
 
その場にいる以上、やり遂げる以外に、道はなかった。
がむしゃらに、目の前の仕事に取り組んだ。
それができると、自分の自信につながった。だんだんと楽しくなった。
「ずっとこの仕事を続けたい」心からそう思っていた。
 
仕事時間は不規則。タイミングを逃すと、ご飯にありつけない。
仕事が立て込むと、休日出勤も当たり前。
体力勝負の仕事だった。
それでも、好きな仕事ができているという喜びが勝り、全然苦ではなかった。
ドーパミンが出まくっていたせいだろうか、一種のトランス状態に陥っていた。
 
仕事が楽しかった分、自分のことに気を使わなくなった。
美容院は半年に1回。化粧は、眉を整えて、リップクリームを塗る程度。
スーツは戦闘服だと思っていた。もちろんパンツスーツばかり。
マニキュアなんて、最後に塗ったのはいつだったか……
完全に「女」を捨てていた。だが、何も気にならなかった。
 
念願の仕事に就いて3年が経ち、昇任と引き換えに、その仕事から離れることになった。
代わりに、後輩の女性が私の後任となった。
女性のポストが残ったことは、素直に嬉しかった。本心を言うと、譲りたくなかった。
「いつか戻ってくる」そう心に決めた。
 
やはり、現実は甘くなかった。
戻るのに、8年も費やした。
ただ、同じ部署というだけで、同じ仕事には戻れなかった。
 
きっと、私の努力が足りなかったからだ。どこかに甘えがあったからだ。
いろんな考えが、頭の中でぐるぐる回る。
自分の年齢、定年まであと何年……
もう、私には時間が残されていなかった。
そのことに気づいた瞬間、張り詰めていた何かが「プツン」と切れてしまった。
 
今まで、私は何をしてきたんだろう。
「女」を捨てて、仕事に費やした時間は、何だったんだろう。
自分の中で、負の感情が渦を巻く。
雪国の、鉛色をした空が、目の前にどんどん広がっていく。
いつしか吹雪になり、私の視界は閉ざされていった……
 
このままじゃ、絶対ダメだ。
鉛色の世界から抜け出したくて、もがいてみた。
休みの日に、あちこち顔を出してみることにした。
 
そのうち、仕事とは全く関係のない、新しい世界に出会った。
キラキラ輝く人生を送っている人たちと、偶然めぐり逢えた。
 
地元の茶葉で作った「地紅茶」を、地元のスイーツと一緒に楽しむ時間を提供するお姉さま。
筆文字で描く楽しさを知ってもらうために、ワークショップを重ねる私の師匠。
真のボディメンテナンスのために、自分の展開したい事業を追求するお姉さま。
もちろん、天狼院書店の皆さまも、このライティング・ゼミの受講生たちも。
 
まだまだ多くのキラキラが、私の目の前に現れた。
みんなを見てると、それまで気づきもしなかった世界が広がっていった。
なんだか楽しい!
心から、そう思った。
 
狭い空間の中で、私は、その狭い世界しか見ていなかった。
いや、見えていなかったのだ。
 
そのキラキラした世界に、私も飛び込みたい!
そう思った瞬間、今の仕事を辞める決心をした。
 
車窓から見える朝の景色は、雪の反射もあって、キラキラと輝いていた。
雪が降る間、空はどんよりとした、鉛色だったに違いない。
その影響もあったからだろうか、晴天の下の銀世界は、より一層まぶしかった。
早朝のせいか、轍も足跡も見当たらなかった。
この景色は、人の手で加えられる「跡」によって、だんだんと変わっていくのだろう。
 
目の前に見えるのは、私が目指す、キラキラした世界のように見えた。
スタートラインの向こう側にある景色だった。
これから、この真っ新な雪の上に、大きな「跡」をつけていこう。
 
私の新しい人生のはじまりだ!
 
 
 
 
***
 
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2020-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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