メディアグランプリ

ハワイで鳴り響いた「ウェルカム・ホーム!」のはなし


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:杉下真絹子(ライテイング・ゼミ日曜コース)
 
 
「きっこちゃんって友達おれへんの~?」
 
ちょうど私が関西の大学1回生だった頃、キャンパスのグラウンド観覧席で、一人早弁(はやべん)しながらぼーっとしていた時に、同級生の男子が近づいてきて放った言葉が、これだった。
 
え?
ひとりでぼーっといると、そう見られるん?
 
ひとりでいる=(イコール)友達がいない寂しい人
という方式がここで成り立っていることに、驚きを覚えた。
 
ふと我に返り、周りを見渡してみた。
膝枕ごっこしてるカップル、ギター弾く男子を囲んで盛り上がっているグループ、角刈り頭の学ラン応援団の練習を見ている人達などがいた。
確かに……、一人でいる人はいない。
 
それまで、自分がどう見られているのかなんてまったく気にもしてなかったのに、急にスポットライトのステージに立たされているような気がしてきたのである。
 
しかも、<友達が居なくて、寂しく孤独に見える人>と思われているのだと、意識し始めたのである。
 
裏を返せば、【みんなと同じ】でないといけない、そのほうがいい、ということである。
同時に、私にとってそれは違和感でしかなかった。
 
確かに、大学時代、時間を共に過ごす仲間を探してサークルに入る人は多い。
私の場合、入学式の日から数週間の間、大学に行くたびに上級生による異様なまでの勧誘があったにも関わらず、ピンとくるサークルは見つからなかった。たとえ見学に行ったとしても、心地よいと思える空間を持つサークルは一つもなかった。
 
その後、大学での勉強や交友関係だけでは満足できなかったこともあり、2回生の秋、思い切って学内の交換派遣留学に応募し、無事選抜試験に合格した。第一希望のジョージ・ワシントン大学ではなかったが、第二希望のハワイ大学に1年間留学することが決まった。
 
日本の大学で法学部だった私は、ハワイ大学では国際政治のクラスを中心に単位を取ることになった。
 
アメリカ全州はもちろんのこと、世界約80か国から19,000人近い学生がここハワイ大学のマノア校で学んでいるキャンパスは、イメージ通り青々とした芝生が広がり、色とりどりの美しい熱帯植物が育つ開放感ある空間であった。
 
私のような留学生も多く、特に学生寮内にある、カフェテリアでは、肌の色も、言語も、文化も、学部も、さらに年齢層も違う学生たちが、食事を共にしながら意思疎通する姿があったが、そこには【みんな違って当然】という考えが根底に流れていると感じた。
 
考古学の研究者アメリカ人、
地質学の研究者メキシコ人、
国費留学生のカンボジア人やミクロネシア人、
HIVエイズ疫学博士課程のアメリカ人、
コミュニケーション・政治学専攻のジャマイカ人など、
国際政治を共に勉強する私のクラスメイト以外にも、多種多様な友人たちに出逢えた。
 
誰一人として、似たもの同士がいなかったのだ。
だからこそ、私を「MAKIKO」という唯一無二の存在として見てくれていることに心地よさを感じていた。
 
何よりも、ハワイ大学に通い始めて最初に私の印象に残ったのは、クラスからクラスに移動しているときに見た光景だった。
 
緑が茂る広いキャンパスに、
リンゴをかじりながら分厚い教科書で勉強している人、
芝生の上で日向ぼっこしながら上半身裸で昼寝をしている人、
サンドイッチをほおばっている人、
小説を読んでいる人。
 
いるいるいる……いるではないですか。
 
しかも、みんなひとり、自分の世界に入っている。
そして、彼らは他の学生が何をしているのかなんて、まったく気にしてもいないようだ。
其々が、自分の時間の流れを持っていて、それを知っているかのようだった。
 
その時、私の中に
「Welcome Home!(ウエルカム・ホーム!)」
が鳴り響いたのである。
 
日本の大学で、ずっと馴染めず違和感を持っていた私が、
「あぁ、やっと見つけた。なんと心地よい空間なのだろう」
と心から思った瞬間だった。
 
そのような環境の中で、私は「私の個性」をむき出しにして、自由にのびのびとハワイでの学生生活を送り始めたのである。それは同時に、周りの勢いに飲み込まれず、【自分の意見】をしっかり持つという意味でもあった。
 
また、そこで出逢った人々から刺激をもらうだけでなく、実は熱帯に咲く美しい花や植物にも魅了されパワーをもらったことで、私の人生最初の開花の時期を迎えることができたように思う。
 
上を向けば、香りのよいプルメリア、木に咲くアフリカン・チューリップ、フワフワのピンク花を咲かせるねむの木が私を誘いこんだ。
下に目をやると、凛とした鳥の姿をしたバード・オブ・パラダイス、エキゾチックなプロテアの花、赤色ハート型をしたアンスリムが私を毎日ドキドキ・ワクワクさせた。
 
大学のキャンパス内なのに、夢の熱帯植物園の中にいるようだった。
毎日たくさんの教科書と一緒に、「Hawaiian Tropical Flowers(ハワイの熱帯の花々)」という本をカバンに忍ばせ、クラスとクラスの移動中でも、花々との出会いに楽しみが尽きることはなかった。
 
今思うと、あのハワイ時代は、私の人生の一番の幸せピークだったのだ。
そして、【私とは誰か】を考え始める貴重な時間でもあった。
 
私は、無事に1年間の留学を終え、日本に帰国し、大学を卒業することができたのだが、なんとハワイ大学で取得した単位も卒業単位として認められたのである。まさにWin-Win。
 
帰国後、日本の大学の同じグラウンドで、あの時と同じように早弁を一人ですることもあった。
もちろんそこには【みんな違って当然】と思う私MAKIKOがいた。
 
大学卒業した後、アフリカやアジアの架け橋になりたいという思いで国際協力という仕事に進むことになるのだが、実はその原点となったのが、学生寮のカフェテリアで食事を共にした世界中から学びに来ていた友人たちから刺激を受けたことがきっかけなのである。
 
そして、今、日本では新型コロナウイルス感染のニュースが連日メディアを占めており、世の中がざわざわしている。マスクをする、トイレットペーパーを買いだめする、外出しないなどの同調圧力は日に日に強くなっているのを感じる。それは、私たちは知らない間に集団心理で大きな影響を受けている。
 
だからこそ、メデイアが報道しているから、皆がしているから、で私たち自身が揺さぶられるのではなく、私達一人一人が適切な判断と選択ができるかどうかが問われるように思う。
 
そして、今その判断ができる私自身の土台作りができたハワイ大学留学の経験は、何ものにも取って代えることのできないのだと改めて実感している。
 
 
 
 
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2020-03-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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