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メディアグランプリ

人間としての尊厳を守ってもらった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:いしはら(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 

2019年8月27日。わたしは、秋田のとある温泉郷にいた。
 
1泊2日旅行の2日目。友人との湯巡り旅行ということで秘境の温泉を心ゆくまで楽しんでいたのだけれど、最後、最寄りの駅行きのバスが来るまで1時間ちょっとほどの空き時間ができた。
このままここでのんびりするか。それとも、どこかへ行くか。
 
たぶんだけど、お互いすこし疲れていたんだと思う。たしかに温泉は癒されるけれど、ただのお湯ではなく様々な成分が入っていることから体力を使うという話は聞いたことがある。それに、そういえばこの友人とふたりで旅行するのは、はじめてだ。どんな時間も心地よかったものの、どこかで気を張っていたのかもしれない。
 
わたしたちは、駅方面にある展望台へ行くことにした。
 
そう決めたときには展望台行きのバスがすぐ来る時間だったので、急ぎバス停に向かってとりあえず乗ったのだけれど。ふたりとも、あることを後悔した。
 
「あー、トイレ行っといたらよかったねえ」
 
正直さっきもお手洗いに行っていたので、こんなに早く行きたくなるとは思わなかった。友人も同じだった。「まあ展望台に着いたらトイレあるだろうから、そこで行こう!それまで我慢しよう!」、そんな話をしながらバスに揺られること十数分。展望台近くのバス停に到着した。
 
「君たち、本当にここで降りるの?」
 
そんなようなことを運転手さんに聞かれた。「展望台に行くんです」と言ったら納得したような、しなかったような。とりあえずバスから降りた。
 
そこには、何もなかった。
 
いや、何もないわけではなかった。広大な駐車場と夏季閉鎖中のスキー場ならあった。要は「今の季節にここで降りる理由が」何もなかったのだ。
 
何もないし、誰もいない。でも展望台はある。そう信じて展望台方面へと歩くこと10分。そこには「展望台」と名のついた、公園の休憩所のようなベンチとテーブルのある一角があった。たしかに高台だから見晴らしは良い。良いのだけれど。
 
「トイレ、ないねえ」
 
完全に当てがはずれた。せっかくの景色の感動も、トイレに行きたいそわそわ感にはかなわない。最寄り駅行きのバスまであと30分。バスに乗ったとしても、そこからしばらく乗車するから数十分の我慢タイムが続くことになる。耐え切れる?
 
無理だろう、そう思ったわたしたちはトイレを探すことにした。
 
とりあえず展望台周辺。そこから、先ほどのバス停まで戻ってその近辺。無人のスキー場入口。散々歩き回ったけれど、どこにもない。唯一あったお手洗いには「夏季閉鎖」の張り紙がついていた。
 
まさかトイレ相手に、会いたくて会いたくて震える日がくるなんて思ってもみなかった。あと20分。もう立ったままバスを待つことはできない状態まで追い込まれ、そんな窮地でひらめいたのが「次のバス停まで歩く」という作戦だった。
 
隣のバス停は公園で、ここから車で2分。ということは歩いたら15分くらい。公園ならトイレもあるから、無事に済ませてバスにも乗れる。完璧だ。天才だ。希望が見えた途端、一気に元気がわいてきて、意気揚々と次のバス停へ向かった。
 
それなのに。歩けども歩けども、バス停のある公園にたどり着けない。
 
どうしてだろう。もうバスの時間も過ぎている。後々わかったのだけど、途中の分かれ道で「広い方の道でしょ!」と適当に選んだのが失策だった。広い道は遠回りで、バスは細い道を使っていたのだ。だからバスに抜かされることもなくバスを逃した。つまりこの時点で帰りの新幹線も逃した。
 
課題山積。トイレもないし、帰りの電車もない。
 
「もう、申し訳ないんだけど、俺とりあえず課題ひとつ減らしてくる。先歩いてて!ごめん!」、友人はそう言って茂みに消えていった。ここで課題を減らすのは賢いし、面白いし、わたしもそうしたかった。しばらくすると後ろから軽快な足音が聞こえてきて「お待たせ!ごめんね!スッキリした!」と、晴れやかな表情。よかったねと思いながら、わたしはどうしようか思いを巡らせた。
 
ひとつは同じように、茂みに消える案だ。幸い「茂みを見立ててあげるよ!」と言ってくれているので心強い。でもやっぱりそれは人間としての尊厳を保てない気がした。かといって、強がって我慢し続けた結果間に合わなかったなんてことになったら、それはそれで人間として終わってしまうと思った。よりによって、気になってる人といるときに、こんな展開になるなんて……。
 
わたしは、もうすこしで着くであろう公園のトイレにすべての望みをかけた。
 
ずんずん力強く歩くこと十数分。ようやく公園に到着した。走って急いで公園を見回す。そこには、なかった。残念ながらどうしても見当たらなかった。とりあえず歩き回りながら「もうわたし諦める、ごめんね、茂みを見繕ってほしいな……」、そう言った時。
 
公園の目の前にあるペンションの庭で、おばちゃんが畑仕事をしていた。
 
「トイレ借りてくる!待ってて!」そう言っておばちゃんの元へ走っていく友人。おばちゃんは電話がかかってきたのでペンションへ入って行ったけれど、それでも諦めず玄関先から「すみません!トイレ!貸してほしいです!」と交渉。無事に、借りれることになったのだ。
 
間に合った。もう諦めかけたけど、間に合った。
 
わたしの人間としての尊厳は、こうしてめでたく守られた。トイレから出るなりおばちゃんにお礼を言いまくり、友人にも目一杯ありがとうと言った。ヒーローに助けられた思いだった。その後、公園のベンチで新幹線について調べた結果「自由席で追加料金を払えば帰れる」ことがわかり、一気に課題は解決。無事におうちへと帰ることができたのだった。
 
帰りの新幹線の中で爆睡する友人を見ながら、いろんなことを考えた。
 
あれだけピンチだったにも関わらず、お互いに一切後ろ向きなことを言わないで常に次の手を探し、動き、切り抜けた。ということはきっと、この先いろんなことがあったとしてもこの調子で乗り越えていけるんだろうな。
 
わたし、この人と結婚したい。
 
解散して、帰宅して、一晩寝てもこの気持ちは変わらなかった。だからLINEで「結婚したくなっちゃった」と送った。びっくりしていたけれど、その後話し合って、いまは結婚を前提に同棲をはじめたところだ。
 
わたしはずっと「妥協するくらいなら結婚したくない」と考えていた。30歳が見えてきた焦りから婚活していた時期もあったけど、不毛だと思って辞めた。だからこそ、ここで自分が「結婚したい」とハッキリ感じたことは想定外でしかなかったのだ。
 
でもそう思えたのは、ひとえに彼がわたしの尊厳を守ってくれたからだと思う。
 
友人として気が合う関係をずっと続けてきていたから、もしかしたらそのまま友人でもよかったのかもしれない。でも、彼がわたしのヒーローになってしまったが最後、もう気持ちを止められなかった。
彼とこのままうまくいくかどうかはまだわからない。それでも、この一件で学んだこととして、ふたつだけ言えることがある。
 
自分に正直になってよかったね。あと、トイレはこまめに行こうね。

 
 
 
 
***
 
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2020-03-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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