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独りが好きなあなたにSNSを勧める理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡辺まほ (ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「最近、どう?」
「どうって、ふつうですよ」
「ふつうって何?」
「だから、ふつうです。仕事して、うちに帰って、夕飯食べて、お風呂入って、寝るだけですよ」
「休みの日は?」
「たまった掃除をして、大きなもの洗濯したりとか。時間が余ったらテレビ見たり、昼寝もしますかね」
「色気ないねえ」
 
余計なお世話だ。
 
20代中頃、私はシステムエンジニアをしていた。
ある機能をもつシステムが欲しいという、企業のお客様の要望を叶えるのが仕事。
 
機器やソフトウェアを選定、作業人員や構築に必要な期間、費用を見積り、お客様に提案。
合意に達すれば契約となり作業が始まる。
この作業単位をプロジェクトと呼び、作業に必要な技能を持ったメンバーでチームが結成される。
 
一度プロジェクトが始まると、終わるまでの期間はそのチームで朝から晩まで一緒。
家族よりもずっと長い時間を一緒に過ごすことになる。
昼食も一緒にとる。
メンバー同士のコミュニケーションの時間。
仕事の話に飽きると、おのずとプライベートの話に移行。
先輩に詮索され、色気がないなどと言われる始末。
 
時には、お客様と一緒に昼食をとることもある。
そして、また、こういった質問をされるのだ。
 
「お休みの時は何をされてるんですか?」
 
あまり面識のない人に対して、話のとっかかりを作りやすいのだろうか。
私が女性ということもあったのかもしれない。
勤務先のシステムエンジニアの女性比率は1割程度。
珍しかったのだろう。
 
私はプライベートを詮索されるのが苦手だ。
 
内向的とまでは言わないが、社交的ではないだろう。
友達は多くは望まない。せいぜい数人といったところ。
その友達とも、そんなに頻繁に会うこともない。
何かアドバイスを求めたければメールでよい。
声を聞きたければ電話で十分だし、1年に1度くらい顔が見られればよい。
何より独りが好きだ。
私のことなど、ほうっておいてほしい。
 
だから先の質問の答えは、
 
「特に何もしていませんよ。家でのんびりしています」
 
なんて、素っ気なく答える。
そこですんなり引き下がってくれればいい。
 
「いやいや、そんなことないですよね」
 
なんてことになると、面倒くさい。
相手がお客様ともなるとこちらも気を遣う。
嘘はつきたくない。
なんと答えようか?
いよいよ煩わしい。
 
そんな日々のなかの、ある日。
自宅に帰ると、玄関に段ボールが置いてあった
まだ、封が開けられていない段ボール。
そういえば出がけに荷物が届いたな、何か頼んだっけ? とリビングに荷物を持っていく。
ガムテープをビリビリ破り、入っていたのは、化粧品のパッケージ。
ああ、そうだ、頼んだんだった。
そのままそこに置いた。
疲れていた私は、お風呂に入って寝た。
 
翌朝、起きると、またその段ボールが目に留まった。
封が開いている段ボール。
化粧品のパッケージが見えている。
中を確認するまでもない。
 
ふふ、そっか。
これをやればいいんだ。
ちょっとだけ、私のこと見せてあげればいいんだ。
 
少し心が軽くなって、朝食を食べ、着替え、出かける準備をして仕事にいった。
 
その夜から、私は当時流行り始めていたブログを書くことにした。
私にとって、他人に知られてもかまわない当たり障りのないことを書く。
 
DVDプレーヤーが届いたこと
駅で知らないおばさんに声をかけられたこと
電車で聞いた隣に座っていたご婦人たちの話
ニュースでみた事件に対して思うこと
旅行先で見たこと、食べたもの、感じたこと
美術館で感じたこと
 
……など
 
自分にノルマは課さなかった。
週1回か、それよりも少ない頻度で、ごく短文で、私の日常を記録した。
 
しばらくして先輩がまたこう聞いた。
 
「最近、どう?」
「ブログ始めました」
「え、ブログ始めたの? アドレス教えて。見るよ」
「わかりました、あとでメールで送ります」
 
こうして、自分の日常をほんの少しだけ公開した。
 
同じように質問してくる人に対しても、アドレスを教えてあげた。
私の日常を少し垣間見た人たちが増えるにつれて、例の質問は減っていった。
 
私をほうっておいてくれるようになったのだ。
 
人は、よく知らないもの、わからないものがあると詮索したがる生き物だ。
お客様や仕事仲間にとって、私は封の開いていない段ボールと同じだった。
日常をブログに書くという手段で封を開けることで、安心してくれたようだった。
 
このなんてことない日常を書いたブログは、Facebookに移行するまで7年続いた。
40代になった今でも、Facebook上にて、日常を少しだけ公開している。
今でも、人からプライベートを詮索されることは、ほとんどない。
もっとも、ただ単に興味を持たれなくなったからかもしれないけれど。
 
独りが好きだ。
人付き合いを煩わしく思う。
そんな人にこそ、自分をほんの少し外に見せてあげることをお勧めしたい。
今はFacebookもInstagramもTwitterもLINEもある。
きっと、心が軽くなるはずだ。
20代の私がそうであったように。
 
 
 
 
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2020-03-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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