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メディアグランプリ

働くことへのコンプレックスを抱えたまま主婦になって


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ヨシオカ ユーコ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「主婦になるのが怖い」
 
夫に言うとなぜ? という顔をされた。
主婦なんて世の中に当たり前にいる、普通のことじゃないかと。
 
32歳の春、私は公務員を辞め、しばらく専業主婦をすることになった。
次の仕事は決まっていない。
 
主婦という立場を否定する気持ちはない。10年以上一人暮らしをしながら働いていたからこそ、家のこと一切をこなしてくれる存在のありがたみは痛感している。だからこそ、今後は多忙な夫のサポートに専念できることに、後悔はない。
 
だが、仕事を辞めて主婦になることに、どうも後ろめたさを感じてやまない。
「働かない」という事態が、私には何か恐ろしいことのように思えたのだ。
 
私が退職を決めた理由は、結婚後の生活と、仕事の勤務条件との折り合いがつかなかったからだった。次の仕事が決まっていないのも、夫に転勤の可能性があり、次の転勤がいつになるか分からない以上、仕事選びに慎重にならざるをえないからだ。
 
それならそれで堂々としていればいいものを、どうしたものか。
とはいえ主婦になることは決定事項、恐れてばかりでも仕方がない。私はこの恐怖の正体を探ってみることにした。
 
するとこの恐怖の根っこにあったのは、私の中のあるコンプレックスだった。
私の中の、働くことそのものに対するコンプレックスだった。
 
私の働くことへのコンプレックスは、はるか10年前の就職活動期にまで遡る。私が就職活動をしていた2008年から2009年は、リーマンショックによる不景気の影響で、多くの学生が就職に苦戦を強いられていた。私も、その苦戦する学生のうちの1人だった。不景気に加え、元々の内向的で世渡り下手な性格が災いし、私はなかなか内定を得られずにいた。
 
とはいえ、不景気だろうが世渡り下手だろうが何だろうが、仕事をしなければ暮らしていけない。気楽にかじることのできる親のスネもない。
そんな状況で、私はどうにかこうにか、ある会社に正社員の職を得た。しかしその会社に馴染めず、結局2年半で辞めた。別の仕事に転職も試みたのだが、スキル不足でうまくいかなかった。私はすっかり社会に出て働くことに自信をなくしていた。
「就活も苦戦。やっと得た仕事も、うまくこなせず辞めてしまった。転職しようにも、転職市場で通用するスキルもない。
こんなにも労働力としての価値が低い私は、社会でやっていけるんだろうか?」
ちなみに結婚願望もなかった。仕事だけでなく、いや仕事以上に、異性に愛されることに強く自信がなかった。
でも、生きていくには働くしかない。定職に就き、経済的に自立しなければ、この社会に居場所は得られない。
 
働くことに失敗ばかりのダメな私は、働くことでしか克服できないと思った。
 
そこで私は、ダメな私を挽回するため、公務員になることにした。公務員なら、転職市場で有利なスキルがなくても、試験に受かりさえすれば安定した仕事に就ける。そして派遣の仕事で生計を立てながら1年ほど公務員試験の勉強をし、無事にとある役所に採用された。
採用が決まった時の私は、
「こんなダメな私が、ちゃんとした仕事に就けた! しかも、安定の公務員!
これで私は、これから社会でちゃんと生きていける!」
という安堵でいっぱいだった。
 
そして私は、毎日必死に働いた。これまでの就活や、辞めてしまった最初の仕事のような失敗は、もうしたくなかった。日々の仕事を、辞めずに、へこたれずにきちんと勤め上げることで、過去の働くことに挫折した私を乗り越えたかった。
ダメな私だからこそ、今度こそちゃんとやりたい。
ダメな私だからこそ、今度こそちゃんとやれなければ、この社会に居場所はないかもしれない。
 
それなのに勤めて数年、結婚が決まり、私は退職して主婦になることになった。
全くの想定外のことだった。
 
私はそれまでずっと、働くことにつまずいてばかりのダメな人間、というコンプレックスを抱えて生きてきた。このコンプレックスを克服するために、これまで頑張ってきたのだ。
そんな私が、紆余曲折を経てやっとのことで得た安定した仕事を捨て、主婦になるなんて。
 
主婦を選んだ経緯には納得している。でも、これまで抱えてきた私の仕事コンプレックスは、どうすればいいのか。
私はまた、仕事に挫折したの? 今度は、仕事と家庭との両立に。
このコンプレックスを抱えたまま仕事を辞めるなんて、またダメな自分に戻るみたいで、怖い。
 
そう戸惑う私に夫は言った。
「仕事を辞めたって君の価値は落ちないよ。働かない君がダメだと決めたのは、誰?」
 
コンプレックスとは、他人に与えられるものではない。自分で感じることで抱くものである。
仕事がうまくいかない私をダメだと決めたのは、誰?
働くことでしか、社会に居場所は得られないと私を脅すのは、誰?
……全部、私自身だ。
 
社会に出てからの私は、働くことに失敗した自分を、ダメなやつだと卑下してきた。そして、こんなダメな自分を認める方法は、安定した仕事に就き、立派に働くことしかないと思っていた。
でも、本当に自分を認める手段は、それだけしかないのだろうか?
 
と考えると、私が主婦になったことは、むしろチャンスなのかもしれない。
これまでの私は、働くことを軸にしてしか自分のことを評価できずにいた。
でも、これからはそうはいかない。
主婦になったことで、安定した仕事に就いて立派に働くという以外の手段で、私は社会に居場所を見つけなければならなくなった。
そのために、働くことに血眼だったこれまでの生活はできなかった、新しい生き方を試してみなくてはならないのだ。
外で働かずに、家を守ることに専念する生き方を試してもいい。特定の組織に所属しない働き方に挑戦してもいい。忙しさにかまけて、疎かになっていた趣味を再開してもいい。
わけあって働かない私のこれからには、今までにはない生き方を試す必要とチャンスが溢れている。
 
どうやら私の働くことへのコンプレックスは、働くことで解消するものではなかったようだ。
働くことへの失敗や葛藤を経て、縁あってたどり着いた、今の主婦という生き方。この新しい生き方を存分に満喫できた時こそが、私が本当にこのコンプレックスを乗り越えることができた時、かつてのダメな自分を乗り越えることができた時なのかもしれない。
 
 
 
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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