メディアグランプリ

私の「偏見メガネ」を外してくれた魔法のレストラン


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大和田絵美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あ、そうなんですか。他に何か不安なことはありますか?」
私達の目の前にいるのは小さくて可愛いウェディングプランナーの女性。
小首を傾げながら、微笑んでいる。
対する私は、指先が震え、顔面は蒼白。
「今言った言葉は、本当に聞こえていたのかな」
混乱する頭の中で、私は必死で今の状況を理解しようとしていた。
 
「結婚式」
それは、私にとってとても遠い存在だった。
29歳。
30歳を前に結婚する友人が多く、結婚式に参列する回数も増えてきたところだった。
でも、私は自分が結婚式をする日がくるとは全く思っていなかった。
例えば男の人は、自分が妊娠するかもしれないと具体的に考えることはないだろう。
いつか出来る日が来るからと、瞬間移動での旅行計画を実際に考える人もいないだろう。
たいていの場合、無理なことを人はリアルに想像したりはしない。
私にとっての「結婚式」もそれと同じだった。
なぜ、無理なのか。
私のパートナーは女性だから。
私達は女性同士のカップルだからだ。
 
時は2008年。
同性愛者は、今よりもずっと「いないこと」にされていた時代だった。
この頃、結婚式を挙げたいと望む友人達もいたけれど、様々な式場に問い合わせては、断られていた。
特に日本での実現は難しく、私の友人達はこぞってカナダで結婚式を挙げた。
カナダは旅行で訪れた外国人カップルであっても、同性婚を認めてくれる法律があり、せめて外国ででも婚姻関係を結びたいと、それを利用し、さらにその手続きに併せて、挙式も向こうで済ませるという人が多かった。
なぜ日本では無理なのか。
前例がないからという理由が大半。特に女性同士だと、ドレス同士の結婚式の可能性もあり、そういう料金プランの設定がないということで断られたという人もいた。
私は平等の権利を得るために戦う活動家ではなく、彼女と一緒に「普通」にまぎれて静かに暮らしている。
偏見にさらされて不必要に傷つけられるのが怖かったので、あの日までは結婚式のことなんて考えたこともなかった。
 
ある日曜日。
パートナーと、ちょっと良いレストランにランチに行こうという話になった。
そのレストランは、結婚式も出来るレストランだと知っていたけれど、そんなことは関係なく、ただただ気軽に訪れた。
大きな仕事が落ち着いた直後で余裕があり、楽しい気持ちだった。
フルコースも美味しくて、私達は最後のデザートを堪能していた。
そんな時、ホールスタッフの1人が突然話しかけてきたのだ。
「うちのレストランを何で知って下さったのですか?」と。
この時に無難に答えておけばよかった。
でも、少しだけ、ほんの少しだけ、私は「普通」のカップルを楽しみたかった。
ただ、それだけだった。
「ここで、結婚式も出来るって聞いて、ちょっと来てみたんです」
にこにことそう話した。
パートナーも否定することなく、にこにこしてくれていた。
ああ、良い日だなと心から思った。
そして、帰ろうと思っていたのだけど……
 
「ちょっといいですか」と、空いている席に座るスタッフの彼女。
彼女は、レストランのスタッフではなく、ウェディングプランナーだと紹介された。
そこからプランナーは結婚式の怒涛の説明を開始。
どうやら、一見すると男性に見える私のパートナーをすっかり「本物」だと信じている様子。
すぐに否定すればよかった。
勘違いですよと言えばよかったのだ。
でも、少しだけ、「普通」のカップル気分を味わいたくて、ここでも私はそのままにしてしまった。
そして、私達は結婚式を考えているカップルということで話を聞くことになった。
早く止めなきゃ。
早く終わらせなくちゃ。
そう思っていたけれど、美味しいチョコレート菓子を食べている時のように、あと1個、もう1個と甘い言葉を求めてしまって、なかなかこの心地よい状況から脱出することが出来なかった。
 
そんなふわふわした非現実的で幸せな時間を味わっていた私に、急に現実が訪れた。
「よかったら、このシートにお2人のお名前と連絡先をお書き下さいね」
プランナーは、そう言って一旦席を外した。
夢が一気に冷めた。
そうだった。これは現実なんだった。
どうしよう。
このまま名前を書かずに終える?
それとも、真実を告白して拒絶される?
傷つく準備、出来てないけど。
様々な感情が渦巻いて、私の頭は真っ白。
潤んだ目でパートナーの顔をじっと見つめるしか出来なかった。
「ねぇ、どうしたらいい。どう言ったらいい」
 
プランナーが戻って来て、何も書かれていないシートを不思議そうに見つめる。
私は震えを止めることが出来なかった。
人間のフリをした妖怪が正体を暴かれる時はこんな気持ちなのかもしれない。
怖い。怖い。怖い。
「何か、書きにくいところがありましたか?」
 
「実は、私達は女性同士のカップルなんです」
声も出ない私に代わって、パートナーが落ち着いた声で説明してくれた。
その返事が冒頭のあれだ。
「あ、そうなんですか。他に何か不安なことはありますか?」
……いや、今、言ったよね。
一番不安なこと、言ったよね。
思わず凝視する私の顔を見ながら、プランナーはにっこりと笑った。
 
「出来るんですか?私達みたいなカップルでも、結婚式が」
「はい。もちろん出来ますよ」
恐る恐る聞いてみると、プランナーは迷いもなく即答。
「私達みたいなカップルの結婚式をやられたことはあるんですか?」
「ないですね。初めてです!」
「上の人とかに聞いてきたりしなくていいんですか?」
「なぜですか? 大丈夫ですよ。出来ます! やりましょう!!」
プランナーは何を聞いてもきっぱりと即答。
他のスタッフも集まって来て、結婚式について謎の盛り上がり。
「ドレスとドレスにしますか? すごく華やかになりますよ!」
「結婚式と披露宴で、ドレスとタキシードを着る人を変えても盛り上がるかも!」
「ウェディングケーキはどんな形にしましょう?」
「新郎・新婦って呼び方でいいですか? 新婦・新婦にしますか?」
一番動揺しているのは当事者の私達。
驚かせようと思ってやったマジックのタネを既にみんなが知っていた時のように、その当たり前の反応が私達を思いっきり困惑させた。
結局、誰よりも偏見を持って生きていたのは、私自身だった。
 
2009年3月14日
私はウェディングドレスを着て、結婚式を挙げた。
大阪城の近くで、写真撮影もした。
6車線もある大きな谷町筋を、ドレス姿でオープンカーに乗って走った。
私達を見ると、周囲の人は振り返ったけど、それは好奇の目や否定的な目ではなく、芸能人を見るかのようなワクワクした目線だったと思う。
この日ばかりは、知らない人からもたくさんカメラを向けられた。
私の想像しなかった「普通」の結婚式が出来た。
 
セクシャルマイノリティ、性的少数派と呼ばれる私達。
「認める」「受け入れる」「理解する」
もちろんそう言われることも嬉しいけれど、「そうなんだ。で、それがどうしたの?」という言葉。
その言葉こそが、私達が知らず知らずのうちに自分でかけてしまっている「偏見メガネ」を一瞬で外してくれる、魔法の言葉なのだと知った。
 
 
 
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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