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メディアグランプリ

かるたという愛のキューピッド


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「佐々木さんって、なんで群馬県に来たんですか?」
 
耳にたこができるくらい聞かれてきた言葉だ。
 
私は現在、群馬県にある企業に就職し、群馬県に住んでいる。
しかし、出身は群馬県ではない。
 
ここまでは、よくある話だろう。
群馬県に限らず、どの地域でも生まれ育った場所と就職先が一緒じゃないことなんてざらにある。
実際、私が群馬県出身でないと言っても、驚かれることはそんなに多くない。
しかし、群馬県に、出身大学があるわけでもなく、親戚がいるわけでもなく、ましてや彼女がいたわけでもないことも伝えると、とても驚かれる。
 
そりゃ、不思議に思うよね。
そんなことを思いながら、あの時のことを思い出す。
 
さかのぼること、十余年。
大学3年生の私は悩んでいた。
子どものころから、学校の先生になることに憧れていた。
数ある大学の学部の中でも教育学部に進学先を選んだくらいだ。
 
当時、対象講義を受講し、教育実習も修了していた。
このまま、教員採用試験を受ければ、憧れの学校の先生になることも夢ではなかっただろう。
 
しかし、試験を受けることを躊躇してしまった。
どうしても、自信が持てなかったのだ。
教育実習の時に、指導をしてもらった先生は授業以外の事務仕事にも多く携わっていた。
聞くと、この状況はなにもこの先生に限ったことではないらしい。
どこの学校でも新人、ベテラン関係なく、授業以外の仕事が割り振られるとのことだった。
授業以外にもこんなにやることがあるのか!
 
内心ビビってしまった私の頭からは、学校の先生という選択肢は消えてしまっていた。
 
大学を卒業したら、学校の先生になる。
そのことしか、考えていなかった私にとって、急に難題が突き付けられた。
就職先を見つけなければ。
 
大学院に進学する予定がなかった私にとって、残された時間はあと2年。
それまでに、就職先を決めないといけない。
東北地方にある地元から、東京にある母校へ私を送り出してくれた親からは、お金を出せるのは大学卒業までだぞ、と口酸っぱく言われていた。
今さら、大学卒業後も仕送りを続けてほしい、なんて言えるはずもない。
 
予備校関係、インフラ関係、旅行関係。
興味がある分野の企業を片っ端から調べた。
エントリーシートを送り、筆記試験も受けた。
しかし、どの企業からも送られてくるのは、不採用の連絡ばかり。
その結果にひどく落ち込んだが、同時に納得もしていた。
自分の気持ちをよく分かっていなかったのだ。
一体、何をしたいのか。そもそも大学卒業後も東京に残るのか、地元に帰るのか。
こんな生半可な気持ちじゃ企業側も採用してくれるはずがない。
でも、どうすればいいんだろう。決められない。
 
もがき続ける日々が続いた。
そんな大学3年生も終わりを告げようとする3月のある日、サークルの友人から提案があった。
 
「佐々木くん、群馬県に旅行に行かない?」
当時、所属していたサークルでは毎年3月に東京近隣へ旅行に行くのが定番になっていた。
今までは、箱根や那須、富士河口湖など割と有名どころの観光地だったが、その時は群馬県が目的地だった。
 
え、群馬県? なんで?
失礼ではあるが、目的地を聞いて、そんなことがまず頭に浮かんだ。
東北地方出身の私にとって、群馬県はなじみがなかった。
知っている場所と言ったら、尾瀬と草津温泉くらい。
こんにゃく、だるま、そして山がとても多い。
それくらいのイメージしかなかった。
 
早く就職先を決めないといけないし、そもそも群馬県のことをよく知らないし。
正直、旅行に行くのをためらったが、企画担当の友人からの提案とあっては断れない。
しぶしぶ行くことにした。
 
東京から車で約2時間。群馬県にやってきた。
宿泊先は、群馬県の真ん中あたりにある伊香保温泉という場所。
下の道路から頂上にある神社まで続く石段が目に留まったが、何か地味な印象。
石段に面しているお土産さんをのぞいてみても、これといって特徴的な食べ物やお土産を見つけることができなかった。
 
旅館にチェックインし、温泉や料理もいただいた。
特に、不満ではなかったが、何か物足りなかった。
ここでも、群馬県がこんな場所だ、という特徴を感じることができなかった。
 
次の日。
掛け持ちしていた別サークルの用事があった私はメンバーよりも早く宿を出た。
 
気分転換にはなったけど、なんか地味な場所だったな。
そんな気持ちを抱きながら、帰りのバスに乗っていると、運転手の人から声をかけられた。
「あら、お客さんはどこから来たんですか」
「東京から来ました」
「伊香保温泉は『上毛かるた』にも載ってて有名ですもんね。また来てくださいね」
え、上毛かるた?
聞くと、群馬県民なら老若男女問わずだれでも知っている郷土かるたらしい。
駅のお土産コーナーに置いてあるとのことだったので、早速購入してみた。
中を開けると、中には伊香保温泉をはじめとした群馬県内の温泉や観光地、山や川、そして地元の偉人のことが書かれた札がたくさん入っていた。
目からうろこだった。
全世代の人が知っているなんて!
群馬県民以外もみんな知っていることを疑わないくらい愛着を持たれているなんて!
 
群馬県は特徴がないなんて、思っていたけど決してそうではなかった。
そんなことを思っていたら、私の中からふつふつとこんな考えが浮かんできた。
 
「群馬県で働きたい」
「住民が地元を大好きである群馬県という場所がどんなところなのか、知りたい」と。
 
それからは本当に心に火が着いたようだった。
群馬県の企業で、群馬県のことに関われる業種を必死に探し、就職活動を行った。
 
結果、無事群馬県にある企業に就職が内定し、群馬県に移住。
社会人になってから10年以上経った今も、群馬県での生活を楽しんでいる。
友人もたくさんできたし、おいしい食べ物、楽しい場所もいっぱい知ることができた。
 
そんなきっかけを与えてくれたかるたは、私と群馬県を引き合わせてくれた愛のキューピッドのような存在だ。
 
群馬県に来た理由。
今までたくさん聞かれてきたし、これからもずっと聞かれるだろう。
しかし、少しも嫌ではない。
だって、そのたびに愛のキューピッドがくれた、あの時の情熱を感じることができるから。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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