メディアグランプリ

「忙しい自慢」に終止符を。 24歳で「ほうれい線」が生えて気づいたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:タナカ。(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
存在感抜群の「それ」はあまりにも突然、私の顔へ舞い降りた。
 
「うそやろ、もう?え、早くない!?」
 
鼻の両脇から唇の両端に、ニョキニョキと伸びる2本の線。
 
化粧脂でテカテカになった私の顔面には、昨日までなかった、大きな「ほうれい線」がしっかりと根を張っていた。
 
かがみの中に映る自分の姿にギョッとして、一気に目が覚めた。
 
7分の5。
 
1週間のうち、私が化粧を落とさずに眠ってしまう割合である。
 
「あぁ、またやってしまった……!」
 
役目を終えたファンデーションは、ボソボソの肌に泥となってこびり付き、28時間つけっぱなしのコンタクトレンズは、まばたきをするたびにパリッと嫌な音を立てた。
 
自分でも呆れるほど、自堕落な生活だ
 
社会人2年目の春。
前職で一緒に働いていた先輩たちと小さな会社を設立した。
 
デザイナー、ディレクター、ライター、カメラマン、経理の5人。
 
「それぞれの得意を生かして仕事をするぞ!」と息巻く、20代30代の若き集団……平たくにいえば、“地域密着型の制作会社”である。
 
「設立した」と偉そうに言ったものの、私自身は特に何もしていない。
 
小難しい契約書に「ふーむ。なるほど、なるほど、理解」とポンポン印鑑を押しただけの、お天気ヤローである。
 
しかし、新しい会社の設立。ワクワクしないわけがなかった。
 
ワイドショーでは連日「働き方改革」が叫ばれていたが、世の中の流れなど知ったことではなかった。
 
脇目も振らず、あの頃は、ただひたすら、とにかく文字通り「長時間」働いた。
 
加えて、会社のメンバーは全員「鉄の体力」をもっていた。
 
朝から晩まで、どれだけ働いても、次の日には、なぜかみんなケロッとしている……ように見えた。見えていただけかもしれないけれど。
 
最年少で社会人歴も浅い。正直「しんどいな」と思う日もあったが、会社の足手まといにならないよう、自分なりに必死に頑張っていた。
 
朝起きて出社して、お昼ご飯にカロリーメイトをかじって、夜遅くまで働く。
 
化粧を落とさないまま、コンタクトをつけたまま、勢いよくベッドにダイブする。たかが1分。されど1分。夜は少しでも長く寝て、明日に備えたかった。
 
習慣とは恐ろしいもので、慣れてくると徐々に「しんどい」を感じにくくなる。むしろ「長時間働いている自分」に対して、満足感を覚えるようになっていた。
 
(あの頃の私が、時間に見合った仕事ができていたかどうかは、また別の話)
 
そんな初夏。ゴールデンウィークの真ん中。
 
大学時代に仲の良かった友人と再会した私は「最近全然休みないねん〜!本当に忙しくってさ」「ゴールデンウィークもほとんど仕事でさ!」と嬉しそうにと自慢話を繰り広げた。
 
意気揚々と語る私の唇は、カサカサと荒れて、目はちょっと充血していた。太陽をほとんど浴びていなかった肌は、不気味なほど青白く光っている。
 
友達は私をねぎらって「大変そうやね、凄いねえ」と言ってくれたが、心の中では「あ、コイツとうとう頭おかしくなったな」と思われていたに違いない。
 
連休なんていらない。休みなんていらない。本気でそう思っていたし、そんな自分が好きだった。ただただ「頑張っている自分」に酔いしれていた。完全にイタイヤツである。
 
しかし、そんな「酔っ払いの代償」は思ったよりも早くやってきた。
 
スランプ。
 
本業であるライティングの仕事が上手く進まないのだ。書こうと思っても、書けない日々が続いた。悔しくて、自分を追い込む。更に夜遅くまで働く……。
 
しかし困ったことに、働けば働くほど謎の「快感物質」が頭から湧きでてきて、気持ちがいい。朝ごはん、食べない。原稿、進まない。また朝を迎える。
 
そんな時、ある人に言われた。
 
「あのさぁ、あなたその『忙しい自慢』辞めたら?良い文章を書きたいって本気で思うなら、がむしゃらに働くだけじゃなくて、本読むとか、良いものに触れるとか、何でもあるでしょ」
 
忙しい自慢、は正直かなり、グサっときた。
そして同時に「忙しい」を連呼していた数秒前の自分を恥ずかしく思った。
 
全く痛いところをつかれてしまった。
ああ、もう、本当にその通り、だなあ……。
 
当時の私は「長時間働く自分」に満足して「外の世界」を完全に遮断していた。
ニュースも見ない、本も読まない、出かけない。
 
たかが24歳。たかが社会人2年目。
 
「先輩みたいにかっこよく、バリバリ働きたい!」と思って真似したところで、積み重ねてきたベースが違う。
 
24年分の知識なんて、社会に出れば、数ヶ月で消費されてしまう。
 
一緒に働くメンバーにあって私にないもの。それは圧倒的な「実体験」だ。
 
インプットを辞めた私の頭の中は、空っぽだった。スッカスカの頭で、何を偉そうに「書きます」だ。浅はかすぎる。
 
それから私は「忙しい」を禁句にした。
自分はまだ「忙しい」を口にできる立場ではないぞ、と戒めの気持ちを込めて。
 
しかし、これがなかなか難しい。
 
「最近、忙しいのでしょう?」が「おはよう」の代わりみたいな業界で生きていたので、ついつい誘惑に負けそうになる。
 
ああ、言いたい。「私、忙しいのですよ」って言いたい。言ってしまいたい。言って、気持ちよくなりたい!
 
代わりに、グッと「忙しい」を飲み込めた日には、ご褒美に近くの喫茶店でおいしいコーヒーを飲みながら、本を読んだ。お世話になっている人に会ってみた。
 
他にもイベントに参加してみるとか、とにかく外に出てみる作戦に出た。
 
結果、これがすごく良かった。
 
頭と体をバランスよく使うことで、気持ちがスッキリした。人生を長く生きる先人の言葉は私の胸を熱くしたし、お世話になった人の有難い言葉は、原動力になった。
 
結果、副産物として、前より文章が書けるようになった。
 
自分の気持ちも、こうして少しずつ文字にできるようになった。
 
……私が少し前に書いた文章に、学生時代にお世話になった女性がこんなコメントを残してくれた。
 
”いやはや、タナカちゃん。旅はこれからだね。寄り道したりお茶飲んだり景色楽しんだり、助けたり助けられたりしながらね、目的地にむかって歩いてこうね”
 
嬉しかった。そうか、旅はこれからなのか。
 
社会人3年目の春は、もうすぐそこにいる。
 
愛する仕事、愛する会社のメンバーの一員として最年少の私が、今できる「頑張る」って何だろう?
 
まだまだ道半ばなら。今はまだ、寄り道がしたい。
 
手強い「ほうれい線」は、笑って、笑って、「笑い皺」に変えたい。
コンタクトでバシバシになった瞳に、たくさんの景色を見せてあげたい。
 
もうすぐ、25歳。
 
あの日突然、私の顔に生えた2本のほうれい線は、今も変わらず私の顔に根を張っている。
 
だけどもう、大丈夫。
 
かがみの中の私は、前よりちょっと「いい顔」をしていた。
 
 
 
 
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2020-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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