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いつもお世話になっております


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:相内 洋輔(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「いつもお世話になっております」
 
ビジネスメールは、ほとんどの場合この一句から始まる。
本当にお世話になっているかどうかはさておき。
 
最近ふと、家事ってメールの書き出しによく似ているなぁと思った。
 
「お世話になっております」と書かれていないメールを見つけるのが相当困難であるのと同じように、
 
料理、お皿洗い、お風呂掃除、玄関の清掃などなど、手洗いを必要としない家事を見つけることは、ほぼ不可能だからだ。
 
こんなに手を洗う回数があるのか…?
とビックリしてしまうくらい、家事と手洗いは切り離すことができない。
 
恥ずかしながら、ぼくはこの34年間、全くそんなことは知らなかった。
 
なぜならぼくは、自他共に認める、家事に無関心なずぼら人間だったからだ。
 
例えばこんなエピソードがある。
 
ぼくが小学生の時に所属していた野球部では、毎週末に練習があり、必ずお弁当を持参していた。
 
だが当時のぼくには、帰宅してから弁当箱を流し場へ置くという、当たり前のことができなかった。家に着いた途端、弁当箱をカバンから出す、というミッションをすっかり忘れてまって……。
 
そうして弁当箱の存在を思い出すのは、決まって翌週の土曜日の朝だった。
 
「またやってしまった……」
 
強烈な腐臭と、緑色に茂った芝生のようなカビを見て、その度に心から後悔したが、ぼくはこの愚かな行為を、3年間で20回は繰り返したと思う。
 
最後には、7つ下の妹も含めた家族中が呆れていた。
 
もちろん社会人になったからと言って、元来のだらしない性格が急に改善することはなかった。
 
初めての赴任地だった岡山県からの異動が決まった時は、部屋中に洋服や本などが散乱し足の踏み場が無く、とても一人で梱包を行うなんて無理だと思った。
 
さんざん悩んだ挙句、ぼくは同じチームで面倒見が良かったお母さんのような先輩に頼み込んで、手伝ってもらった。
 
「ちょ、あんた、なんでこんなことになっとん!? ホンマやめて……」
 
部屋に入った途端、先輩の顔が一気に曇ったことは忘れない。Y先輩、あの時は本当にありがとうございました。
 
こんな家事とは無縁のぼくが、「家事には手洗いが必須だ」という実感を得たのは、つい最近のこと。2年前にフリーランスとして独立し、家を職場にすると決めたのがきっかけになった。
 
「家にいるんだから、もっと家事やれるでしょう?」
 
妻の期待が高まったのは必然だと思う。ぼくは家にいるわけだし、妻は仕事で外出するのだから。
 
でもこうした妻の主張に対し、ぼくは最初、真っ向から反発した。
 
「家にいるからって家事ができると思うな! 家には仕事をするためにいるんだ!」
 
と。
 
妻はまったく納得がいっていない様子に見えたが、こちらは独立をしたばかり。ちゃんと家族を食べさせていけるのか、任せてもらった仕事で価値を返せるのか、心配が無限にあった。
 
そのため、
 
「起きている間は、全ての時間を仕事に捧げたい!」
 
と心から思っていたので、家事はあまりしたくなかった。むしろ、無駄で仕方のない行為だと思っていた。
 
そんな日々を続けていたら、とても分かりやすいくらい夫婦仲が悪化した(笑)
 
(こっちは独立したてで不安なんだよ、もっと察しろよ……)
 
家の中はピリピリしていたが、むしろ自分を正当化して仕事に没頭した。
 
こうした日々が半年くらい続いた時、なんだかどっと疲れている自分がいることに、ふと気が付いた。もう何もやりたくないと思った。
 
ショックだった。
なんのためにムリしてあくせく働いて来たというのか!?
 
それで少し冷静になって、じっくり考えてみた。
 
家族が安心して、楽しく暮らせるように、頑張って仕事の基盤を作りたい!
 
そう思っているのに、
 
収入を得るために、家族を後回しにして、ギスギスしているなんて、本末転倒じゃない?
 
大切なことに気づいた瞬間だった。
 
それからぼくは、家の中に流れる空気を変えるべく、家事に取り組むことにした。
 
手始めに着手したのは、朝の洗濯。
 
ぼくが洗濯をすれば、娘が妻と一緒に過ごせる時間が増えて、もっと2人が楽しくなるんじゃないかと思ったのだ。
 
これまで我が家は「あなたが干すと洗濯物がしわだらけになる」という理由から、ぼくが洗濯物を干すことは禁じられていたのだが、
 
妻も「朝は娘と一緒に過ごしたほうが登園がスムーズになるのではないか?」と考えていたらしく、付き合ってから15年目にして初めて許可が出た。
 
そうすると本当に、娘がご機嫌に過ごす時間が増えた。
 
手ごたえを感じたし、まずはお金を稼ぐことに躍起になるより、家事を積極的にして、家の中を平穏にしようと思えた。
 
洗濯に加えて、掃除機がけ、朝ごはんの皿洗い、夜ご飯の調理と片付けが日課となるまで、あまり時間はかからなかった。
 
娘の送り迎えに加えて、これらの家事をやり始めたことで、1日のうち、仕事に使える時間が1~2時間程度減った。正直、時間だけを見るとビビる。
 
でも、今はこれでぜんぜん困ってないし、むしろ最近の我が家は皆ご機嫌だから、とても心地が良い。
 
そして何より嬉しかったのは、妻の手荒れが消えたことだ。
 
妻は出会った15年前から、ずっと手荒れの傾向が強く、冬ともなれば毎日あかぎれを起こし、辛そうにしていた。
 
そんな妻の手が、今年は全く痛そうじゃない。どこを見ても、ツルツル!
 
これは妻の家事が減って、手を洗う回数が減ったことによる成果だ。
 
代わりにぼくの手が少しだけ荒れるようになったけど、ちょっと荒れている自分の手が、むしろ誇らしく感じられる。家事をやり始めて、本当に良かった!
 
このように大進化を遂げたぼくだが、実は、まだ妻の許しを得ることができていない家事がある。
 
洗濯物をたたむことだ。
 
「あなたがたたむと、しわだらけになるからね」妻はそう言って笑っている。
 
いつかはぼくも、洗濯物を上手にたたんでみせようと思うけれど、それはまでもうしばらく妻に甘えておこうと思う。
 
洗濯物をたたむのは、ほぼ唯一、手洗いをしなくてOKな家事だから、きっと妻も許してくれるだろう。
 
山あり谷ありの15年間、妻にはいつもお世話になっております。
今後ともどうぞよろしく。
 
 
 
 
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2020-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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