メディアグランプリ

アラフォー会社員が初めて路上ライブをしてみたら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石野敬祐(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「いしのさん、そういえば警察に捕まらなかった?」
 
忘年会での出来事だ。僕がお手洗いから戻るとき、別のテーブルに座っていた友人に声をかけられた。警察のお世話になるようなことはしていないはずなんだけど、なんだろう。
 
「路上ライブしたんでしょ?」
 
ああ、その話か。1年以上の前の話、今更感あるけど。
「正確には、路上ライブをやったといえるかわからないけど、路上では歌ったよ」
 
習っているボーカルの先生に、レッスンの日に誘われたことがきっかけだった。
「僕ら、明日川崎駅前で路上ライブするんですけど、いしのさん、そこで少し歌ってみませんか?」
 
先生はアマチュアミュージシャンとしてユニット活動をしている。CDも出している。彼らの活動の一環で、川崎駅近くの路上で歌う予定とのこと。彼と僕は先生と生徒という関係ではあると同時に、話の合う友達みたいな関係でもあった。
 
「面白そう! やってみたい! でも……」
 
ノリでしかない。乗れる波には乗ってみる。一人では絶対に路上で歌ってみるなんてできないからこれはチャンス。ただ、路上ライブって大丈夫なのかな。警察に止められてる人とかも見たことあるし。捕まるとかっていうのも嫌だな…… そんな感じで怖さもあった。
 
先生に質問してみた。「特に届け出などはない」「川崎は大丈夫なことが多い」「止められることがあるとすれば、人が集まりすぎて人が通れなくなるとか、クレームが来たとかの時」ということがわかった。
 
心配な気持ちがすべて解消されたわけじゃなかった。ただ、路上ライブってなんか面白そうと思っていたし、何かを変えたいという気持ちが上回った。ちょうどその時期、僕はいろんなモチベーションを失っていた。やっぱりやってみると改めて返事をした。
 
その日の帰り道も、家に帰ってからも、僕は興奮状態が続いていた。遠足前の子供のように、なかなか寝付けなかった。
 
そして翌日。仕事が片付かず、予定より遅れて会社を出た。川崎に向かう電車の中、気付くとスマホにライブ配信アプリSHOWROOMの通知が届いていた。先生たちのユニットが、路上ライブの様子を配信しはじめたというものだった。
 
えー、これって僕も電波に乗っちゃうってこと?
 
なんだか恥ずかしい気持ちにもなりながら、川崎に到着。
駅前ではその日も、目に入っただけでも4組が路上ライブをしていた。
先生たちのところに向かう。数名が立ち止まって聞いている。良かった、警察に止められて終了してなかった。歌っている先生に軽く会釈をしながら立ち止まり、僕も観客として時間を過ごす。
 
そしてその時はやってきた。先生は視線をこちらに向けた。マイクを外し「そろそろいきますか?」と僕に声をかける。心臓がドキドキいっている。ここまできたらやるしかない。大きく頷く。
 
先生がマイクを通して、MCを始める。
「音楽仲間が来てくれているので、ちょっと歌ってもらおうかと思います」
 
ええー。そんな紹介の仕方、きいてない。上手い人が仲間とか言わないでよ。文脈として上手い人、みたいに勘違いされちゃうんじゃない?! でももうマイクが差し出されている。戻ることはできない。
 
諦めてマイクを受けとり、振り向いた。
 
その景色は、今まで人前で歌うときに見た景色のどれとも違った。
 
その日は金曜日。夜20時頃。乗換駅でもある大きな川崎駅前。視界に映る人はたくさんいた。当然といえば当然だが、そんな中、僕に向けられた視線は、もともと先生方のライブを聞いていた人だけ。
 
ある意味気が楽になった。多くの人は、僕に期待なんてしていないし注目もしていない。これで、一人でもちらっとこっち見てくれたら、「勝ち」じゃない?
 
予定していた2曲を歌った。あっという間の10分だった。
 
僕の歌で足を止める方は、一人もいなかった。でも。
数名から、拍手をいただけた。
通りすがりの人々の中に、ちらっとこちらを見てくれた方が何人かいた。
 
そんなことが本当に嬉しくて、照れくさくて、むずがゆくて。そして晴れやかな気持ちになった。ニヤニヤしてしまっている自分に気づき、ごまかすように先生にマイクを返し、一観客に戻った。
 
こうして僕の路上ライブデビューは終わった。
その景色は、夜なのにとても明るく記憶に残っている。
 
この歳になって路上で歌う経験ができた。チャレンジしてみることの楽しさ、大切さも感じられた。何より、そうこうやって僕の歌を聞いてもらえること、僕という存在に一瞬でも意識を向けてくれること。それだけでも本当にありがたいことだと実感できた。同時に、知らない方にも歌を届ける難しさを改めて実感した。
 
それ以降、路上では歌っていない。まだまだ人様に足を止めてもらえるような歌は歌えていない。だけど、いつかは二回目の路上ライブの景色、見てみたい。
 
 
 
 
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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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