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メディアグランプリ

3万円として扱われた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:いしはら(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
本当は、こんな悲しい話なんて書きたくない。まさか自分がそんな目にあう日が来るなんて。わたしは狭くて深い人間関係を築くタイプなので、なおさらショックが大きい。今でも信じたくない、でも、もうそれは起きてしまった。
 
「ついに結婚するの、だから結婚式に来てほしくって」
 
高校時代からの友人からそう聞いたとき、本当にうれしかった。昔からずっと「早く結婚したい」と言っていた彼女はプロポーズを心待ちにしていたし、あまりに待たされて悩んでいる姿も見ていただけに、ニコニコと話す彼女を見てすごくうれしくなった。ほっと安心した。
 
「明治記念館で結婚式をするんだ」、大学生の頃にそう言っていた彼女が選んだ結婚式場は残念ながらそこではなかった。二人の思い出の地、横浜にある式場に決めたとのことで、その方がお互いの気持ちも込められるから良いよねなんていう話をした。なんだかすごく良さそう、そう思った。
 
そんな中でコロナショックだ。ツイッターには結婚式を泣く泣く中止して大損害を食らっている人や、開催を強行するなんておかしいと批判する参加者など、あらゆる立場の人の声が溢れている。友人はどうするんだろうと心配していたら、ほどなくして連絡が来た。「やります」と。
 
やると決めたのなら行くまでだ。でも、本当に行って大丈夫だろうか? 正直なところ、人の集まりに行くのは若干ためらわれる。でも、それでも、念願の結婚式なのだからお祝いしたい。よし、行こう
 
こうして迎えた結婚式当日。
 
余興を新郎新婦からリクエストされていたので、準備のために朝早くから会場入りし、余興メンバー30名ほどで確認と練習を2時間ほどこなした。12時10分、挙式の受付がスタートしたのでロビーへと移動、そこから待つこと50分。ようやく挙式の案内がされた。
 
じつは正直この時点で疲れてしまっていた。余興のリハーサルでも結構なエネルギーを使ったのに、ここで50分も待たされるとは。朝ごはんなどとっくに消化している。差し入れとしてウイダーインゼリーを貰ったけれど、あまりお腹にたまらない。
 
挙式会場は明らかにキャパオーバーだった。こんなぎゅうぎゅうにゲストが詰めこまれた神前式は初めてだ。様々な儀式が淡々と進むけれど、どうにも感動がない。それはおそらく安っぽいBGMとカラフルな照明のせいだろう。最後の最後、誓いの言葉をふたりが読み上げている時、新郎が肝心なところで噛んだのが印象に残った。
 
お式が終わるとまた30分以上待機。ソファは数台しかなく全員は座れない状況で、おめかしして高いヒールを履いている女性陣はしんどそうだ。
 
ようやく始まった披露宴は、新郎新婦の挨拶から、すぐに乾杯となった。乾杯の挨拶は共通の友人が務めていたのだけれど、いかんせん会社関係などの目上の人による挨拶が全てカットされている中でのスピーチなので終始恐縮しきっていた。そもそも、大体の披露宴ならあるはずの新郎新婦のプロフィール紹介が無かったので、せっかくのエピソードもいまいちゲストに伝わらない。なんだろう、このもどかしさは。
 
そんなこんなでふわっと乾杯が終わって、さあご飯だ! といきたいところだったけれど、そのまま余興に突入。披露宴開始後わずか15分でスタートした余興にゲストは戸惑っているように見えた。わたしたち出演者としても肩身が狭い。無事に終わったことだけは救いだった。
 
やっとお食事にありつけたのはほとんど15時だった。空腹感は一周まわってどこかへ行っていて、肝心のお料理は……おいしいけど普通だった。メイン料理は豚の角煮。好きだよ、好きだけど。なんとも言えない気持ちがじわっと広がる。
 
ちなみに今回の披露宴では誰も料理の写真を撮っていない。後日ゲスト同士でシェアしたフォトアルバムにお料理の写真が1枚もなかったのだ。今までの結婚式は思わず撮りたくなるようなご馳走ばかりだったことを知った。
 
あらゆる場面で、期待がガラガラ崩れていく。
 
せめて新郎新婦が幸せいっぱいだったら良かったかもしれない。ふたりが目をあわせてニコッとほほえみあうとか、そういうちょっとした振る舞いからにじみ出るハッピーオーラがあれば救われたはずだ。
 
でも現実は違った。ふたりにはどことなく距離があった。新郎は新婦にかまわずスタスタ行ってしまうし、新婦も別のところを見ていた。極め付けには新婦がお色直しで退場後、新郎も退場する段のこと。エスコート役として新郎が指名したのは高校時代の友人とかいう綺麗な女性だったのだ。「開いた口がふさがらない」とはこのことか、と実感させられた。
 
わたしは一体、何を見せられているんだろう?
 
その後もあらゆる気付きがあったけれど、どれも気付いたことを後悔するものばかりで、だんだんとそれらはわたしの頭の中で一本の線につながっていく。そして残念ながら、その疑念は閉会にあたっての新郎挨拶で確信へと変わった。
 
「この状況の中、開催を迷いました。でもこうして楽しい会ができたので、やって良かったと心から思っています。今回のピンチも乗り越えることができたので、これからも二人でやっていけると思います。ひとまず来月の新婚旅行がアメリカですが、なんとかします。楽しみです。ありがとうございました」
 
うん、やっぱりそういうことだよね。あなたたちはお金が欲しかったんだ。
 
わたしは自分が「3万円」だったことを自覚した。新婦の理想からグンと落としたグレードでの結婚式、このご時世での強行開催。蓋を開けてみればゲストを無駄に待たせるわ、とんちんかんなプログラムだわ、豚の角煮だわ。ゲストを楽しませるという視点がまるでないし、ゲストの体調を思いやる言葉は最後まで一言も出なかった。
 
そう、あのふたりは、何が何でも結婚式を開催しなければならなかったのだ。
 
ご祝儀で儲けるために。
 
別にリーズナブルな結婚式でもいい。でもそれならば気持ちのこもったおもてなしが欲しかったし、ふたりのラブラブな姿が欲しかった。でもあの結婚式には何もなかった。お金もない、準備に時間もかけてない。ゲストへの気持ちもなければ、ふたりの愛もなかった。ただでさえコロナでナーバスな状況だから、なおのこと腹立たしさが募る。
 
何だったんだろう。今まで仲良くしていたけれど、3万円としてしか見られなかったんだなあ。思い出される、13年分の楽しかった記憶が虚しい。
 
それにしても今回のこの一件で、結婚式がいかにリスキーなイベントであるかを思い知らされた。主催者は3万円という少なくない金額と1日分の貴重な時間をもらうのだから、ゲストに「なーんだわたしは3万円に見えてたんだ」なんて思わせるクオリティのものなどやってはいけないのだ。
 
結婚式を開催するなら、ちゃんとお金をかけて有名どころでの開催にして質を担保しておくか、とにかく時間をかけて何を選ぶにもこだわり抜き気持ちが伝わるようにするかだなと思った。
 
うんうん、良い勉強になったよ。わたしにもし結婚式をする機会があれば、絶対にこんなことしないように気をつけよう。
 
横浜ご当地のコーヒー・お菓子・フカヒレスープという、お土産屋に並んでいる安価で派手なパッケージの引き出物一式に「ツーショットのマグカップが出てきた方がマシだった……」と思いながら、学びの機会を与えてくれた彼女に感謝した。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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