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過保護or予防?

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:sakura_shuri (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ギャー!」
叫び声が聞こえた。私の横を父が駆け抜けていく。一番下の弟、トモを抱えて台所へ。私はその後を追いかけて流し台にたどりついた。蛇口から水を出した。水が流れていくその先に何か白いものが流れていくのが見えた。トモはすごい声で泣き続けている。母や周りの大人たちは救急車を呼んだり、氷を出したりと慌てふためいている。
 
あの日は、夏の暑い日で、私はまだ小学校3年生だった。3人兄弟で私が一番上、2番目の弟は5歳、3番目で一番下のトモは1歳半でちょうど上手に歩き始めた頃だった。母方の親戚が集まり、庭でバーベキューをしていたのだ。多くの大人と小学生、幼児といった小さないとこたちもたくさんいた。バーベキューが終わり大人たちはお酒を飲みながら話に盛り上がっていた。その横で私たち子供はおもちゃで遊んでいたのだった。
 
確かラジコンカーの入っていた少し大きな発泡スチロールの箱だったと思う。まだ1歳半のトモはその箱が気に入ったのか、箱を頭にかぶって遊んでいたのだった。庭でバーベキューをした後だったので、使った炭を端によせて自然に火が消えるのを待っていた。問題はその炭が土管のような丸いコンクリートの中に入っていて、上に何もカバーがなかったことだった。
発泡スチロールの箱をかぶったトモは前が見えない状態で歩いていた。まだ1歳半歩き始めたばかりで足取りもヨチヨチ歩きである。何かにつまずいたのか、そのまま火のついた炭が入っている土管に頭から突っ込んでしまったのだ。ちょうどお腹が土管に引っかかり、足は地面から離れ宙ぶらりんの状態である。小さな右手が炭をつかみ、頭から落ちるのを右手だけで支えていたのだった。
 
トモの叫び声を聞いてびっくりした父が急いで駆けつけて、トモを土管から引き離してそのまま台所へかけていった。私が見た白いものは水と一緒に流れたトモの右手の皮だった。
 
トモは右手のひらの皮が全部むけてしまい、やけどによって手の指と指が少しくっついてしまったが、幸いなことに右手以外の部分にやけどはなく、前髪が少し焦げたくらいだった。
 
私はまるで野口英世みたいだとトモのことを思った。それからトモは小学校に上がるまで入院や手術を繰り返した。指がきちんと動くようにくっついた指をひろげ、はがれてしまった皮膚を自分の足の付け根から移植してきた。小学生になる頃にはすべての治療を終えていた。そのころには手の甲から見る分にはやけどをしていることは、他の人にはわからなかった。手のひらを上に向けて見せると、日焼けした手のひらと少し変形した指が見えた。手のひらや足の裏の皮は日焼けをしないのだが、足の付け根から取ってきた皮膚のためどうしても日焼けをしてしまうのだった。
 
最近まで私はこのことをすっかり忘れていた。あまりにも昔のことだし、トモも病院に通うこともなく普通に過ごしていたからだ。でも自分に子供が生まれ、友達とバーベキューをしようという話になって突然思い出したのだった。
 
「バーベキューが終わったら真っ先に炭の火を消して片づけてね!」
旦那や友達に伝える。その周りをあの頃のトモと同じ年頃の子供たちが歩きまわっていた。ドキドキしながら周りを見渡す。バーベキュー台は子供の遊んでる場所からできるだけ離れたところに置いた。焼けたお肉や野菜は大人がとって、テーブルまで運んであげる。できるだけ子供が火に近づけない状況を作りだすことにした。
 
これまで親の立場に立って考えたことは一度もなかった。どちらかというと私は小学生の時の親をトモに取られてしまった、放課後の時間を彼のリハビリに付き合わなければいけなかった思い出しかない。
夏休みなどの長期の休みにはトモの手術や入院の予定が入り、両親は付き添った。普段は共働きの両親に代わり、週に何回かトモをリハビリにも連れて行った。くっついてしまった指を動かすためのリハビリだ。そのために私は友達と遊ぶこともできず、トモがリハビリをしている間は特にすることもないので、病院の中で一人で遊びながら終わるのを待った。
今考えると病院もだいぶ緩い時代だった。小学校5、6年生の子が4,5歳の子を連れて病院に通っていたのだ。
 
自分の子供たちがトモと同じ目にあったら。想像するだけで耐えられない。そんなことになったらずっと自分自身を、その場にいた人達を、攻め続けてしまうだろう。なぜあの時目を離してしまったのだろう? なぜ炭をすぐに片づけなかったのか? ラジコンカーの入った箱をすぐに片づければよかったのか? もしかしたら人のせいにしてしまっていたかもしれない。それによって夫婦ケンカをして離婚してしまうかもしれない。幸い私の両親は離婚しなかった。もしかしたら夫婦の間ではケンカをしたかもしれないが、子供の私にはわからなかった。
 
本当に些細な事で人生は変わってしまう。いつどこで何が起きるかわからないし、未来を予知することもできない。でも何かが起こる前に先回りして考えることはできる。なかなか意識して考えることはできないけれど。特に子供というものは全く予測ができない生き物である。右に行くかと思えば後ろに行くし、まっすぐ進むかと思えばしゃがむ。あまり子供の先回りして危険を排除するのは良くないが、自分や周りの人が後悔をしないように、生命に危険の及ぶようなことが想定できる場合には、先回りしてできるだけのことをしようと思った。
 
 
 

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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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