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メディアグランプリ

おしゃれからの脱皮


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々木 慶(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
「なんか芋虫っぽいんだよね」
え、私のこと? 何のこと言っているの?
ひどく混乱した。
 
昔のアルバムを見る限り、物心つく前から服を着ていた。
もちろん、何を着ていたかはよく覚えていないが、きっと両親が私の成長や見た目に合わせて服を買って着せてくれていたのだろう。
 
物心ついてからも、同じ。
親から買ってもらった服をただ着るだけ。
 
受験に無事合格し、大学に進学してからは、さすがに自分で服を買うことにしたが、
服装には大して興味を持てなかった。
とにかく安さ重視。着られれば何でも良かった。
そう、あの時までは。
 
大学1年生の冬のことだった。
当時、在校生向けのイベントを企画運営するサークルに在籍していた私。
入部してまもなく一年が経とうとしており、友人も多くできていた。
そのサークルの友人達と東京都心の遊園地に遊びに行くことになったのだ。
 
仲の良い仲間たちと遊園地に行くことにとても心が躍った反面、私はとても焦っていた。
遊びに着ていく服がなかったのだ。
大学のある街は東京都にこそ属していたが、東京には思えないくらいのどかな街だった。
渋谷や新宿といったテレビによく出てくるような街に憧れを持って上京してきた私にとっては、少々物足りなかったが、その分、気を遣わず過ごすことができた。
 
特に、それが顕著だったのは「ファッション」である。
地元に住んでいたときと同じような地味な服装でも気兼ねなく過ごすことができた。
街には、スーパーや飲み屋もたくさんあって、わざわざ都心に行かなくとも日常を過ごすことができた。
しかし、遊園地となってはそうはいかない。都心に行かなければ、遊園地がなかったのだ。
都心に行くとなれば、さすがに着ていく服も考えないといけない。
しかし、着ていく服がない。
焦りながらも、ひらめいた。
ジャンパーさえ買えば、ダサさをごまかせるのではないか!
最寄り駅の近くにある大手衣料品店に急いで向かった。
色が鮮やかな方がおしゃれだろうと思い、グレーベースで胸元が黄緑色のジャンパーを購入。
これで、遊園地に行っても恥ずかしくない!
そのはずだった。
集合して早々、友人の一人からこんなことを言われた。
 
「なんというか、もさっとしているんだよね」
見た目を気にして、わざわざ新しく買ってきたのになぜ?
おそるおそる友人に聞こうとしたら、とどめの一言。
「なんか芋虫っぽいんだよね」
ますます分からなくなったが、これ以上聞いていては遊ぶ時間がなくなってしまう。
疑問は胸の中にしまうことにした。
しかし、どうしても拭い去ることができなかったので、後日友人に聞いてみた。
 
「どうすれば芋虫っぽくなくなるの?」
「とりあえず、いろいろな服を買ってみたらいいんじゃない。俺が買っているお店を教えるよ」
芋虫からどう変われるのか分からなかった私は、友人のアドバイスに乗ってみることにした。
 
教えてもらった情報を頼りにたどり着いたのは、若者に人気の街ランキングの上位に入る街にあるお店。
ドキドキしながら、店のドアを開いた。
 
中には、今まで私が着たことがないような服のデザインがずらり。
それに、値段も高くても4,000円程度という、何かと金欠だった私にとって、非常に良心的な価格設定。
自然と、大学時代はもっぱらそのお店に通うことが多くなった。
Tシャツ、ポロシャツ、パンツなど主要な服は大体この店で揃えた。
 
これ以降、サークルの友人に服装についてのダメ出しを受けることはなくなった。
やっと、おしゃれになることができた! この店で服を買えば問題ない!
 
モヤモヤが晴れ、安心したためか、残りの大学生活は再び服に無頓着に過ごすようになっていった。
 
その後、就活を無事終え、社会人になった私。
ある日、同期の友人達とバーベキューに行くことになった。
社会人になってできた新たな友人達との初めてのイベント。
持っていた服は襟や袖のあたりがヨレヨレになってこともあり、服を新たに買うことに。
購入先は、大学2年生の時から通っていたあの衣料品店。
 
これなら、みんなからおしゃれに見られて無事社会人デビューが果たせる!
そのはずだった。
 
「ちょっと服の色味が合ってないような気がするんだよね」
「あと、サイズ感も合ってないかな」
予想もしなかった痛烈なダメ出しを受けた。
 
今まで、そんなこと言われたことなかったぞ!
心の中でそんな言葉がよぎった。
 
しかし、同期の表情は真剣だった。
何より彼自身の服装がとてもおしゃれだったので、何がだめなのか具体的に聞いてみた。
 
色黒である私には派手な色は似合わないというのだ。
それに、身体よりも服のサイズが大きすぎて見た目がだらしなく見えるらしい。
 
そりゃないよー。
俺は大学の友人のアドバイスに乗っただけなのに……。
 
そんなぼやきを脳内でしていたことを知ってか知らずか、同期はこんなことを言ってきた。
 
「ちなみに、僕が言っていることはあくまでも一意見だからね」
 
え、どういうこと? さっき言ったことは嘘だったの?
と、一瞬思ったが、すぐにその言葉の意味に気付いた。
 
大学の友人がすすめた店で服を買えばおしゃれになると思っていた。
おしゃれな同期の友人の言うことを聞いていれば、自分もおしゃれになれると思っていた。
 
しかし、それは大いなる勘違いだった。
彼らが間違っていることを言っていたとは思えない。
それに、アドバイスも私のことを考えた上で言ってくれたことだろう。
 
ただ、服を着るのは、あくまでも自分自身。
自分の背丈や体格に似合う服は何か。
何より、自分が着たい服は何か。周りからどんな風に見られたいのか。
 
今まで、そんな風に自分に向き合ってこなかった。
周りばかり見ていて、ただ、漠然とおしゃれに憧れていただけだった。
言ってみれば芋虫なのに、鳥になれると思い込んでいるようなものだった。
 
じゃあ、私は一体何になりたいのか。
改めて考えてみた。
 
おしゃれになる必要はない。
ただ、自分自身に似合う服を着たい。
そんな気持ちが自然と湧いてくるのが分かった。
 
それからというもの、私はおしゃれを目指すのを辞めた。
代わりに、自分の背丈や体型、そして気持ちにいかに沿っているかを重視するようになった。
 
派手な色を辞め、地味な色を選ぶようになった。
アウターを揃える前に、汎用性がある黒のスキニージーンズを買った。
 
きっと昔、私自身が思い描いていたようなおしゃれな感じではないだろう。
しかし、後悔はしていない。
自分に似合う服装を見つけることができたから。
鳥にはなれなかったけれど、芋虫から蝶になることはできたから。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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