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メディアグランプリ

クセが強い! だがそれで救われた。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ひろり(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ピンポーン」
 
「いらっしゃいませ~」
 
……どこにでもあるありふれたコンビニ。
 
その頃の僕は、ほぼ毎日仕事帰りに自宅近くのコンビニに寄っていた。
 
買うものがハッキリわかっている時も、特に用事もない時も、何となくコンビニにふらっと寄ってしまう癖が付いてしまっていた。
 
毎日残業続きで、肉体的、精神的両方でかなり参っていた。
片付けても片付けても作業が上から降ってきて、目の前の仕事をひたすら片付ける日々。
「テトリス」や「ぷよぷよ」と言った落ち物パズルを無限にやらされている感じだった。
 
仕事のせいでどんどん余裕は無くなっていき、肩こりや腰痛で全身はガチガチ。
気がつけば毎日憂鬱で、しかめっ面で過ごしていた。
 
そういう状況で、ほぼルーチンワークの様に毎日コンビニに行って、何か無いかと物色していた。もしかしたらストレス解消の手立てを求めていたのかもしれない。
 
ある日のこと、いつものようにコンビニに入ったら、「ぃいらっしゃいませぇ~」と
耳慣れない声が聞こえる。どうやら新しいバイトさんが入ったらしい。
毎日通っていると入っているバイトさんの事も何となく分かってくる。
この人はだいぶ長いとか、この女の子は金曜の夜しかいないとか。
 
新しいバイトさんは見た目20台後半の男性だった。
あんまり初々しさが無いため、恐らく他のどこかでコンビニバイトを経験したことが
有るっぽい見た目と振る舞いだった。
 
この時は「ふーん」すら思わなかった。バイトの移り変わりは日常茶飯事であり、
余程の事が無いと気にかけることも無かったからだ。
 
自宅で飲む酒のつまみに良いものは無いかな…… いつも読んでる雑誌の最新号はあるかな…… とウロウロしていたら、レジの方から例の新しい彼が
 
「なりがとうございやしたぁ~」
 
と他の客に挨拶していた。「ありがとうございました」なのだが、妙にクセが強い。
 
次々に来る客に対して
 
「なりがとうございやしたぁ~」
 
「なりがとうございやしたぁ~」
 
と連発している。
 
……5分位してから、何となく気になってきた。
僕の中の変なスイッチがピッとオンになった感じがした。
 
一度気になり始めたら、もう止まらない。
 
「ピンポーン」「なりがとうございやしたぁ~」
 
「ピンポーン」「なりがとうございやしたぁ~」
 
「ピン……」「なりがとうございやしたぁ~」
 
……やばい、段々面白くなってきた。
いわゆる「ジワジワ来る」とか「ツボにはまる」いう奴に僕はすっかりハマっていた。
 
畳み掛けるように彼は続ける。
 
「なりがとうございやしたぁ~」
 
ヤバい。ここで笑ったら俺が「あの人、何もないのに笑ってる。キモっw」とか
思われてしまう。
 
プルプルと肩を震わせ、口に手をあてて必死に我慢している僕を見て、他の人はきっと「変な人」と思ったに違いない。
 
我慢できなければ一旦コンビニを出れば良かったのだろうけど、当時の僕はそこに考えが至らなかった。
 
彼が「なりがとうございやしたぁ~」という度に、僕の精神力はゴッソリと奪われていく。
 
笑いを我慢するために全身の筋肉が硬直してしまう。
 
歯を必死に食いしばって耐えている。痛くも何とも無いのに。
 
なんて破壊力だ。面白すぎる。このままでは後数回が限度だ。
 
カラータイマーが点滅し始めたウルトラマンの様に、僕は焦っていた。
 
とにかく、なんとかその場を我慢して、自分の買い物を済ませなければ。
 
その一心だった。
 
気持ちをフラットに戻す。
 
深呼吸を2回。スー… ハー… スー… ハー…
 
よし。大丈夫だ。俺ならいける。平静を装って、いつもと同じ様に買い物ができる。
 
自分に無理やりそう言い聞かせて、僕はレジ待ちの行列に並んだ。
 
新人の彼は相変わらず「なりがとうございやしたぁ」を繰り返す。
 
調子に乗ってきたのか、段々演歌歌手のようにコブシが効いてきた。
 
「んなりがとぅございやしたぁぁぁ」
 
ああ……もうダメかもしれない。
僕の笑い我慢メーターは限界を迎えていた。
 
ところが、幸いなことに、僕は彼とは違うレジに案内された。
 
今にも笑い転げそうな引きつった顔を見て、店員の女の子は何かを察したような顔をして
 
ニッコリと笑顔を返してくれたが、きっと僕の顔は相当酷いものだったろう。
 
なんとか店内で爆笑するという事態だけは回避して、そそくさと物陰に隠れた後
僕は声を出さずにヒィヒィと笑った。声を出さずに爆笑するのは難しい。
笑いすぎて腹筋がどうかなりそうだった。
なんかこういうシチュエーションって「トムとジェリー」であったような……
 
ひとしきり笑った後、ハァハァ言いながらようやく落ち着きを取り戻した。
 
やれやれ、ひどい目に遭った……と最初は思ったが、思いっきり笑ったことで
妙に気持ちがすっきりして、なんだか身体が軽くなった気がした。
そうしてふと考えた。
 
毎日ストレスフルな状況で、滅多に笑うことも無かった毎日で、たった一人のコンビニ店員の挨拶で肩を震わせるほど笑ったことが今まであっただろうか?
 
俺はまだ笑う事ができる。笑えるということはまだ何とかなるんだ。という気持ちに
させられたのである。
 
コンビニ店員さんの挨拶が面白かったからと言って仕事が楽になる訳では決して無いが、
少なくとも前に進むだけの力をちょっぴりおすそ分けしてもらったような気分だった。
 
その後、段々と「んなりがとうございやしたぁ」にも慣れてきて、流石に店内で笑う心配はほぼ無くなった。安心してコンビニ通いを続けていたが、数カ月後にその店員さんは居なくなってしまった。
恐らく条件の良い職場を目指して新しいコンビニに移ったのだろうが、詳しくは分からない。
 
結局彼とは最後まで会話する事は無かったが、僕にちょっとだけ前に進む力をくれた彼に感謝したい。まだどん底ではないんだ。笑うことができるんだという事に気づかせてくれたから。
 
 
 
 
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2020-04-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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