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メディアグランプリ

田舎暮らしの母、若返り大作戦!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森北 博子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「こんなに面白いオモチャを与えてくれて、ありがとう」
母は、孫たちとの他愛のないLINEのやりとりにすっかり夢中だった。
 
ちょうど1年前、母はLINEデビューした。
79歳の誕生日プレゼントとして端末を贈り、半ば無理やりLINEを始めさせた。
 
最初に提案をしたときは、「もう難しいことは覚えられないから、いらないよ。ケータイのメールで充分」と断られてしまった。けれども半年後には「面白いオモチャ」と感謝されたのだから、ニンマリである。
 
母にLINEを勧めたのには、理由があった。
その経緯を話したいと思う。
 
父と母は60歳を目前に自営業をたたみ、東京から田舎に引っ越した。
25年ほど前のことだ。
 
盆と正月には私たち子ども4人は孫を連れて会いに行く、それ以外はたまに電話をするぐらい。両親が元気なのをいいことに、ずっと2人きりにしていた。
 
事態が一変したのは、昨年の正月明けのこと。
母の身体に、悪性の腫瘍が見つかった。
 
高齢なこともあって「手術するかしないかは、本人の意思」と医師に言われたが、母は果敢にも挑むことを決意した。さすが江戸っ子、度胸が据わっている。
 
幸い術後の経過もよく、今では普通に日常生活を送れるまでに快復した。
しかし母は大病を機に、すっかり「おばあさん」になってしまった。
 
79歳だから「おばあさん」に違いないのだけれど、病気がわかる前の母は、まるで「女学生」のように気持ちが若々しかった。元来、話し好きで人懐こく、陽気で社交的、年を聞かれたら「永遠の48歳です」とおどけてみせるお茶目な一面もあった。
 
だが手術が迫ると、母は無気力になり、外出も減って、録りためたドラマを見るだけの生活を送るようになった。録画が尽きると、一日中ずっと居間の椅子に座り、ボンヤリ頬杖をついて過ごすこともあった。背中を丸めて摺り足で歩く様は、老婆そのものだった。
 
死の恐怖は、母の「若さ」を奪ってしまった。
年齢を考えれば「死」は決して遠い将来のことではないのだが、母にとっては他人事だったように思う。一気に、実年齢を超えてしまったように思えた。
 
「病は気から」が真実ならば、このままだと別の病気を引き起こしかねない。それに、ボケることだってあり得る。心配でたまらなくなった。
 
そこで思い付いたのが、LINEだった。
 
LINEを覚えれば、私たち子どもはもちろん、孫たちとも気軽にメッセージのやり取りができるし、スタンプ1つ送るだけでもコミュニケーションは成立する。それに、画面をタッチすれば操作できるのだから、ガラケーより高齢者向きだと思う。新しい挑戦は、きっと脳に良い刺激を与えるに違いない。
 
私はすぐに格安SIMを契約した。端末は、老眼でも見やすいよう画面の大きな7インチのタブレットを探した。すると、片手でも持ちやすく、iPhoneよりも軽いタブレットが運よく見つかった。価格も7,000円台と手ごろだった。
 
諸々準備しながらも、「いらない、いらない」と言っていた母がどこまで受け入れてくれるか不安もあったが、やってみないとわからない。それには、LINEに興味を持ってもらうことが一番だ。それでダメなら、ほかの手を考えればいい。
 
LINEに必要なすべての設定を整え、少し早目の誕生日プレゼントとして母にタブレットを渡した。
 
まずは、私のスマホと母のタブレットを並べて、何度もメッセージのやり取りをしてみせる。
 
「へぇー。これ、今、送ったものだね」
「うん、そうだよ。仕組みはケータイのメールと同じ。
送ったメッセージと相手の返事が同じ画面で見えるから、イメージしやすいでしょ?」
 
母は、ジッと画面を見つめながら説明を聞いていた。
 
そして次は、フリック入力だ。
入力には、タッチペンを使うことにした。いつも母は、タッチペンを使って3DSの「脳トレ」をしているので使い慣れている。
 
「このボタンを見て。上下左右に文字が書かれているでしょう?
書かれた方向にスライドすると、ほらね、文字が出てきた」
「あら、ホント」
 
ちょっと難しいかな、と心配だったが、四苦八苦しながらも、母は何度も繰り返し練習をした。何度かメッセージのやりとりをするうち、時間はかかるものの入力の仕組みは理解できたようだ。
 
次に、可愛いスタンプをいくつか購入した。
母が大好きなドラえもんと、チコちゃんの動くスタンプを選んだ。
 
「いろんな絵があるんだねぇ。あら、動いたよ! ゆかい、ゆかい」
 
母は、ケラケラと笑った。
どうやらLINEに興味を持ってくれたようで、「つかみはOK」である。
 
その日以来、毎週のように母に会いに行っては、LINEの基本操作を覚えるまで根気よく練習に付き合った。
 
そして、姉や妹・弟、そして孫たちにも協力を仰ぎ、代わる代わる母にLINEを送ってもらった。特に、孫たちからのメッセージは嬉しかったらしい。母に会いに行くたび、誰々がこんなことを書いてきた、今こんなことをしているらしい、と報告してくれた。
 
やがて、毎朝LINEの着信を確認することが、母の日課になった。
「何も届いていないと、あぁ、無かったーって思うのよ」
そんなことを言われたら、何かメッセージを送らないわけにはいかない。
 
とにかく、LINEを楽しんでくれているようでホッとした。
 
ここ1~2カ月は、新型コロナウイルスの感染を恐れて両親に会いに行くのを控えていることもあり、先日、試しにLINEのビデオ通話を教えてみた。
 
家の電話で指示をしながら使い方を伝えると、案外あっさり使いこなせるようになって驚いた。ちょうど居合わせた娘たちに代わると、母はずいぶん長い時間、孫たちとのおしゃべりを楽しんでいた。
 
「こんなこともできるんだねぇ。ゆかい、ゆかい」
画面の向こうで母は、しわくちゃの顔で笑っていた。
 
最近は、散歩が母の日課に加わった。
幸い田舎なので、コロナ感染の心配は少ない。
「奥さん、今日も頑張ってるねぇ」
垣根越しにご近所の方たちの励ましをうけながら、1日6000歩を目指して散歩に精を出しているそうだ。
 
LINEデビューから1年が経ち、母は今月80歳の誕生日を迎える。
「永遠の48歳」に戻れる日も、きっと近いに違いない。
 
 
 
 
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2020-04-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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