メディアグランプリ

タイムマシーンは実在する便利な道具だ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青木 永一(ライティング・ゼミ通信限定コース)

 
 

「勉強、なんでもっとしっかりとやっておかなかったのかなぁ……」

 

何をやっても中途半端どころか、真似ごとに少し毛が生えた程度でいつも終わる自分の「ええかっこしい」には、情けなさやら恨みやらが混ぜこぜになって息が詰まりそうだ。

 

これまで何度も自分より年若い者に対して、どれだけの財産をもってしても買えない価値が「時間」であることを散々に説いてきたが、すべて過去の自分への恨み節というオチだ。

 

さすがに、一人で居ると気が滅入るので、着替えて外へ出てみた。

 

「あの頃に戻れたら……」

 

ぼろ雑巾(ぞうきん)のように使い古された言葉に、ため息しか出ない。

 

見上げた空は「意に介さず」の姿勢で、爽快な青を突き付ける。

 

大して上手くもないギターを持って歌を唄い、各地のライブハウスをツアーと称して自費で周り、レコード会社のオーディションを受けては落ちる、そんなことをただ繰り返すことで「夢を追う」を売り物にして自分に酔っていた。

 

いつか必ず報われるときが来ると、今思えば方向を間違えた思い込みだけの努力を積み上げていた。

 

ようやく自分の才能の無さに諦めがついたのが、27歳の時だ。
正直なところ「これで楽になれる」と腹の奥底ではそう感じていた。
もう、勘違いに気付きながら走らなくて済むんだと、救われた気持ちを持っていた。
 

ただ、ようやくそこから始まった社会人としてのスタートは、自分の無能っぷりをより一層さらけ出す序章にしか過ぎなかった。

 

自分に基礎学力がないのではないかと思えるくらい、周りのやつらの理解の早さや、自分の対応力の無さに幻滅するほど、他の連中が会社の規則に従う姿勢にまったくついていけない、恥なのか悔しさなのか、馬鹿らしさなのかよく自分でも理解できずに整理できない連続だった。

 

無理もない。

 

私が夢に遊び呆けているうちに、同年代の者たちは厳しい大学入試の関門を抜け、新しい出会いから生まれる人脈を築き、知識を蓄えながら仲間とともに様々な経験と思い出を重ねて出来上がった和の中に、突如として古びたタイムマシーンに乗って過去から訪ねてきたような、いつかどこかで見たような間抜けな存在を、異物混入と同じく見下して当然だろう。

 

それでも自尊心を失わなかった自分は、これまでの時間を取り戻すかのように、仕事を終えてからの時間のほぼ全てを、資格取得のために費やしたからだ。

 

追いつきはしないが、少し前までの自分からは明らかに成長を感じていた。
これが、単純な頭脳しかない者の素直さで、とても強みとなるところだ。
 

時は過ぎ。

 

あれから22年、今49歳にして立っている場所から見る風景は一変した。

 

経営学修士(MBA)と、西日本では唯一のビジネス数学インストラクターとして、小規模事業者を対象にした事業再生業務を生業(なりわい)としながら、一方では関西を中心に企業研修講師としても活躍するまでに成長を果たし、そしてさらなる挑戦を続けている。

 

今だから言えることだが、実は最初に勤務した会社が『ナニワ金融道』そのもの、アンダーグラウンドな業界だった。
複数の同業他社を渡り歩きながら経験と知見を重ね、責任ある立場を任され成果を果たしたのち、独立を果たした。
業界の特性もあり、怖い目に合うことは珍しくなく、修羅場も随分と潜ってきた。
 

今振り返れば、事業再生を担う仕事において、様々な資格や修士の称号を得たことは確かに自信にはなるが、実は何よりも泥臭い業界での経験が一番重要だったと確信している。

 

一つ、確かなことがある。

 

タイムマシーンは実在する。

 

そのことを説明したい。

 

取り戻せないものは「時間」であることに違いはない。

 

ただ、自分を恨むようにして後輩に説教をしていた「あの頃」は、明らかに考え方が間違っていた。

 

間違いというよりも「真逆」だったことに気づけなかった、が正しい表現だろう。

 

タイムマシーンは「昔に戻れるならば」のような、センチメンタルに思うための道具ではなく、真逆で考える勇気があれば、実現が果たせる夢の道具なのだ。

 

例えば、10年先の未来の自分を想像してみてほしい。

 

そこには、どんな自分が立っているだろうか。

 

今の延長で、現実的に考えてみてもらいたい。

 

その自分は、やはり情けない顔で「昔に戻れるならば」と呟いていたとしよう。
そして、それを許してあげてほしい。
 

だが、これまでと違うのは視点の逆転だ。

 

未来の、少しの情けなさが愛おしくもある自分の言葉がまさに実現していることにお気付きだろうか。

 

「昔」を10年とした場合、今この瞬間が戻ってきた地点だということを。

 

未来から時間をさかのぼり、やり直すことができる状況が「今」なのだ。

 

過去を悔いてばかりで行動を起こさないのでは、あまりにも奴隷的で残念な姿だ。
未来の自分を助けるために、今をどう生きれば面白くなりそうか。
 

タイムマシーンに乗って「今」へと何度でも帰ってこれることが理解できるだろう。

 

怖れるものはもう何もない。

 
 
 
 

***
 
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2020-04-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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