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思い残すことなんて、あるに決まってるけど


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記事:和辻眞子(リーディング倶楽部)
 
 
もし、自分が志半ばで死ぬことになったとしたら、何を考えるだろう?
 
たぶんだけど、自分が遺して行かなければならなかった多くのことについて、想いを巡らせるような気がする。
 
それは、家族のことなのか、仕事のことなのか。
過去のことなのか、未来のことなのか。
いいことなのか、嫌なことなのか。
 
人は本能的に、一番大事にしているものを、切羽詰まった時に最優先に考えるはずだ。
 
『とりつくしま』(東直子、2007 筑摩書房)は、死んでしまったら何も見えず考えない、暗黒の「無」の世界のはずなのに、死後に自分が思い残したことについて語っているユニークな作品だ。
 
期せずして死んでしまった人の元に、「とりつくしま係」がやってくる。そしてこう告げる。
 
「あなた、とりつくしまを、探しているでしょう?」と。
 
とりつくしま?
 
「取り付く島もない」という言葉ならある。相手にされない、つれない、スルーされる、そんな意味合いだ。
 
この本で、「とりつくしま係」が死んだ人に説明するところの「とりつくしま」とは、もう自分は死んでしまっているけど、まだ現世にある何かのモノに1度だけとりつくことができる、その「モノ」のことだ。
 
どんな人が、どんな風に亡くなったかによっても、何に取り付きたいのかが全く違ってくる。
 
夫は、妻が書いていた日記帳に、
嫌いな母に愛されたかった娘は、母の補聴器に、
幼稚園に通っていた子は、いちばん高いジャングルジムに、
 
それぞれが、それぞれのいちばん気になる人のその後が知りたくて、その人が最も心を置きそうなところにとりつく。そして、自分が気になった人のその後を見つめている。
 
死んでしまったら、この世から消えてしまったら、自分という存在がなくなる。でも、もしこの世に未練がたっぷりだったらどうするか。気になることが解決しないまま死んだとしたら、自分は安心してこの世から去れるだろうか。
 
そんなこと、できないに決まってる!
「成仏」してほしいなんて言われても、いくらお祓いされても、気になることは気になるし、自分が死んだ後に生き残っている人たちがよろしくやってるのを見るのなんて悔しくてしょうがない!
 
今の自分なら、そう叫んじゃうだろうなあ。
だって思い残すことなんて、あるに決まってるから。
 
もし自分だったら、何にとりつくだろう。
 
夫のメガネ、
長男のスマホ、
次男のPC、
実家の冷蔵庫の中にある梅干しの小鉢、
 
……まだまだある。
ここにはとても書けないものも、実はある。
 
自分がこだわっている人、好きな人がよく使うもの、ずっと周りに置いているであろうもの、毎日取り出して使うもの、そういうモノに取り付きたい。そして、その人を見守っていたい。
 
愛する人をただ見守るだけなら素敵な話かもしれないが、残念ながら人の心は違う。
自分の大事な人が、自分の思うような生き方をしなかった時、人はそこに執着する。優しく見守っているはずが、嫉妬に狂い、挙げ句の果てには憎しみへと変わっていく。
 
生きている間に自分が最も執着したところに、心残りはある。自分が何に取り付きたいかによって、秘めたはずの心が明るみに出てしまう。そのことが、怖いのだ。
 
自分が何に執着していたかなんて、生き残った人たちに暴かれたくないに決まっている。そんなみっともないことは絶対にされたくない。それでもとりついたモノを見れば、その人が本当は何を愛していたのかがわかってしまう。実に恐ろしい発想ではないか。
 
そして悲しいことに、とりついたことは生き残った人には見えないので、自分の想いは永遠に相手には伝わらない。悲しいことに伝わらないけど、その人のことを見ていたい、知りたい欲求はあまりにも正直すぎる。そして相手は自分の思い通りになってほしいという、絶望的な願いも明らかになってしまう。
 
相手の幸せを願いながら、この世を去っていくことは、案外難しいことのようだ。もしそれができるのならば、その時が本当に「成仏した」時だろう。
 
出会いがあれば別れがある。もう会えない死に別れなら、自分が本当に納得して相手から離れていければそれは本望だけど、すっぱりこの世とお別れできないという本音があってもいいじゃないか? 人間なんて、綺麗事だけじゃ生きられないのだから。
 
 
 
 
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2020-04-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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