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動物園に行く前に是非読んでほしい本


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記事:武田かおる(リーディング倶楽部)

 
 

今から13年前、2007年の話になる。それは蒸し暑い6月のある日のことだった。

 

私は目の前にいる象を見て、何か釈然としないものを感じていた。

 

その日、私はまだ1歳にもならない長男を連れて、夫と当時住んでいた自宅から1時間ほどのところにある京都市動物園を訪れていた。

 

私達は一番に意気揚々と象のエリアへ向かった。

 

「あれ? 動物園ってこんなところだったっけ?」

 

明確には覚えていないが、おそらく1頭、あるいはもう1頭いたのかも知れない。非常に狭い柵の中にそれらはいた。そして、同じ場所を数歩歩いてはまた戻ってを繰り返し行ったり来たりしていたのだ。

 

あんな行動をする動物を見たのは初めてだった。私は動物が好きという程度でその専門家でも精神科の医師でもないが、その行動が、狭いスペースに入れられていることからくるストレスから来るものではないのかと素人ながらに想像した。長い鼻とか大きな耳とか、その大きな体を見てすごいとは全く思えず、ただ象がかわいそうに感じた。明らかにその象は幸せではないように思えた。

 

私が子供の頃によく行った動物園は、大阪市内にある天王寺動物園だった。子供の頃の私にとって、天王寺動物園はとてつもなく広くて、百獣の王のライオンから、象、キリン、シマウマ、サイなど、珍しい動物が見られる場所で、行く前の日からワクワクして寝られない。そんな特別な所だった。

 

だが、当時の京都市動物園は動物が刑務所に入れられているようなそんな印象を受けた。

 

楽しいはずの動物園への訪問だったが、ずっしりと重たいものを胸に抱えながら動物園を後にした。

 

その後、私達家族は息子が2歳になる前に、夫の仕事の都合でアメリカ東海岸に移り住んだ。生活が落ち着いた頃に、子供を連れて、近隣都市にある、戸外に遊び場が併設されている子供向け科学博物館に足を運んだときのことである。敷地を走る電車のような乗り物に乗り、建物の裏側に差し掛かった時、コンクリートを氷山のように見立てた舞台の上にホッキョクグマが一匹いるのに気がついた。それは、以前に動物園で見た象のように、その狭い舞台の上を行ったり来たりしていた。私は心の奥底に忘れていた、京都の動物園で象を見たときの気持ちを思い出した。可哀想という言葉以外にも複雑な感情が入り混じった感覚だった。

 

それから年月が過ぎ、昨年、川端裕人さんの著書「動物園にできること:種の方舟のゆくえ」を読んだ。

 

その本は、著者の川端さんが、1997年アメリカ・ニューヨークにコロンビア大学ジャーナリズム大学院の研究員として滞在し、アメリカ各地の動物園について取材された内容が記されていた。

 

序章では、私が見た京都市動物園の象と、アメリカの子供向け科学博物館で見たホッキョクグマの行ったり来たりする行動についての説明があった。

 

「野生のホッキョクグマはこんな行動を繰り返したりしない。本来の棲息地から引き離され、本能に組み込まれた行動(この場合は狩りのために遠距離を歩き抜くこと?)を取ることが妨げられていることから起こる『イライラ行動』なのだ」(1)

 

序章を読み、本書には私の知りたかったこと、言葉に表せないかった動物園に対する複雑な気持ちの答えがわかるのかもしれないと、文章に引き込まれていった。

 

アメリカは、「動物の福祉、アニマルライツ、ディープ・エコロジーなど、様々な考え方を持つ個人、団体から激しい批判、非難にさらされ、ここ数十年の間、たえず変わり続けなければならなかった」(2) そうである。そんな日本よりも、変化を強いられたアメリカの動物園のを読み知るうちに、13年前に動物園の象を見て以来、それを思い出す度に感じていた重々しい気持ちの答えを見つける代わりに、動物園の存在の意義を様々な側面から新たに考えさせられるきかっけとなった。

 

その中で特に印象に残ったことが3つある。1つ目は、「エンリッチメント」という言葉だ。これは「動物たちが限られた空間の中で刺激に満ちた生活をできるように工夫」(3) することだそうだ。例えば、えさを与える時に簡単にえさが取れないような仕掛けを作ることもその1つになる。

 

2つ目は、「ランドスケープ・イマージョン」という言葉だ。これは、「野生の棲息地を人工的につくりだし、その中で動物を飼い、展示するという考え方だ。動物だけを展示するのではなく、生態系を展示すると言ってもいい」(4)

 

最後に、動物園や水族館に勤務する優秀な若手が多くいるが、日本の動物園が保守的なため、そのジレンマに悩む人達もいることがわかった。(5)

 

この本を読んで、昨年夏に日本に帰省をした時に、動物好きの娘を連れて京都市動物園を訪れた。

 

13年後の京都市動物園はどう変わったのだろうか。動物園のゲートをくぐる時は、子供の頃と同じようにいつもドキドキする。そこに広がる景色は、刑務所のような灰色ではなく、鮮やかな自然色だった。そこには、限られた環境の中で、そこに勤務されている人が、エンリッチメントや、ランド・スケープを駆使し生まれ変わった動物園があった。説明のサインや展示も工夫が凝らされ、所々でエンリッチメントの説明があった。最後に象の展示を見に行った。そこには、数匹の象がのんびりと過ごしているのが見えた。もう、行ったり来たりのストレス行動をしている象はいなかった。(後に2015年、京都市動物園は改装されたと知る)

 

「動物園にできること」を読んで、動物園が立体的に見えた。

 

もしも、あなたが動物園を訪れる予定があるなら、是非、「動物園にできること:種の方舟のゆくえ」を読んでほしい。きっと、本書はあなたにとって、動物園の見方に奥行きを与えるガイドブックとなるだろう。また、熱心な飼育員さんたちが、動物にとってそこがよりよい場所になるために努力されている証を、様々な展示を通じて発見することができるだろう。

 

《参考文献》
川端裕人(2017)『動物園にできること:「種の方舟」のゆくえ』
RiverSD. Labs,(Kindle版)

《引用文献》
脚注
1)川端裕人(2017)『動物園にできること:「種の方舟」のゆくえ』(kindle
版)位置No.71/4712,  78/4712(RiverSD,「序章」)
2)川端裕人 前掲書 位置No.91/4712「序章」
3)川端裕人 前掲書 位置No.245/4712「第一章」
4)川端裕人 前掲書 位置No.226/4712「第一章」
5)川端裕人 前掲書 位置No.4207/4712, 4213/4712 「それからの僕らの動物
園」
 
 
 
 

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2020-04-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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