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どのおにぎりを選ぶかで、あなたの性格がわかる?


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記事:なかむらともこ(ライティング・ラボ)

「どっちを選ぶかで、君の性格がわかるよ」
上司の言葉の意味を、私は図りかねていた。

そのとき、私は職場の同僚や上司らと、仕事帰りの居酒屋にいた。まだ社会人になって間もない頃だ。
締めのおにぎりを人数分とり、各自が、それぞれ食べたいときにそれに手を伸ばした。
最後に、梅のおにぎりと昆布のおにぎりが一つずつ残っている。課長と私の分だ。
「課長、どちらを召し上がりますか」
そろそろおにぎりが食べたくなった私は、一応お伺いをたてる。
「君が先に選んでいいよ」
こう答えたあとに、課長が続けたのが先の言葉だ。

選んだおにぎりで性格が分かるって? 動物占いみたいに、おにぎり占いでもあるのだろうか? 私は梅のおにぎりが好きだけど。
しゃけの好きなあなたは……。明太子の好きなあなたは……。
まさか。そんな乙女チックな課長でないことは知っている。
私は考えあぐねた。
ひょっとして、課長が好きそうな方のおにぎりを残す配慮ができるかどうか、推し量ろうということだろうか。
うわっ、面倒くさい。
課長の好きなおにぎりなんて、分からない。
それが梅だと見当をつけて、私は自分が好きでもない昆布を選んだとする。
もし課長が梅を好きでなかったら、課長も私も、好きではない方のおにぎりを食べることになる。
どちらを選ぶ方がいいかなんて、考えても、考えてもきりがない。最初からどちらが好きかを言ってくれればいいのに。
私は(えいや)と、梅のおにぎりを取った。梅のおにぎりが食べたかったのだ。
「ほう。そうきたか。よし、分かった」
課長はそう言ったきりである。
何よ、それ。答えを言ってよ、答えを。

別な日のことだった。
ある朝、先とは別な上司が、二日酔いらしく具合の悪そうな様子で出勤してきた。時々そういうことがある。そんなとき、きまってドリンク剤を飲む。それがこの上司の「二日酔い解消法なのだった。
「君ね、悪いんだけど、地下の売店に行ってドリンク剤を買ってきてくれる?」
若い皆さんには信じられないかもしれないけれど、私が社会人になったばかりの頃は、こんなふうに女性が使い走りやらお茶くみやら灰皿の片づけやらをしたのだ。
「はい! ドリンク剤は何がいいですか」
元気よく尋ねた私の耳元で、先輩がささやいた。
「○○さんは、Tドリンクよ」

あとでその先輩が教えてくれた。ふだんから、どんなドリンク剤を飲んでいるか注意しているということ、ドリンク剤に限らず、どんなタバコを吸っているかとか、どんな行動パターンをとるかということを、その上司ばかりでなく、誰に対しても目を向けていて、心にとめているということ、そして、そういうことが大切なのだということ。
何てまどろっこしいのだろう。
ただ「Tドリンクを買ってきて」と答えてくれれば早いのに。

新人の私は、なかなか社会生活のツボを押さえられない。

とにかく、一生懸命に働いた。ひたむきに働いた。必死こいて働いた。電話という電話に出ようし、頼まれた仕事は「ハイハイハイハイ」と無駄に返事をして何でも引き受けた。フリスビー犬が必至に走っているような感じだ。

やがて、上司が言うようになったのである。
「言われた仕事を一生懸命にやるのもいいけど、仕事は自分で作るものだよ」とか。
「僕に指示されて動くのではなくて、僕の視点で物事を見て、君の方から先に僕の考えている仕事にとりかかって」とか。
「うちの部署の重要業務を把握して。把握するだけじゃダメだよ。それを達成するために、組織が君に求めているのが何なのかを意識しながらやって」とか。

漠としているぞ。まるで禅問答じゃないか。

「仕事をどんどん提案して。それが使えるものかどうかはこちらが判断するし、使えるものに変えるのもこちらの仕事だから」とか。
「僕の仕事のいくつかを任せられるようになってよ」とか。
無理難題を言い放題だ。

そう言われているとき、私はいつも、小さく「はい」とだけ答えていた。
(じゃ、どうすればいいの?)とふてくされることもなかったし、(よしきた、頑張る)と意気込んだりもしなかった。へこんだのだ。自分のやっていることが否定されたようで、ひどく落ち込んだ。
うすうす気付いてはいた。私が仕事の勘どころをおさえられないのは、新人だったからではない。仕事のセンスに欠けているのだ。多分。

ある日、仲の良い友達と食事をして、さんざん喋って笑って、帰ってきてお風呂に入っているときに、突然怒りがこみ上げてきた。
どっちのおにぎりを選ぶかで性格が分かるだって? 占い師じゃあるまいし。一生そうやって占ってろ。何が僕の視点で見ろだ。何が僕の考えている仕事に先にとりかかれだ。そんなこと無理に決まってらぁ。そんなスーパーマンみたいなやつがいるもんか。怒りは頂点に達し、私は両手を振り上げて、思い切りお風呂の水面をたたいた。飛び散るしぶきと涙とで、顔はぐしゃぐしゃだ。

先日、その上司から定年退職の挨拶状が届いた。あれからもう何十年も経っている。
はがきをしみじみとながめながら、はっと思った。
(あ。いる)
あのとき、「そんなスーパーマンみたいなやつがいるもんか」とお風呂で毒づいたけれど、そのスーパーマンみたいな人たちがいた。
天狼院書店のスタッフさん達だ。チーム天狼院だ。
スタッフといっても、そのほとんどが大学生で、インターンで天狼院の仕事をしている。
それなのに、すごいのだ。皆さんポテンシャルが高いのだ。

早くにその手腕をかわれて女子大生店長に任命されたスタッフは、外見は柔らかで優しくて可愛いばかりでなく、しっかりもしている。時々オサボリ癖を見せようとする店主を、「いけませんよ」とお母さんのようにたしなめることができるのはこの人ならではだ。文章を書かせたらピカイチで、出版社からオファーのあったスタッフや、糸井重里さんに「会ってみたい」と言わしめたつわものまでいて、ここには挙げきれないけれど誰もかれもがすごいのだ。
すごいのだとしか表現できないのがもどかしいのだけれど、とにかく彼女らの秘めたる能力は、とてつもない。
さまざまなイベントを企画し、ラボやピアノ部といった各種の部を次々と立ち上げ、しかも、立ち上げっぱなしにするのではなく、ちゃんと集客を図り、収益につなげている。
あのとき、上司が私に言った無理難題を、彼女らは全てこなしているのだった。

店主の三浦さんは、どこからこういう逸材を見つけてきたのだろう。原石を見つけ出す目を持っているのか、それとも、ふつうの石でも天狼院にいるとダイヤモンドに変わるのか。その辺のところは謎だけれど。

彼女らの手にかかると、何でもワンダーランドになってしまう。
5月30日(土曜日)の旅部主催の江の島旅行のことは覚えているだろうか。私は参加しなかったけれど、その盛り上がりぶりはFBを見ていても伝わってきた。
当日は、参加者の朝食用に、チーム天狼院のにぎったおにぎりが配られている。参加者全員分だから、かなりの数だ。前日になって急きょ参加が決まったスタッフに、おにぎり隊がおにぎりの助っ人を頼むと、「今、家にはおにぎり3個分ぐらいしか米がない。しかも玄米!」という、FBでそれを読んでいた私が夜中にうひゃうひゃ笑ってしまったようなことが繰り広げられ、また、旅行前夜の成り行きで、何個かに1個は三浦さんのにぎったおにぎりが混ざっているというオプションまでついて、とにかく、おにぎり一つとっても、楽しいことになっていた。

そして、ただ楽しいだけには終わらせない。
旅行が終わってからの参加者のコメントは、どれも興奮冷めやらずという感じがあふれていたのだけれど、その中に、「おにぎり美味しかったよ~。ありがとう」というものがあった。この言葉で、旅行全てひっくるめて、心満ち足りるものだったのだなと、うかがい知れて、旅行に行かなかった私までが(そりゃよかった~)と満足したのだった。

天狼院の数々の企画は、乱発ではない。どれもこれも、参加者に間違いなく実りをもたらしてくれる。
“場”によっては、苦い思い出(梅だから“しょっぱい”?)にしかならなかったおにぎりも、天狼院にかかると時めきの種になるのだった。

かつて、お風呂で私を爆発させた怒りの正体が、今だから分かる。
 それは、おにぎりで私を値踏みしようとした課長への反発でもなく、無理難題をふっかけてきた上司への突っ張りでもなく、空回りしている自分への焦りだった。

置かれた環境によっては空回りする私だけれど、指が月をさすとき、月ではなくてその指を見てしまうような使えない私だけれど、今、ようやく居場所を見つけたような気がしている。
それは、天狼院。
あ、もちろんスタッフになろうなんて思っていませんよ。安心してね。

空回りしたり、ちぐはぐだったり、ズレていたりした頃の私の芯にあったものは、今でもしっかりと私の中を貫いている。
だから、今さらその車輪の回転を変えることはできないけれど、そのままぐるぐると空回りの車輪を回し続けていれば、いつか天狼院の企画にその歯車がガチーッと合うときが来るのではないかと思っているのだ。

あの時は、おどおどとおにぎりを選んだけれど、今なら堂々とおにぎりを選べる。

***

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