結婚を楽しみたいなら、どこでもドアを開けてみて
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記事:なかむらしょうこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
新幹線のドアが閉まる。
ほどなくして、発車のベルとともに動き出す車体。ぐっとこらえる涙で霞む車体は、あなたとわたしを何の悪気もなく、しかし容赦なく引き裂いてしまう。どんどん小さくなるあなた。そして見えなくなる。「いっちゃった……」あなたも新幹線もいなくなったホームでただひとり、さみしさに耐えながら、ポツネンと佇んだ。
今、隣にいる夫とは、わたしが高校2年生から大学を卒業するまでの間、ずっと遠距離恋愛をしていた。わたしは新潟、彼は東京。新幹線で2時間くらいの物理的障壁だ。つき合いはじめたのは、わたしが16歳で、彼が36歳。そう、20歳の年の差恋愛でもある。遠距離かつ年の差、空間にも時間にもディスタンスがある恋だった。ダブルディスタンス(何言ってんだか)。そんな2つの距離を乗り越えて、2011年に結婚をした。「GO夫婦」というダジャレをキメて、5月22日に婚姻届を提出し、彼の誕生日である6月7日に結婚式を挙げた。そんなこんなで今年2020年で、結婚10年目を迎える。時々、喧嘩もするけれど、陽気な毎日を送っている。もう、彼が、新幹線とともに消えちゃうこともない。
「ねえ、しょうこ。そんなに年が離れている人と話しが合うの? 楽しい?」
友人によく聞かれた質問のひとつ。年の差ディスタンスへのツッコミである。当時のわたしは、年上の男性とおつきあいをしていることにドキドキしていたし、勝手に周りの子よりも大人になった気分で自惚れてしまっていた部分があったから、この質問に的確な回答をすることができていなかったと思う。確かに、テレビ、ラジオ、映画、音楽、ファッション、ケータイ、インターネット……あげだしたらキリがないけれど、20年の間に、いろいろなことが流行り、そして廃れ、技術は次々と刷新され、時代は変わっていったことでしょう。わたしがオギャァと生まれた年が、彼がハタチを迎えた年。その差は縮まらない。だから、わたしの友人が疑問を持つように、確かに2人には共通言語があまりなかったかもしれない。しかし、である。よくよく考えると、わたしは、一度たりとも彼との年の差を辛いと思ったことがないし、共通言語がないことを悲嘆したことはないし、それを障壁だと思ったことはない。むしろ、それが楽しくて仕方がない。今も。
彼との出会いは突然だった。わたしは高校生。音楽が大好きで、学校帰りに、日課のように、近所のHMVに通いつめていた。好きなアーティストの新譜、名作と言われるアルバム、たまにジャケ買い、たまに失敗。その日は、「忌野清志郎」のCDを探しに来ていた。当時、とある缶コーヒーのCMで聴いた彼の歌を気に入り、もっと聴いてみたいという気持ちになった。まずは、どのアルバムを聴けばいいのかしら、と探していたところに、彼が声をかけてきたのだ。
「君、そんな音楽聴くの? 世代じゃないでしょう?」
そう、彼は大の忌野清志郎ファンなのだ。これをきっかけに、次はこれを聴くといいよ、その次はこれ!と清志郎や、彼のバンド「RCサクセション」の音楽をガシガシ教えてもらった。次第に、おすすめはどんどん深まり、広がり、清志郎だけではなく、わたしが知らない世界中の音楽を教えてくれた。今日はどんな音楽に出会えるのだろう、どんなリズムがわたしの身体を動かしてくれるのか、誰の言葉がわたしの心を満たしてくれるのだろう。彼と一緒にいると、時代も、国もひょいと飛び越えることができる。彼が、わたしの目の前に用意してくれたドアを開けると、そこには、体験したことがない世界が広がっているのだ。そう、それは、まるで「どこでもドア」。
わたしだって、一度は願った。タケコプターで大空を飛んでみたかったし、テストの前には、アンキパンを欲した。ほんやくコンニャクを使って、森羅万象あらゆるものと話してみたかった。そして、何より「どこでもドア」だ。ギリギリまで寝ていたって、学校に遅刻せずに行けるという、セコイ用途にも惹かれたけれど、やはり、ひとたび、ドアを開けば、時間も空間も超えて行きたいところに行けてしまうことに、キュリオシティーをぐわんぐわん揺さぶられまくった。わたしなら、このドアを使ってどこに行こう。北極?南極?江戸時代?縄文時代?白亜紀?!妄想するだけで、好奇心の栄養になる。
遠距離恋愛をしている時は、切実にどこでもドアが欲しかった。自分ん家の玄関のドアを開けたら彼がいる大都会 東京! なんてことは、残念ながらなかった。しかし、わたしは、彼と出会ったことでいつでも時代を遡り、音楽や、本、映画、美術、ファッション……を通じて、彼が見てきた世界、そう、わたしにとって過去でありながら、新しい世界に連れて行ってもらうことができる。そして、結婚した今、2人で「どんな人生を一緒に歩こうか」と、これから進む道を一緒に描くことで、未来にも行けてしまうのだ。
「ねえ、しょうこ。そんなに年が離れている人と話しが合うの? 楽しい?」
と友人は問う。今ならこう答える「話がカンペキに合うことなんてないけれど、とても楽しいよ。じゃあ、逆に聞くけど、年が近いと話が合って、楽しいのかしら」。そもそも恋愛も、結婚も赤の他人同士によるものだ。タメだろうが、年下だろうが、年上だろうが、同性だろうが、異性だろうが、異星の人であろうが、誰と、どうつきあったって価値観がピッタリと重なり合うわけがないし、一から十まで共通の言葉を持っているわけがない。ほんやくコンニャクを使ったって、相手の価値観までは翻訳してもらえない。だから、価値観の一致を探すのではなくて、価値観の違いを「どこでもドア」を開くように楽しめるかどうかが、結婚生活を楽しむコツではないだろうか。わたしが、彼と毎日、陽気に過ごすことができているのは、お互いに価値観の違いを楽しむことができているからだと、結婚10年目にして思うのである。
ホームに新幹線がやってくる。
今度は、夫婦2人で乗り込む。
わたしは窓際、彼は通路側に座る。
これからの旅路の無事を祈って、まずは乾杯としましょうか。
プシュッと勢いよく、缶ビールをあける。
ほどなくして発車ベルが鳴り響く。徐々に加速する車体。
行き先は……。
ドアのみぞ知る。
それでいいのだ、それが、楽しいのだ。
***
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