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メディアグランプリ

売れない販売員


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:住山鈴香(ライティング・ゼミ通信限定コース)

 
 

「自分の接客中に、1回はそのお客さんを笑わそうと思ってやってるよ」
私の質問に同期が答えた。
 

洋服が大好きな私は、好きなものに囲まれてカッコよく働くスタッフに憧れて、セレクトショップに入社した。当時の私は、自分の一番入りたいと思っていたお店で働けていることだけで優越感に浸っていた。今思うと、その勘違いでイキっていた自分の姿が、若かったとはいえ恥ずかしい限りだ。

 

社会人スタートの入社と同時に、お客様へのサービスや、商品知識についてたくさん研修があった。基本的な知識を学び、細かい失敗はしながらも、入社後すぐに、お店でお客様を接客し、お買い上げいただけるようにはなった。ところが、1年もたつと、一緒に入社した同期と私には明らかに違いが出ていることにショックを受けた。同期は顧客様がたくさんおり、売上金額も高い。それに比べ、私は、顧客数も売上金額も全く及んでいなかったのだ。もともと負けず嫌いの私。恥ずかしいし、悔しいと思いながらも、同期に、「顧客様ってどうやって作るの?」と聞いた。その答えが「自分の接客中に、1回はそのお客さんを笑わそうと思ってやってるよ」だったのだ。

 

憧れの店で働けているだけで、イケてると思っていたようなおバカな私ではあったが、もちろん、サービスについて学び、「お客様に満足しいただけるように、お客様の想いの先を読む」親切、丁寧な接客はしていた。お客様から「素敵なものを買うことができた」とか「気持ち良い接客をしてもらえた」とか感謝のお言葉をいただくこともあった。しかし同期のように、お客様を笑わそうとか、楽しまそうというような、その人に入り込んだ対応は私には全くできていなかった。
この同期の一言は、自分が洋服は好きだけど、接客が好きではないことを思い知らされた瞬間だった。とはいえ、これは仕事だ。販売が仕事なのだ。売れない販売員でいいわけがない。先輩たちから、顧客作りのノウハウの指導もしてもらった。同期のアドバイスのように、お客様を自分が楽しませようとスタイルを変えた接客にもチャレンジした。全く、上手くいかないわけではないが、そこまで爆発的に売上が上がることはなかった。後輩が入社すると、後輩は簡単に私の売り上げを超えていくことも普通にあった。私は売れない販売員のままだ。
 

そんな、売れない販売員であった私だが、接客以外の面で評価されることは多かった。チビで愛嬌があり、声が通る私は、笑顔や挨拶では先輩やお客様からかなり高評価だった。「今日も元気やね」「お店のムードメーカーだね」と、売上は取れないけど、入りやすい店、明るい店の雰囲気、店の印象に知らぬ間に貢献していたのだ。それもあってか、先輩や上司から、売り上げについて責められたりしたことは、よくよく考えると一度もなかった。
「売れない」は販売員にとって致命的だ。でも、当時はよく分かっていなかったが、お店を運営していくには役割分担がある。一人一人個性や能力が違うのだから、成果が違っても良かったのだ。
 

その頃、お客様を笑わせる接客スタイルの同期から、こんなことを言われた。「山中さん(旧姓)は、キツイことや酷いことを言っても、セーフの人やからズルイ」彼女曰く、私の小柄で、声が高く(若干アニメ系)、愛嬌があるキャラが、他の人が言うと嫌われたり、反感を飼うようなことでも、受け入れてもらえたりしていたそうだ。言われた時は、そんなことより、売れる方が良いに決まってると思っていたが、実は、このキャラこそが私の武器だった。ある意味このキャラのおかげで、私の今後のアパレル人生はものすごく成功するのだ。

 

同期が言ったように、私は、少々口が悪くても反感を買うことがなく、周りに私のアンチになるような人がほぼいなかった。それは、後輩指導にとても役立った。知らぬ間に教育が得意な人になっていた。もちろん、キャラだけでなく、人に言うからには、自分がちゃんと行動できているベースはあった。幼少期、厳しく育ててくれた両親のおかげで、自分で言うのもなんだが、かなり真面目だ。アニメ系キャラと真面目さのギャップも良かったのかも知れない。

 

キャラ以外にも、得意なことがあった。マネキンを着せ替えたり、商品のレイアウトをするお店作りだ。お店作りにはある程度のマニュアルはあるが、実は、これも向き不向きがある。知識と経験も必要だが、戦略や分析能力など頭も必要。そして、センスとカン。理系だった私は、戦略や分析が得意だった。その上、洋服作りが好きだった母の影響で子供の頃からモノを作ることが好きだった。そのおかげで、自分でも思ってもいなかった創造力があったようだ。そんな、私は売り場の責任者を任されるようになった。

 

売り場責任者や教育責任者を経て、数年後私は店長になった。さらに、関西でNO.1の人気店長とし、売上1番の店の店長も務めた。19年働き退社するのだが、私は最後まで、売れない販売員のままだった。

 

洋服が好きだった。でも販売は好きじゃなかったし、できなかった。販売員としては30点だ。でも、店長としは100点以上をつけてもらった。自分の才能は、自分でも気づかなかったところに隠れていたようだ。ちなみに、今でも接客販売はできるけど、正直かなり嫌いだ。

 
 
 
 

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2020-04-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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