fbpx
メディアグランプリ

涙は安心感のバロメーター


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川村 紀子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

コロナ禍が無ければ、中学校の入学式があるはずだった日、娘に制服を着させて、義父母に挨拶に行くことにした。

 

真新しい中学校の制服姿の娘は、驚くほど大人っぽく見えた。
義母はしげしげと娘を見つめた。
「12年間ありがとうね。こんなに大きくしっかり育って……」
繰り返し言うと、急に目頭を押さえた。
結婚して15年以上。義母の涙は初めてで、わたしは動揺した。

 

義母は実母の葬儀でも涙をみせなかった。無理に気丈に振舞っていたという感じではなかった。四人姉妹の長女として、しっかり送りたい気持ちが優先していたのだと思う。
 
義母は道路をはさんですぐ前に住む。スープの冷めない距離ゆえ、時々、おかずをおすそ分けしあう。
「まぁ、うれしい!」
目を輝かせ、手を広げて無邪気に喜ぶ義母の姿についついまた届けたくなる。
そして、義父とけんかする時は憤慨している。
気持ちを抑え込んでいないし、あけっぴろげすぎでもない。理性と感情のバランスがほどよい義母がわたしには心地の良かった。

 

その義母がハンカチまで出して、涙を何度もぬぐう姿にわたしはオロオロした。
わたしは目をそらし、涙に気づかないふりをした。
隣室にあるお仏壇に手を合わせに行った娘を追いかけながら、「ほんとに無事にここまでよく育ってくれました」とつぶやくように返した。
言葉を言いながら、目頭が熱くなった。じわりと涙が浮かんだ。これ以上何か言うとわたしも涙がこぼる……わたしはあわてて、言葉も涙ものみこんだ。

涙を抑え込んだ時、浮かんできたのは、生まれてきた娘の障害がわかり、義母に伝えた時のこと。
「みんなちがって、みんないい、だわね。わたしたち家族のところによく来てくれた。大切に育てましょうね」義母はすぐにそう言った。ショックを受けた感じもなく、にっこり笑った。その笑顔にどれだけ励まされたか。そして、娘が6年間小学校に楽しく通い続けるために、どれだけ助けられてきたことか。
 
一緒に泣いちゃえばいいのに……うれし涙だもの。泣いていいんだよ。そう思っても涙腺はきゅっと固く締まって、もうゆるませることはできなかった。
 

「泣いちゃいけない」
そのことを初めて思ったのは小学校2年生の時。働きづめでほとんど家にいない父が珍しく居間でくつろいでいた。そして、ちょっと見てごらん、と大きな設計図を取り出し、わたしたちこどもの前でひろげた。
 

普段は近寄りがたい怖さのある父が少しはしゃいでいた。
「これは新しいうちだよ」
ここが玄関で、ここが子供部屋……ニコニコ話す父の言葉を聞きながら気づいた。
 
今住んでいるマンションから引っ越しするんだ!
マンションはわたしにとってパラダイスのような場所だった。同じくらいの年齢の子どもが数十人いて、わたしは「ごはんよー」と呼ばれるまで、毎日マンションの敷地内で遊びまくっていた。いやだ! ここを離れたくない。いやだ! 涙が一気にあふれ出そうになった。
 
「泣いちゃいけない。わたしが泣いたら、お父さんが困るでしょ」
急ブレーキをかけるように、わたしは涙腺をぎゅっと閉めた。
 
父が嬉しそうに家の話をする間、わたしはうすら笑顔を見せながら、涙と戦った。話し終わるまで、一滴もこぼさなかった。父の気持ちを台無しにせずに済んで胸をなでおろした。ブレーキをかけ、涙を止めることが「正解」と刻み込まれたのか、わたしは人前で涙を流すことはほとんどなくなっていった。
 

涙を止めて冷静を装うことはホントに「正解」?
あの時、一緒に涙を流せていたらよかった……一週間たってもまだ思っている。
 

義母の涙に触れた後、わたしの義母との心の距離感が変わった。ぐっと近づいた。わたしの心の中に義母の気持ちがすっと入ってきた。義母を尊敬する気持ちより、愛おしく思う気持ちが増えた。涙がこぼれた義母に心のガードの低さを感じ、わたしもオープンにしても大丈夫な気がしてきてる。

 

涙を止めない関係性は装わなくていい関係性。安心の証。
安心感が心のガードをゆるませ、心の内側から涙と共に気持ちが表れる。
 

コロナウィルスの感性拡大できっとホントはたくさんの不安を感じてる。こどもたちが動揺しないように平静に穏やかにしているけれど、心の底でざわざわしてる。最近、ニュースを見ながら、突然泣きそうな気持ちになって、ビックリする。
 
次に泣きそうになった時、そのまま涙をこぼしてみよう。心のガードをゆるめたら、こどもたちも安心して本音を出せるかもしれない。泣き言、言えるかもしれない。
まずは自分から。
 
 
 
 

***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」《4/26(日)までの早期特典あり!》

 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

天狼院書店「プレイアトレ土浦店」 〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事