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「小説家に、アタシは、なる!」と、旅立った少女、それから

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石川サチ子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

数年、いや数十年前のことだったかもしれない。
「小説家に、アタシは、なる」と決心し、田舎を飛び出した少女がいた。
18歳。地元の高校を卒業したばかり。小説家デビューが決まっていたわけでも仕事が確約されたわけでもない。ただの世間知らずで怖いモノ知らず。夢見るおバカな少女だった。
 

少女の両親は、娘が学校の先生になるために一時的に家を離れるだけだと思っていた。数年したら学校の先生になるための勉強を終えて、家に帰ってくると信じて疑わなかった。

 

残雪の残る3月。少女の父が新幹線の駅のホームまで見送ってくれた。

 

「頑張れよ」
「たまには電話してこい」
「今度のゴールデンウイークには帰ってきて学校のことを話してけろ」
 

普段無口な父がトツトツと語りかけた。
少女は「うん、うん」と頷いた。
 

冷たい風がひゅうひゅうと吹いていた。
空はどんよりと曇り、みぞれか雪が今にも降り出しそうだった。
 

新幹線がホームに着いた。
少女は大きなボストンバックを両手に抱えて、ひょいと乗り込んだ。
ドアが閉まる。新幹線は、ゆっくりと走り出した。ホームに立っている父がどんどん小さくなっていく。
 

窓に映る見慣れた単調な景色が倍速でで変わっていく。
田んぼ、白鳥の群、トンネル、雪。
 

見慣れた風景がどんどん遠ざかって行った。
少女は、高速で過ぎ去る景色を見ていた。涙が溢れて止まらなくなっていた。
 

「うん、頑張る」
「ごめん、やっぱり小説家になりたい」
「小説家になるまで帰らないかもしれない」
 

怖い、だけど、挑戦したい。

 

※※※

 

少女は、なぜ小説家になりたかったのか。

 

それは、何もない田舎暮らしの中で、街中にある本屋が少女にとって大好きな場所だったからだ。

 

最新の雑誌や文庫本、漫画本がぎっしりと本棚に詰め込まれている、静かな空間。
都会の情報がいち早く流れてくる場所、行く度に風景が変わり、新鮮な都会の空気を浴びられる。頻繁に足を運んでもワクワク、ウキウキした。
 

少女にとって本屋は、都会に一番近い場所だった。田舎で唯一、都会の空気を吸える場所だった。可能性を広げ、未来に続く場所だった。

 

店内の壁にびっしり並ぶ背の高い本棚。その一つは、実は回転扉になっていて、お客さんが帰った後に店員さんが「えいっ」と押すと、ビルの建ち並ぶ都会が広がる……本気でそう信じていた。

 

少女にとって、「本=都会」であり、都会は憧れの場所だった。
それで、何だかよく分からないけれど、本を書く「小説家」という職業に強く憧れていたのだった。
 

※※※

 

大学に入ってすぐに、少女は自分の文章力の無さに初めて気づく。

 

課題のレポートが全く書けない。

 

大学で知り合った個性豊かな同級生たちの中にも作家志望の人たちが多いことにも驚く。そして彼らが、少女よりも遙かに本を読み、知識も豊富で、話術も文章力も優れていることに打ちのめされた。

 

「アタシ、小説家なんて無理かもしれない」

 

田舎から出た外の世界は、本を読むことよりも楽しいことがたくさんあった。
ダンス、サークル、恋愛、友情、アルバイト・・・・・・。
そういうことに興じているうちに、少女は、小説も書かず、教員の資格も取らず、卒業を迎えてしまった。
 

小説家どころか、親と約束した学校の先生にすらなれなかったのだ。

 

少女は、大学を卒業して気の進まぬまま就職をする。就いた仕事が営業職で、商品の魅力も分からず売り込む毎日。
「なぜ働くのか」
「なぜ毎月毎月数字を達成し続けないといけなのか」
 

考えても考えても分からず、結局2年足らずで職。その後は転職を繰り返した。

 

そこから先は、挫折と苦悩の連続。大失恋、解雇、病気。

 

都会の裏側も、どん底からイヤというほど見た。

 

田舎の両親からは「実家に帰って結婚しなさい」と言われ続けた。

 

それでも少女が実家に帰らなかったのは、学校の先生になれなかった負い目と「小説家に、アタシは、なる」という決心を忘れていなかったからだった。

 

しかし、そんな夢見る少女も現実を突きつけられることになる。
それが、借金だった。体を壊し、病気してリボ払いのクレジットカードを使い続けていくうちに、借金の額が恐ろしく膨れ上がっていたのだった。
 

そこで、初めて目を覚まし、夢見る少女を封印。借金返済のため、知り合いの経営する会社へ飛び込んだ。

 

就職すると間もなく、その会社で独占的に扱っていた商品がテレビに取り上げられて大ヒットした。お陰でお給料も跳ね上がり、借金も完済できた。

 

その勢いで結婚。娘を授かった。
娘は、高校生になった。
 

※※※

 

娘には、私のような浮かれた夢を追う無謀な人生は送って欲しくなかった。堅実な職業に就き、地に足をつけて地道に働いて欲しいと願った。

 

「ちゃんと勉強して、先生とか公務員になりなさい」
「成績が良ければ、可能性が広がるからね」
 

娘に、自分が果たせなかった親への負い目を押しつけ、勉強と学歴信仰を諭す親になっていた。

 

娘が大人になる頃は、恐らく世界の常識は変わっているかもしれないと薄々感じている。だけど、学校の勉強していれば、世間的に評価の高い大学に進めば、道は必ず開けるはずだ。大多数が考える今の常識を物知り顔で説く親になっていた。

 

そんな親心に逆らって娘は勉強が嫌い。成績も思わしくなく一日中スマホばかりしている。そういう姿を見て、毎日イライラ。ガミガミ怒鳴り散らしていた。

 

その結果、娘だけでなく、旦那からも疎んじられ、家族で孤立し、精神的に追いつめられて行った。そしてとうとうメンタルクリニックのお世話になることになった。

 

そこで気づく。

 

娘の人生にこれ以上口出しするのはやめよう。

 

これから自分の人生の幕が下りるまで静かに暮らそう。

 

お金を貯めよう、パートで地味にこつこつ働こう。

 

私の人生、この先、急激に何か変わることはないのだから。

 

と、考えていた矢先だった。

 

ライティングゼミの存在を知ってしまったのは。

 

長い間封印していた「小説家に、アタシは、なる」と決心した少女がムクムク目を覚ましてしまった。

 

この少女が元気を取り戻すと、私は冒険したくなる。野心が溢れて、ハラハラ、ドキドキの人生を楽しみたくなる。

 

実はこの文章を書いていて、自分の文章力の無さに改めて絶望している。

 

この程度で小説家なんて、一生なれるわけがないないだろう。しかしすぐ後に、その方がむしろ都合がよいのではないかと思った。

 

なぜなら、最終回のない最高に面白い連続ドラマを観れるから、演じられるから。

 

アタシは、旗を立て、賽を投げた。

 

そして、ゆっくりと舵を切った。

 

さあ、出発だ。

 
 
 
 

***
 
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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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