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誇り高き『専門職』


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:かしもと ひろこ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

私の身分は主婦。しかも、最近では絶滅危惧種と化している専業主婦だ。
こういう場合、一般的には『三食昼寝付き』と思われているかもしれない。
 

結婚して10年以上経つが、基本的にはずっと専業主婦だ。
夫から「専業主婦になってほしい」と明確に頼まれたわけではないが、「家のことは万事任せた!」的な空気を感じたので、必要に迫られて専業主婦にならざるを得なかったといったほうが正解だろう。

 

結婚当初、出勤のために夫が家を出る時間は午前5時40分だった。始業時間は9時なのだが、「勤務先まで2時間近くかかるし、早めに行って、9時には頭をフルパワー状態にしておきたい」とのたまうため、希望を叶えることにした。
しかも、ただでさえ早起きが必要な生活の上に、「朝食は必ず和食がいい。それと弁当も必要だね」と、かなりの無理をおっしゃる我が夫。よって、私の頭がフルパワー状態になった上で弁当と朝食を作るのに要する時間を考えると、どう考えても私は午前4時には起きなければならなかった。

 

しかし、私にとって早起きは苦ではない。どんなに睡眠時間が短くても、起きなければならない時間には必ず起きる。決めた時間に起きる為に必要なのはモチベーションではなく、起きなければ自分が困るという事実のみだ。

 

4時に起き、やかんの中でお湯が沸騰するのを見つめ、夫の起床に間に合うように食事類を準備する。そして、目覚ましではなかなか起きられない夫をなだめすかして起こし、無事に送り出す。そこまでが当時の私のメインイベントだ。

 

夫が出勤した後は、時間をどのように使おうが私の勝手だ。次のイベントは夫の帰宅なので、そこまでに万事怠りなく事を運んでいればいいだけの話である。
スーパーで食材を買い、掃除・洗濯などの家事を済ませ、疲れたら昼寝(たまに朝寝……)で体力を回復させ、食事の準備をして、決まった時間に食事をとり、夫を出迎える。それが私にとっての乱れのないルーティンワークである。結婚当初からの流れは、現在でも変わらない。あえて言うならば、今は弁当を作っていないという点だけが違う。

 

そんな私が全力で支える夫。
彼は、現在、プロの経理屋として生きている。職種は、その時々に応じて経理だったり財務だったりするが、出勤日は、四六時中、数字のことを考えて生きている。そんな状況を、彼は「数字が空から3次元で降りてくる」と説明してくれる。
徹底的に経営学を学び、その知識をフル活用できる職場を常に選んでいる。彼の双肩に全てがかかっている職場もあったが、そのことを彼は今でも誇りに思っている。
 

ただし、そういう職場は、とにかくプレッシャーがすごい。戦国時代風に言えば、彼の仕事は『軍師』である。
最終的な経営判断を下すのは上司の仕事なので、彼の仕事は判断に必要な資料を揃えるところまでなのだが、彼はとにかく『完璧な資料』を揃えたがる。
上司の気持ちを察するに「早く出せ」と言いたいだろうが、中途半端な資料は彼のプライドが許さない。よって、彼の頭は常に疲労困憊である。
 

くたくたになって帰ってくる彼を見て、ふと考えた。家にいる私自身が、より深く彼の仕事に関わるためにできることは何だろう?
頭脳のフル回転を8時間維持することは無理でも、崖を転げ落ちるような感覚での思考停止に陥ることだけは避けるための身体を作っておくことは必要なのではないか?
 

生まれてきた後は、口に入るもので身体が作られる。
彼の集中力維持は体力にかかっていて、一定の年齢以降だと、体力も口に入るもので決まってくると思っている。
こういう時こそ、食事担当の腕の見せ所である。
最近は「味より栄養」をモットーに、まるで実験でも行っているかのような料理を作っている。野菜の中の栄養素をなるべく効率よく身体に吸収させる方法を調べた上で、いろいろと手間をかけ、彼の身体を維持している。
 

いろいろと考えていると、あっという間に1日が過ぎていく。こんな毎日に疑問はない。

 

ただ、昔はいろいろと思うところがあった。
朝は早く、夜は遅く、休みの日は疲れをとるためによく寝ている夫。「私はさしずめお手伝いさんといったところか?」などと考えたこともあった。
おいしいものや見た目が華やかなものを作れるわけでもなく、ただ淡々と日常をこなす日々が続く。
外で働くことは可能でも、仕事人間の夫が日常の家事を手伝えるわけもなく、仕事と家事のすべてが重くのしかかる。だったら、プラスの仕事は増やさない。
そんなふうに考え、専業主婦としての日常に埋没してきた。
 

そんな私が、今や、天狼院書店のゼミをいくつも受けている。
それらから受け取る知恵は、私だけでなく、夫の仕事にも役立つと信じているからだ。
 

夫の職場は『キーワーカー』と呼ばれる業種のひとつである。
コロナウィルスが常に近くにいるかもしれない場所で、職場が動き続けるため、彼は命を削って働いている。そんな彼は、自分の能力に絶対的な自信を持つ専門職だ。
 

そして、私も、今となっては家を守る力を持つ専門職だ。
『実験的料理』という名の盾を持ち、『ゼミで得る知識』で世の中に切り込むための刃を得る。
足下の幸せを噛みしめながら、与えられたステージで全力を尽くし、二人で打って出る日を待つ。
家の中から出ない日々をそんなふうに考えている。ただし、どんなに時が経とうとも、やっぱり昼寝は外せないだろう。
 
 
 
 

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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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