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私が旅で得たもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三輪恵子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「ミワさんは形のないものにお金を使うんですね」
GWの長期休暇が終わり、会社で “休暇中は何をしていたのか”という話をしていたときに、後輩が私に向かって投げかけた言葉だ。
 
「どうでしたか?」「楽しかったですか?」そんな言葉を期待していた私は、後輩の言葉に少し、いや、かなり戸惑ったことを覚えている。体験や経験することを大事にしていた私は、なんとなく自分のやっていることを否定されたように感じたのだ。
形のあるものや手元に残るものにお金を使うべきなんだろうか? それって何? ブランド物のバッグやアクセサリー、車を買った方がいいってこと? 後輩のひとことに私は少し混乱した。
 
後輩が言った形のないものとは“旅”である。
 
私の友人には旅好きが多い。長期休暇になると友人たちの大半は旅に出る。だからこそ、旅に時間とお金を費やすことを疑問に感じたことは、それまで一度もなかったのだ。あの日の後輩のひとことは、私にとって青天の霹靂というくらいに衝撃を受けた言葉だった。
 
旅にお金を使うことは、本当に意味のないことなんだろうか?
 
私はそうは思わない。旅に出て非日常の世界に入り込むのは、とにかく楽しい。気持ちもリフレッシュする。そして刺激にもなる。さらに旅先では素晴らしい出会いもある。素晴らしい出会いといっても、運命の彼に出会うといったロマンチックなことではなく、自分にはない価値観を持っていたり、気づきを与えてくれる、そんな人たちに出会うという意味である。自分の目で見て、五感を研ぎ澄ませて全身で感じて、自分がひとまわり成長する、そんな実感が得られるのも旅ならではのことである。
 
以前にベトナムを旅したときのことである。
コメが実り、収穫の時期を迎えていた農村地帯では、多くの人が田んぼに入り稲刈りの作業をしているところだった。その姿を車窓から見た私は「稲刈りをする農作業用の機械があれば早く作業が終わって楽なのにね」と思わず口から言葉がこぼれてしまったのだが、それを聞いたガイドさんが「機械はない方がいい。機械で作業したら、みんなの仕事がなくなる」と言った。
ガイドさんのひとことに、私は思わず唸った。効率を考えたら、どう考えても農作業は機械でやった方が良いに決まっている。山間部の狭い田畑で機械が入らないならともかく、ここは平地だ。どこまでも田んぼが広がっている平地なのだ。絶対に機械の方が早くて楽でいい。
でも、たしかにガイドさんの言うことも一理ある。農業の機械化が進んだら、多くの労働力がいらなくなり、仕事がなくなる人が増えるのだ。機械化した方がいいのか、それとも今のまま大勢の人が作業する方がいいのか、正解はわからないが、物事の一面だけから判断して“機械化すればいいのに”と考えた自分は浅はかだったな、と感じるとともに、多角的に物事をみて、それぞれの事情も考慮した上で何が良いのか判断するという考え方を深く刻んだのはこの出来事がきっかけとなった。
 
また、アルゼンチンではこんなこともあった。
アルゼンチンの南部、パタゴニア地方でペリトモレノ氷河を訪れたときのことである。ツアーでご一緒した年配の男性は、仕事を引退して、頻繁に海外旅行にも出かけていると言っていた。悠々自適な生活を送っているようで、会社員の私からすると、すごーくすごーく羨ましくて、思わず「いいですねぇ、お金と時間があって、いっぱい旅ができて」と言ってしまったのだが、その男性からは意外な言葉が返ってきた。
「僕はあなたの方が羨ましい」
「えっ? 私のことが羨ましい? なんで?」思いもよらない言葉に驚いていたら、その男性はこう言ったのだ。「あなたは健康で自由に動ける。僕は病気の後遺症で、ちょっと麻痺も残っていて自由に体を動かせない。健康なあなたが羨ましい」
そういうことか! もちろん、お金や時間は自分で好きに増やせるものではない。でも健康もとても大事なことなのだ。どれが欠けても、いや、“健康”はお金があっても買えるものではないから、いちばん大事なのかもしれない。自分にない物を持っている人を“とにかく羨ましい”と思っていた自分がはずかしくなった。
 
旅先での出会いや気づきは他にもたくさんある。そして楽しい思い出もいっぱいだ。楽しい、リフレッシュできる、刺激的、それだけでも旅をする価値は十分にある。でも、私はそれ以上に旅先で出会った人たちから大事なことを教えてもらった。それぞれの価値観、考え方のどれが正解かはわからないが、少なくとも自分とは違った視点で物事を捉えている人の考えを聞くことで、自分が物事の一面しか見ていなかったことに気づき、新しい視点を持てるようになった。そのことだけでも、私にとって旅することは経験、体験をする以上に価値のあることなのだ。
 
もしまた、
「ミワさんは形のないものにお金を使うんですね」
と言われたら、こんどは迷わず
「そうだね」
と答えようと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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