メディアグランプリ

アジア最高のスポーツ・カバディを、まだみんな知らない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:木村 勉(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「ぶつぶつ言いながら走り回るスポーツですよね?」
カバディと聞いたときに、最初に思い浮かべたのは、なにかつぶやきながら、相手の選手と思われる人を追いかけ回す、東南アジアの……なんだか不思議なスポーツ。
たしかテレビのバラエティで、お笑い芸人たちが「インドのスポーツにチャレンジ」みたいな企画をやっていて、名前だけは知っていた。芸人がやるのだから、おもしろおかしく笑いにしていて、滑稽なスポーツに見えた。いや、スポーツという感覚なかったように思う。
鬼ごっごみたいな……子どもの遊びの一種みたいな……そんな認識だった。
 
中学校、高校と、もともと好きだったサッカー部に所属していた。人気のあるサッカーだけに、クラブに所属していたメンバーは、同級生だけでも20人以上いた。それだけでも2チーム組める数だ。
たくさん練習した。トレーニングもかかさなかった。だけど、たくさんの部員に埋もれてしまったぼくは、アピールするチャンスもほとんどなく、レギュラーに選ばれることも無かった。
高校になっても続けたけれど、そこにはジュニアチームに入っている子や、スポーツ特待で入学してきた子がいて、またしても埋もれてしまった。
表舞台で活躍したい……。
しだいに練習もつまらなくなった。
うしろむきなことばかり頭をよぎるようになった。
それでも、いつか陽の目を見る日が来るかもしれないと、体を鍛えるのだけは辞めなかった。
しかし、結局試合のコートに足を踏み入れることはなく、引退の日を迎えた。最後の試合の日、ぼくはずっとこぶしを握りながら、ベンチに座っていた。
 
大学入学の直後に、ガタイのいい先輩に声をかけられた。部活の勧誘だ。
渡されたチラシには「カバディ」と書かれていた。
ああ、あのルールもよくわからないスポーツか……。
「ドッチボールと鬼ごっこを合わせたようなものだよ。相手のコートに入って、タッチできたら1点。相手に摑まって、自分のコートに帰れなくなったらアウト」
チラシの裏側に書かれていたルールを見せながら、ガタイのいい先輩が教えてくれた。
「基本はそれだけ。簡単だろう?」
 
驚いたのは、大学のチームの中に、日本代表選手が何人もいるという話を聞いたときだ。この先輩も、去年代表として海外へ遠征に行ったという。だけど、レギュラーにだって、そんなに簡単になれるわけない。
 
勧誘を断り切れず、見学に行くことになった。
たしかに、鍛えていた体を活かしなにかスポーツで活躍してみたい……その想いはくすぶっていたけれど、それがカバディになるとは、まだ思っていなかった。
 
体育館のコートで部員たちが練習していた。
あのガタイのいい先輩も練習に混じる。
周りにいる選手たちも、先輩とおなじくらい引き締まった体をしていた。鬼ごっごをするのにどうしてそんなに鍛える必要があるのだろう。
試合形式の練習が始まり、あの先輩が相手のコートへ向かう。
攻撃手になった先輩は、相手コートへ入って、タッチしてから自分のコートに戻ってこなければならない。
攻撃手はひとり、相手は6人だ。
相手コートに足を踏み入れた瞬間、周りで見ていた部員選手も静まりかえる。
右足を踏み出す、と同時に斜め前へ素早く右手を差し出す。
タッチ成功!
と同時に素早くきびすを返して、自分のコートに戻る。
速い。
これでポイントだ……そう思った次の瞬間、ぼくは目を疑った。
いつのまにか、相手が攻撃手を取り囲んでいたのだ。
コートへ戻る道をふさぎ、体全体を使って攻撃手を押しもどす。アメフトにも劣らないハードなプレイ。
一方では腕を押さえ、もう一方で足を抑える。それに戦略的なチームプレイ。
たしかにチラシで説明されたときのルールそのままだ。
だけど、激しいぶつかり合いと、素早い動きは、まるで格闘技を見ているかのようで、予想外だった。
呆然と見ているぼくに振り向き、先輩が笑いかけてきた。
 
それから2年。
ぼくは、すっかりカバディのスピード感と、熱いぶつかり合いに魅了されていた。
たしかに練習はきびしい。
ハードなコンタクトがあるから、ケガにも気をつけなければならない。
先輩は、ぼくに惜しみなく技術を教えてくれる。
「君みたいに鍛えている子なら、やっていけると思ったんだ」
ずっと日陰にいたぼくにできる唯一のこと、地味なトレーニングの日々が、カバディに役立っていたんだ。
そして、ぼくは強化選手の推薦をもらった。
いずれは先輩と一緒に世界で戦う選手になる。
 
日本の競技人口は5,000人程度で、ほかのスポーツから比べると、とても少ない。始めたばかりのぼくが活躍できているのも、競技人口が少ない理由もある。
だけど、表舞台で活躍できると、ぼくにとって、なにより楽しい。
みんなからの歓声が励みになる。
 
先輩が、遠征の時に撮ったインドのプロリーグの動画を見せてくれたことがある。
日本ではマイナーでも、世界の競技人口は1,000万人を超えているのだという。そこには、企業のスポンサーのパネルがずらりと並び、選手が登場するときにはライトアップがされ、スターのようだった。
その時から、ぼくの目標はきまった。
あの舞台で活躍したい。
そして、日本でももっとカバディの魅力を伝え、インドのような、かがやく舞台で、みんなに見てもらいたい。

 
 
 
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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