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メディアグランプリ

小町秘話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ほりのうちかおり(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「今度の録音は、鬼滅の刃をピアノで弾こうね! 」と、ピアニストのHさんに話した。
「そうだね、映像は頼むよ。いよいよ鬼退治だね!」
 
私たちは昨年神保町小町というユニットを組んだ。
アラフィフ主体のクラシックからポピュラー音楽を演奏するチームだ。
 
ここに至るまでには、長い道のりがあった。
長い道のりといっても、それは必ずしも音楽で、というわけではなく、人生において、という意味だ。
 
たとえば、私のことについて話そう。
わたしはかつて若いころに声楽を学んでいた。誰より歌がうまくて、誰よりも遠くに声が届くという自信があった。そして「いつかはオペラ歌手になるんだ」という夢をもっていた。順風満帆だった。
 
でも、あるとき交通事故にあってから、別に外傷があったわけではないのだが、プツンと糸が切れたように声の響き方が突然変わってしまった。
それまでは、お風呂場でポンと手をたたくとワンワンと反響するように、歌を歌えば自然に周囲に反響した。それに声が届かなくて困るなんて事は一度もなかった。100メートル先の人にだって大声で呼びかけられているくらいだったから。
それがあるとき突然かわってしまった。打てど響かず。
たくさんの大学病院や、良いと評判の耳鼻咽喉科や、鍼灸、カイロプラクティック、挙句の果てには自己啓発のセミナーや内観療法までためした。
でも、どの医者にも治すことはできなかった。
 
翼をもぎとられ、生きがいをなくした私は、そのうちふてくされて、だんだん音楽から逃避した生活をするようになっていった。自分ができないなら、仲間の活躍を見るのはつらいし、応援する気にもなれない。だから音楽仲間からもどんどんと離れていった。
 
しかし、音楽から逃げても、こと話す、あるいは声を出すということは、あまりにも日常的で、逃げられない。例えば「今日はなに食べる?」というような日常的な会話のなかで、「なに?」「えっ?」「なに?」なんて3回も聞き返されたら、もういいやという気持ちになってしまう。そして伝わってないのはわかっていても頷いて、他の人が「スパゲッティー?」なんて言うのに、もう一度頷いて、一番後ろからついていく。
 
そのようなことの連続で、やがて、今この場所は、自分の声が音響的に届くような場所か、声が吸い込まれないか、などと、話す前にいちいち確認するようになった。
そして話ながら、聞こえているか、相手の顔色を伺うようにもなった。
 
だんだん自分の考えは、言えなくなっていった。いつも喪失感を抱えて、「本当はこうじゃないのに」という気持ちでいるのが普通になっていった。様々な場面で、はっきり言えない自信のない態度が、マイナスの結果を生み出すという負のスパイラルの日常が定着していった。
 
それでも、私は生き延びた。40代になって、残りの人生で働ける職業として看護師はどうかと思った。仕事をしながら准看護学校を卒業し、さらに正看護師になるための高看の専門学校に通った。しかし、その高看での看護実習で、こんどは落第、留年の憂き目にあった。看護の手技がなってないとか、礼儀作法がどうとかいわれたけれど、結局わたしの「声が出ない」から始まった、自信のない態度が招いたと思っている。抗議することもできずにそのまま認めてしまった。
その悔しさをどこかに表現したくて、看護学校の、卒業生を送る会というイベントのクラスの出し物のなかで、わたしはついに歌った。具体的には二部構成に企画した。前半でジャズダンス、そこから暗転してスライドをバックにクラスメイトのコーラスとともにアメイジンググレイスを歌った。
その時だ。歌ってよいのだ、と思えた。
当日はスーザンボイルの再来みたいな雰囲気だった。なにしろなんの前情報もなく、自分では声が出ないといっても、マイクの協力をえれば、度肝を抜くほどの効果があった。おとなしくて、存在感のない普段のわたしとのギャップはすごかったのだろう。録音していたのだが、会場の驚き、ため息……その時そこに参加している人々に確かに、大きく、影響していると感じられた。以前に声楽を学び、その過程で呼吸法を身につけていたことに感謝した。
 
歌ってよいのだ。歌いたければ歌えばいい。
 
そんなことで、今私は仲間と演奏しはじめ、ちょうど一年になる。
ピアニストのHさんは、このユニットをやるようになって、夜勤の仕事をやめ、音楽だけでやっていくことにした。
それからHさんは、新橋のライブハウスで、ステキな音色のバイオリニストのKさんをスカウトした。さらにボーカルに、ウィーン少年合唱団のような澄んだ響きの大学生のYさんもスカウトした。桃太郎のように、つぎつぎと人を巻き込んで、私たちは音楽を演奏しながら、人生という荒波の鬼退治に仲間と一緒に立ち向かっていく。
 
 
 
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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