メディアグランプリ

「憧れ」への侵入捜査


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森真由子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
準備は万端だ、これより侵入捜査を開始する。
扉の向こうへ一歩足を踏み出した。
……
 
私は、現在普通のOLをしている。
そんな私がある時、芸術への、特に画家への強烈な憧れを抱いていたことを思い出した。
私と同じように憧れというシコリがずっと残ったままの人がいるかもしれない。
 
人の紹介である漫画を読んだ。
山口つばささんの『ブルーピリオド』。高校生が美術大学の最高峰・東京藝術大学(通称藝大)への合格を目指していく漫画だった。
 
なんてこったー!
これは面白すぎるー!
絵を描ける喜び。絵を描くことへの憎しみ。絵が描けないことへの虚しさ。
登場人物たちの芸術と向き合う気持ちが怒涛のように私の中へ流れ込んできた。と共に、私の芸術への憧れも呼び覚まされた。
 
あー苦しいな、でもいいな、
こんな風に私も芸術に翻弄されつつ、もがき苦しむ青春時代を送ってみたかった。
藝大を目指していれば、私の人生はもっとわくわくするものだっただろうか。
……そんなタラレバ思考が頭を巡っていた。
 
しかし、行動していないのであれば「憧れ」はいつまでもただの「憧れ」のままだ。
その現実をそろそろ受け止めよう。
結局、私は芸術の道を一歩も歩むことがなかったのだから。
 
幼少期、私は同学年の子たちよりもちょっと絵が描けた。
本当に描けていたかはさておき、学校内の賞を学年で唯一取ったことは、私を勘違いさせるには十分だった。
私には絵の才能がある。そう信じて止まなかった。
 
中学へ上がっても順調だった。美術の成績は常に最高評価の5。
「ピカソがモナリザを描いたら」という課題では、先生に参考作品として選ばれるほど評価が良かった。
私も言葉や態度では絶対に表に出さなかったが、かなり自信を持っていた。
けれど、こんな自信家の鼻をぽっきりとへし折ったものがいた。
 
そいつは、デッサンだった。
 
中学3年生の後半に、デッサンの課題が出た。
私が描いた上履きはそれなりに形になっていて良かったと思っていたが、その作品は最高評価の5ではなく、4だった。
斜め前に座っていた女子の作品を見ると評価は5だった。
負けた。見た目も可愛いし、運動神経もいいけど、美術に関して彼女はノーマークだった。
私は彼女に負けてしまったのか。
 
この敗北について腑に落ちないまま、高校へ進んだ。そこからだった。
その後、私はもう芸術には触れまいと思うようになっていったのだ。
 
中学で1回くらいしかなかったデッサンが、高校では更に強敵となって現れた。
次から食パンを持って来いと先生に言われて、次週からいきなり木炭で古代ローマ人の頭の像、石膏を描く授業が始まった。
 
これがもう最悪だった。
なんとなく描けていたと思っていた中学時代が恥ずかしい。何もうまく描けなかったのだ。
 
怪力のイメージが強かった部活の先輩の絵が参考作品として先生から見せられた。
う、うまい。しかも怪力とは真逆で繊細だ。なんで? 天才か?
自分の絵を見返す。
なんだこれ、ヘンテコな落書きにしか見えなかった。絶望した。
絵に本腰を入れる気にならず、消しゴム代わりとして使うはずの食パンをただパクパクと食していくだけの授業となっていった。
 
では今の私はどうなったかというと、
芸術とは関係のない大学に進み、芸術とは関係のない会社に就職した。
 
社会人になって数年経った今、少しずつまた芸術に関わりたくなった。
芸術に関する本や漫画を読むのも心のリハビリのようなものだった。美術館に行って本物の作品も鑑賞している。
触れれば触れるほど、憧れが増す。自分の最初の夢が画家だったことが蘇る。
ただデッサンができなさ過ぎて、夢を見るのを簡単に諦めた。芸術の神様は私に才能を授けなかった、そんな風に思っていた。
 
大人になった今、私はひん曲がった自分の子供心を癒したいと思うようになった。確かに才能がなかったかもしれないが、その前に努力さえもしなかった。その証拠として授業の課題以外、絵なんぞ小学生以来描いていなかったのだ。デッサンは重要なスキルではあるが、できるからと言って他人に認めれてもらえるような画家になれるわけではない。そのことも大人になって理解した。
 
それでも、デッサンというやつを倒したい。
デッサンができる秘訣はなんだ。
……
 
いざ出陣。
今日私はスパイになる。
私は自分の「憧れ」を乗り越えるために、敵陣へ侵入捜査をすることにした。
恐怖心をなくすには相手の戦術、すなわち手の内を知ればいい。そう考えた。
そうして、デッサン教室の扉の向こうへ一歩足を踏み出した。
……
 
ははーん、なるほどな。おーそうか、そういうやり方か。一筋の光が射した。
瓶やコップはまず四角を描いてから大きさを整えていく、りんごもとりあえず円から形取る。輪郭や詳細を描き込んでいくのはその後だ。
こっちから光が照らされていれば、理論的にここに影ができる。
授業でも教えられていない且つ自分で調べようともしていなかった戦術がたくさんあった。
時間は掛かるかもしれないが、本当に上手くなりたければテクニックを駆使して訓練していけば上手くなる。プロになるなら話が別だが、絵を描くことは才能と済まされて諦めてしまってはもったいなかった。
 
敵を倒す手がかりを得た。少なくともそれが収穫だった。
私の初めての侵入捜査はとりあえず、ミッションコンプリート。
 
そういえば、今受講しているライティング・ゼミも同じことが言える。
本当は文章を書きたいのに、執筆恐怖症に陥っている人がいたら、まずは相手の戦術、つまりテクニックを学んでみるところから始めてみてはどうだろうか。
 
絵は相変わらず描けていないが、侵入捜査よって私の「憧れ」というシコリは少し緩和してきたようだった。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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