メディアグランプリ

私は真面目に人造人間をつくっていた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:新明 文 (ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「赤ちゃんが泣いたら、なるべくすぐに抱っこしてあげましょう」
長男を出産後、助産師さんにそう言われた。
 
「少しぐらい泣かせていたって大丈夫よ」
母親にそう言われた。
 
「離乳食やお菓子はなるべく手作りにしましょう」
検診の時に栄養士さんからそう言われた。
 
「便利なものがあるのだから利用すればいいのよ」
母親にそう言われた。
 
「成長ホルモンは夜に分泌されるので、夜はなるべくはやく寝かせましょう」
育児書に書いてあった。
 
「あんたも寝てなかったんだから人のこと言えないわよ」
母親にそう言われた。
 
助産師さんや栄養士さんに言われたこと、育児書に書いてあることと、母親の言うことがちがう。慣れない育児で不安な時に、周りの人々から色々アドバイスをうけた。
 
私の頭は混乱した。
 
この子を立派な大人にするために、一体何を信じ、どうしたらいいのか分からない。真面目な私は専門家の言うことを信じることにした。母親の言うことは信じないことにした。口出ししないで欲しかった。もう誰のアドバイスも欲しくなかった。
 
母親を頼らない育児が始まった。育児書を読んで育児書通りに子育てをした。昔から人に甘えることが苦手で、完璧主義者だった。
自分の時間の全てを子どもに捧げた。TVはNHKのEテレしか見ない。時間は1時間だけ。自分の娯楽テレビは一切見なかった。夜は19時には布団にはいり、絵本を何冊も読んであげた。食事はもちろん手作りにこだわった。外食はほとんどしなかった。
 
「こどもの社会性を育てるために公園や子育てひろばにいきましょう」
育児書にそう書いてあった。
ルールに通りに育児している私はもちろん公園や子育てひろばに出かけた。
 
そこで、さまざまななお母さんに出会った。同じような悩みを抱えているお母さんがたくさんいた。
「何時にこどもを寝かすの~?」
「離乳食は手作り~?」
「もうハイハイしてるの~?すごいね~」
話題は尽きなかった。たくさんの母親が、不安な中、必死で育児をしていた。共感してくれる友人がいると思うと心強かった。
 
その一方で、友人の子どもと自分の子どもを比べることにより、新しく生まれた感情もあった。対抗意識や焦燥感だ。
「うちの子はまだ喋らないのに、あの子はもう喋っている」
「あの子は言うことを聞いているのに、うちの子は全然聞いてくれない」
育児書通りに子育てしているのに、どうしてうまくいかないのか分からなかった。
 
たぶん、私は限界だった。でも全く自覚できていなかった。
 
「しんどくないですか」
仕事の取引先の社労士さんに言われた。先輩ママである社労士さんも私と同じように限界を感じたことがあったのかもしれない。ひきつった顔の私を見て声をかけてくれた。
 
「自分がしなければならないと思っていることを書き出してみるといいですよ。書き出してみて、ひとつひとつ自分と子どもと社会と照らし合わしてみてください。捨てられると思うルールは捨ててみてください。きっと楽になりますよ」
 
言われた通りに、しなければならないと思っていることを朝から順番に書き出してみた。
 
「朝ご飯は一日の始まりだから食べないといけない」
食欲がなくて食べられないときもある。
 
「食べるときは座っていなければいけない」
大人になっても座っていなかったら怒ろう。
 
「食事中スプーンでカチャカチャ音をたてない」
音を楽しんでいるのかも?
 
「おもちゃをなげない」
歩けると嬉しいように、投げるのも嬉しいのかも?
 
「料理は手料理のほうがいい」
手抜きでいい。死にはしない。
 
「電車の中ではおとなしく座っていなければならない」
出来たほうがいいけど、出来なくてもしょうがない。周りに迷惑をかけないよう努力はする。
 
「夜は20時までになるべく寝かしたほうがいい」
出来ないときもある。昔は時計もなかったが、人類は生き抜いている。
 
「3歳までは母親といたほうがいい」
いなくても得られるものはあるはず。
 
「子どもの前では笑顔でいたほうがいい」
泣いてもいい。人間だもの。
 
ルールを書き出してみるとたくさんあった。そして、捕らわれなくてもいいことに捕らわれていたことに気づいた。何度も何度も知恵の輪にチャレンジしていたのに、力を抜いてみたらスッとできた時のような解放感だった。
 
私はルールに縛られて、がんじがらめの状態だった。
私の育て方は人造人間の育て方だった。取扱説明書を片手に、分厚い眼鏡をかけ、手袋とマスクをつけて作業している感じだ。戦闘力と特殊能力をもつ人造人間をつくろうとしていた。
育児書に載っているルールを鵜呑みにせず、参考程度にしておく。‘‘自分が子どもにどうしてあげたいか‘‘を第一優先に考えてみる。子どもの気持ちを想像してみる。
 
子育てに正解はない。
子育ては楽しむものだ。
そして一人でするものではない。
 
産後、私の母親が私に言ったことは、頑張りすぎた昔の自分へのアドバイスだったのかもしれない。母親も私と同じで甘えられない完璧主義者だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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