新卒採用の舞台裏はF1のピットイン
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:峰 亮輔(ライティング・ゼミGW集中コース)
「私、入社したら人事になりたいんです」
6年人事部で採用担当だった私が、新卒採用の子から最も多く聞いた言葉の一つだ。
この言葉を言ってくれることは私にとっては嬉しい。と当時に私の心の中には
「出たよ。どうせ表舞台しか見てねーよな。学生に見せているのは1割から2割ぐらいなんだけどな……」
と少し苛立ちを覚えることが多い。
新卒採用の裏側は、過酷なのだ。
新卒採用の準備は1年程度かかる。採用計画を練り上げ、どんな学生を採用するか検討し決め、実際採用活動に移っていく。そのどの過程にも時間がかかるが、今回は特に採用活動の時期についてフォーカスを当てて行きたい。
当時、1000人超の会社にいたが、私の会社では採用専任は私だけで、私自身も他の業務ももっていた。採用専任だけで仕事をしているのは超大手だけではないだろうか。
多くの会社が他の仕事を持ちながら採用担当している人も多い。
地方支店にも同じように採用活動時期に助けてくれる人もいたが、基本的には全てのプロセスは私の方で決めて、地方担当者に連絡をしていく。
「峰さん、今回の採用どんな感じていくんですか?」
とせっつかれることも多く、採用活動のプロセスができるまで焦っていることも多い。
「だったらもう少し励ましたり、手伝ったりしてくれよ」
と思いながら、イライラしていることも多いのだ。学生の前では満面の笑みだが。
新卒採用のプロセスは、当時、3/1のエントリー・説明会解禁、6/1の面接解禁と二段階に分かれている。3/1の説明会解禁時は緩やかに始まっていくが、3週間も経っていると大手は全ての説明会を終わらせていることも多い。学生はスマホにかじりついておくことがとても重要な時期だ。
ここから採用活動は一気に加速していく。エントリーシートなどの提出物が登場してくるからだ。学生は何社も書いて大変だろうが、多いと30社とかそんなところではないだろうか? コピペもできるのである程度の使い回しができる。
採用担当者は、同じ形式ではあるが、何人ものシートを見ることになる。
今考えればとんでもない量だ。
「これ絶対コピペだよなぁ」
と文面を見ていてわかることもよくある。
そのようないくつかのイベントを経てついに面接が開始される。
ここで曲者なのは、日程なのだ。6/1から面接が始まった場合、どの会社も同時に行っていく。学生も1日5社とか6社受けるが、こちらにもとんでもない人数がどんどん押し寄せてくる。各社早急に内定を出すため、早く見極め内定の連絡することがその年の採用を大きく左右するのだ。
そして面接初日は、最大100名以上の面接を行なったこともある。
数時間の間に入れ替わり立ち代わりで100名以上やってくる。。
私は、管理職ではなかったので、面接はしないが、全員に声をかけ説明し、会場に案内し、そしてお見送りをする。
その光景はさながらF1のピットインのようなものだった。
面接は長くても30分。
その間に人はどんどん入れ替わる。
学生さんに説明をしなくてはならない。
面接官にも説明しなくてはならない。
バタバタしている中ではトラブルも起きてくる。
「面接官には元気よく挨拶してくだいね」
と学生に説明をすると中には
「わーたーくーしーは、○○だぁいがぁく……」
と応援団にみたいに叫びあげた学生もいた。
「なぁにやってんだよ、こいつはなし聞いてたのかよ」と心の中で思うものの心も痛む。
私の伝え方が間違ったかなと……
いろんなことが起こる中で必ず光る名ドライバーが毎年ピットインしてくるのだ。
名ドライバーは一瞬にして私たちの心に印象を残す。
本当にその瞬間は一瞬なのだ。
誰よりも早くきて笑顔で待っている人。
私の説明に笑ってリアクションをして反応してくれる人。
すごい大人しそうにしているのに面接の時には別人のように雄弁に話だす人
そこにはいつも共通点はないように思う。
もっとも印象に残っている人は、ある学生だ。爽やかな青年だったがとにかく汗が止まらないのだ。
その学生は、入り口から受付のテーブルまで小走りでやってきた時点でかなりの汗をかいている
「なんかわからないけど汗が止まらないんです。どうしよう」
必死にハンカチで汗をぬぐい、冷静さを保とうと焦っていた。
とにかく止まらない汗をぬぐいながら必死になんとかしようとしている
その所作からなぜかこの会社に入りたいと心から願っていることも伝わってきたのだった。
ただ汗を拭いているだけのその所作が……
もちろん他に志望しているところはあったと思うが、私にはそう映ったのだった。
そしてその学生は私に言ったのだった。
「私、入社したら人事もやってみたいんです。」
その時に私は、彼に
「ぜひ人事を目指して頑張って欲しい、まずは面接からだね」
と彼に伝えた。それは本心だと思う。
彼の滲み出る人柄を目の前にして自然とそう言葉が出てきた。
その学生は、一次面接を通過し、やがて役員面接も通過し、会社に入社して、営業を経て、今では人事で活躍している。
F1ではピットインの間に数秒、十数秒の間に数々のドラマが生まれることがある。
出逢いもほんの一瞬で、人生を変えていく重要な感動のワンシーンがある。どんな状況でも奇跡に変わっていくことがあるのだと思う。その奇跡と出会う就活はやはり興味深い。
そしてそれは色々な人との中で人生を変えた感動として共有されていくのだった。
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