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もしも、昼間からアルコールを入れたなら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:安平 章吾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
日中からお酒を飲む。
この行為に対し、私は今かなり葛藤を続けている。
 
日中働き、お酒が好きな人にとって、こんなに魅力的なことは他にあるだろうか。少なくとも、私にとっては今1番魅力的に感じている。
 
コロナ禍で外出の自粛を要請され、大型連休の今このとき、昼間から何もできない状況で、妻と子どもが昼寝し、自分1人で過ごすこの貴重な時間を使わずして、いつ実行できるのか。
 
実は1週間ほど前の日曜日、同じような時間が出てきたため、そのときは何の躊躇いもなく、15時頃からビールを2本飲んだ。
 
私は量を多く飲んでも酔っぱらうことは少ないが、家で飲んだときはひどく酔っぱらった。飲み終わった初めの30分は今までに経験したことがないほど酔い、そして最高に幸せな気持ちでいることができた。
 
小学生のときに、深夜に冷蔵庫を開けて残り物のケーキを食べたときのような気持ちと同じ、少しばかりの罪悪感と、見つからないことを祈りながら幸せを感じる緊張感は大人になった今ではあまり感じる時間がない。
 
何よりあの快感をもう一度味わいたい。それには、今しかチャンスがないと思った。
 
私は腹を決めて冷蔵庫を開けようと立ち上がった。
 
しかし、今回は反対意見が頭によぎる。1度体験している分、若干ばかり冷静になっている自分がいた。
 
昼間から飲んで、いざ子どもが病気になってしまったら誰が運転して病院に行くのか。また、こんなときに限ってお隣さんや、1週間前にAmazonで注文した商品を配達員が持ってきたときに、対応できるのか。
 
地域では「アルコール中毒」といったありもしないレッテルを貼られるかもしれない。
 
そんなことよりも、最悪なのは酔いが醒めないまま、子どもが昼寝から起きてきたときだ。
 
「おとーさんのくち、くっさ」
 
これは1番言われたくない。父親としての威厳が全くない。それどころか、連休明けに子どもが保育園に行った際、先生から連休中は何をしていたのか聞かれたときに
 
「おとーさんは、お酒を飲んで寝てました」
 
なんて言われた日には、もう保育園のPTAなんかできない。
 
こんなときに限って想像力が豊かになる。
 
私は冷蔵庫の前と居間を往復し、葛藤を続けた。
 
どうするべきか。飲むにしても子どもが昼寝から起きてしまう前に全てを片付けておかないと意味がない。
 
時間ばかり過ぎていく。
 
私はひどく悩んだ。こんなに悩んだのは、就職先を決めるとき以来かもしれない。
 
どうするのが正解なのだろうか。
やはり夜になって、子どもが寝静まったころに飲むのが正しい飲み方なのだろうか。
 
私は昼間から飲む自分を正当化したかったのか、気がついたらGoogleで「昼からお酒」と検索していた。
 
「昼間からお酒を飲むなんて、アルコール中毒では? 」
 
「晩酌よりも昼飲みの方が体に良い」
 
当たり前の話だが、根拠の無い内容が羅列され、深い悩みにつながるだけで、解決はしなかった。
 
1時間ほど、悩み、私は決心した。
 
今日はビールを飲む。1本だけ。
 
冷蔵庫を開けると350mlが6本セットになっているエビスビールが冷蔵庫のスペースを潰し、野菜やお肉を圧迫させていた。
 
「冷蔵庫のスペースを空けないといけないし」
最後まで訳の分からない理由をつけて、私はエビスに手を伸ばした。
 
そして、前回同様、折り畳みの机を押し入れから出してきて、子どもが起きないよう、慎重に机をセットする。
 
そして、普段は隠しているLサイズのポテトチップスを押し入れから引っ張りだし、お酒のお供にする。
 
洗い物を増やさないため、エビスはグラスには入れない。多少なりの妻への気遣いはほどほどに、すぐにプルに手をかける。
 
「プシュッ! 」
 
この音で自然と顔が緩む。
そして、缶を持って誰もいない部屋で1人
 
「乾杯!」
 
と心の中で叫ぶ。私なりの礼儀である。
 
この時が待ち遠しかった。悩んでいたのがアホらしくなるほどに。
 
録り溜めた大河ドラマを見ながら、ビールとポテトチップスを交互に口に入れる。
結婚し、子どもが出来てから、これほど幸せな時間はない。
 
大河ドラマが終わるまでの45分間、気がつけば私はエビスを2本飲んでいた。Lサイズのポテトチップスもカケラが残る程度でほとんど食べ終わっていた。
 
妻が楽しみにしていたポテトチップスをほとんど食べてしまい、加えて酔っぱらった男が居間にいることで、妻が昼寝から起きてきたら激怒するかもしれない。
 
それでも良い。幸せな時間を過ごすのは、妻が呆れるまでがセットなのだから。
そう思って、私は酔っぱらった状態で、空になったエビスの缶を洗い場に隠すように置いた。
 
これから、子どもが昼寝から起きるまで、普通の父親に戻る準備に入っていくことになる。
 
鏡にうつった真っ赤な自分の顔を見ながら歯を磨いている姿を見ていると、少し罪悪感が芽生える。
 
しかし、後悔はない。
 
そして、空になったエビスを眺めて思う。
まだ、残り4本ある。この幸せな時間を残り2回味わうことができるかもしれない。
 
次にアルコールで葛藤できる日が待ち遠しい。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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