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我は「選ばれし者」なり

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:市川みどり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「食道アカラシア」という病気をご存じだろうか。
Wikipediaには「食道噴門部の開閉障害もしくは食道蠕動運動の障害(あるいはその両方)により、飲食物の食道通過が困難となる疾患」と書かれているが、平たく言えば食べ物がノドにつかえてしまい、うまく食べられなくなる病気である。
 
1997年秋、私はこの食道アカラシアになった。
正確に言うと症状が出始めたのだが、その時はそれが食道アカラシアであることはわからなかった。
 
ある日、お昼を食べていたら突然ご飯がノドにつかえた。
お茶を飲んでも治らなかったので、立ち上がってぴょんぴょんと飛び跳ねていたら、なんとかそのつかえが取れた。
 
「がっつきすぎた……」
 
その時は、そんな風に軽く考えていた。
しかし、その後つかえはたびたび起きるようになり、頻度も増していった。
 
これはおかしい。
 
会社の帰りに本屋で消化器系の病気について書かれている本を立ち読みした。
自分の症状から真っ先に目に飛び込んできた病名は「食道癌」。
 
やっぱりそうか。
 
読み進めてみると、「若い人は進行が早く、致死率が高い」とある。
当時の私は若かった。
 
「私、死んじゃうんだ……」
 
両親はまだ健在であり、先に逝くのは忍びなかった。
恐いけど癌と闘わなくては!
そう決意して大きな病院へ診てもらいに行った。
 
それまで内視鏡検査などやるくらいなら死んだ方がマシだとうそぶいていたが、本当に死ぬとなるとやらざるを得なかった。
 
検査の結果は、異常なし。
担当医には「気のせいでしょう」と言われた。
 
納得できなかったので、他の病院にも行ってみた。
異常なしだった。
 
どういうこと?
 
世間ではよく「一応検査してみて何でもなかったら安心できるじゃん」などと言ったりするが、明らかに症状があるのに異常なしという結果は決して安心できるものではない。
原因がわからないと治しようがないからだ。
 
私は途方にくれた。
食べ物のつかえはもはや毎食時起きるレベルにアップしていた。
 
異常なしとされながらも相変わらず症状を訴え続ける私は、最終的には精神科に回された。
精神安定剤のようなものを取っ替え引っ替え出されたが、どれもやたらと眠くなるだけで、のどのつかえは一向に良くならない。
結局、病院へ行くのをやめてしまった。
 
発症から10年が経った2007年の春、ネットで自分と同じような症状に悩まされている人のブログを見つけた。
そこに書かれていた病名は「食道アカラシア」。
なんでも10万人に1人か2人という珍しい病気らしい。
のどのつかえ、胸痛など自分の症状にぴたりと当てはまる。
これだ! と確信した私は再び病院へ行き、「私は食道アカラシアではないでしょうか?」と自己申告してみた。
すると、担当医は半笑いでこう言い放った。
 
「食道アカラシアなんて珍しい病気、そうそうかかるもんじゃないよ。
私はこれまで何万人という患者を診てきたけど、食道アカラシアの人には会ったことがない」
 
そりゃそうだろう。
食道アカラシアは10万人に1人だ。
 
諦めきれなかった私は別の病院へ行ってみた。
若い女医さんだった。
少々頼りなかったが、変な先入観がないのがかえって良かった。
「では検査してみましょう」ということになり内視鏡検査をした。
つかえながらも10年間無理矢理食べ物を飲み込んできた私の食道は、見た目にもえらいことになっていて、もはや異常なしではなかった。
「これはアカラシアかも……」ということで、専門医がいる病院を紹介された。
そしてそこでようやく「アカラシアで間違いないですね」との診断が下されたのである。
 
娘がレアな病気にかかったと知った母親は「なんであんたがそんな目に合わなきゃならないんだろうね。可哀想に」と嘆いていた。
しかし、おめでたい私はこんなふうに思っていたのだ。
 
白羽の矢が立った。
 
10万人に1人の病気なんてそうそうかかれる病気ではない。
これは貴重な経験だ。
世の中には同じ病気で悩んでいる人が一定数はいるだろう。
その人たちは自分と同じようになかなか診断がつかず苦しんでいるかもしれない。
自分の経験を発信することで、そういう人たちのお役に立てる。
私自身が同じ患者さんのブログで救われたように……。
 
アカラシアの診断を下した医師は「手術しますか?」と聞いて来た。
手術をすれば以前のように食べられるようになるという。
ただ、この病気は放っておいても命にかかわるものではない。
元来私は小心者だ。
内視鏡ですら死んだ方がマシと思っていた人間である。
ましてや手術なんて……。
そんなものを受けるぐらいなら一生このままでいいという選択はおおいにあり得た。
しかし、自分の経験が誰かの役に立つかもしれない。
それなら喜んで闘おうじゃないの!
手術でどの程度症状が改善されるのか、自ら実験台になろうじゃないの!
 
私は手術を即決した。
人は「自分のため」よりも「誰かのため」と考えた方がパワーアップできるものである。
 
入院中は体験レポーター気分だった。
この経験が誰かを救う、そんな使命感は手術の恐怖を和らげてくれた。
 
手術のことやその後の日常などを綴った私の闘病ブログは、一時期「食道アカラシア」で検索すると一番上に表示されていたこともあり、連日多くの方に見ていただいた。
 
「このブログを見て、手術をする勇気が持てました」
「食べられるようになったのは、このブログのおかげです」
 
そんな嬉しいコメントやメッセージをたくさんいただいた。
その中の何人かの方とは実際にお会いしたりもして、いまだに交流がある。
 
こんな私でも誰かの役に立てた。
病気の神様、私を選んでくれてありがとう。
負け惜しみではなく、心底そう思った。
 
生きていると「なんで私だけがこんな目に?」ということがたびたびある。
10万人に1人というレベルでなくてもだ。
ただ、そんな災難も、いつか誰かの助けになるかもしれないし、癒やしになるかもしれない。
 
マイナスの経験は時として強力な武器になる。
その武器を手にした時、私たちは「選ばれし者」となり、誰かを救う力が与えられる。
そして、それは目の前にある自らの苦難を乗り越える力にもなる。
 
誰もが皆「選ばれし者」になりうるのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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