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メディアグランプリ

手書きの文字がつなぐもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松下朋子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
手紙を書いたのだ、たった便箋2枚の。私にはそれしか手段がなかった。
 
ニュースは突然だった。親しい友人から入ったLINEで思い出深いレストランが閉店することを知った。人気の街で30年以上続く、近年では「予約の取れないレストラン」なんて言われることもある人気店だ。それが今回の非常事態宣言を受けキャンセルが続き、店の存続に「恐怖を覚えた」というオーナーのコメントが生々しい。自宅を改装したレストランでありながら月額固定費は数百万円という話が、従業員を大事にするお店らしいエピソードだな……なんて思ったが、和やかな話ではない。その日の夕方のニュースではマスコミ各社が老舗も閉店決意、と報じた。
 
このレストランと私の関係性は、と言われれば「プロポーズをしたお店」ということになる。よくある話、だけれど思い入れのあるレストランがあるというのは幸せなことだ、と折にふれ思ってきた。この店での、プロポーズの瞬間があったからこそ私たちは夫婦となり、子どもが生まれ、家族となった。他人であった2人を家族にしてくれた場所。勝手に親近感を覚え、近くに遊びに行くたびに、子どもたちにも「大きくなったら行こうね」と話聞かせていた。未就学児童は入店できないルールのためしばらくの間行けないことはわかっていたし、かえって家族でこのレストランを訪れる日を心待ちにする、という楽しみを与えてくれてもいた。
 
もう一つ、実は2人の子どもの名付けの際、レストランの名前から漢字を一文字ずついただいたというご縁がある。もちろんお店に許可をとったわけではないのだけれど、子どもたちの名前を考えるとき、夫婦で散々もめながらもこのお店の漢字を使う、という点だけは不思議とぶれることなく着地した。言葉に出さなくてもその1点が共通していたことに、あらためて家族になったんだなぁとぼんやり実感したことを覚えている。
 
閉店までは1週間あまり。外出自粛を受け、もちろん訪問はかなわない。
お店のホームページには、突然の閉店に対するお詫びと「皆さまも命を大切になさってください」のメッセージ。老舗らしくSNSでの発信もない。
 
「手紙を書いたら?」
 
LINEでの友人とのやりとりに、思わぬ提案があった。子どもの名付けの葛藤をリアルタイムで相談していた友人だ、漢字のエピソードももちろん知っている。このまま何もせず閉店の日を迎えるのは……という悶々とした気持ちがぱっと晴れたような気がした。
 
そうだ、手紙を書こう。
 
自然と身体は動いていた。あいにく便箋のストックがあまりない。お気に入りだった星野富弘さんの便箋が2枚だけ残っていた。便箋を広げ、書き出すとペンは一度も止まることなくあっという間に結びの草々、という文字を綴っていた。
 
プロポーズの日のこと、お店の方のあたたかな接客への謝辞、そして生まれた子どもたちの名付けのこと……結びにはオーナーをはじめとする従業員の方がどうか元気に過ごしていけますように、と願いをこめて「皆様もお元気でお過ごしください」と書いた。ありきたりな言い回しになってしまったけれど、元気で、という言葉が最近は妙に心に響く。
 
返信をいただくつもりはなかった。ただ、感謝の気持ちを伝えたかった。
早朝のポストに手紙を投函し、この話は終わり、の予定だったのだ。
 
数日後の夕暮れ、1人の見知らぬ男性が我が家を訪ねてきた。
名刺を確認すると、いつも夕刻に見ている情報番組のタイトルとニュースセンター、という所属部署名。聞けば、老舗レストランの最後を取材している中でオーナーから手紙の話を聞き、どうしてもその家族の話を聞きたくて来たのだという。
 
手紙には、メールアドレスも電話番号も書かなかった。住所だけを頼りにきたという突然の訪問に驚きながらも、聞かれるままにレストランでのプロポーズの思い出、急いで準備した結婚式のこと、子どもが生まれどんな風に名前を考えたのかを話していく。まるで自分たちの家族史を振り返るような時間。結婚して10年余り、仕事に、子育てに終われ自分たちを振り返る余裕など正直なかった。
 
「プロポーズの時、奥様はどんな気持ちだったんですか?」
「旦那さんは、どうしてあのお店を選ばれたんですか?」
 
職業柄なのかポイントをおさえた男性の質問にあわせ、あらためて家族のこれまでを振り返るその時間は、穏やかで、幸せで、ああこんな気持ちでこの人との結婚を決めたのだと、遠い過去の気持ちを鮮やかに思い起こさせてくれた。
 
翌日はレストランの最終営業日。夕食どきのニュースにちらりと映った私たちの姿を見て旧友や同僚、社外の方までが連絡をくださり、その夜我が家はちょっとした騒ぎになったことも余談として記しておこう。
 
ああ、そうだ。すべては、あの2枚の手紙からはじまった。
想いが届き、思わぬ形で返ってきたこと。そこで、あらためて自分たち家族について考える機会をいただけたこと。考えれば考えるほど、不思議なご縁を感じずにはいられない。
 
きっと、明日からはまた喧騒の毎日。夫とも、子どもとも喧嘩も言い合いもするだろう。だから今日の気持ちを記しておこう、忘れないように。そして、これからも、想いを伝えていこう、メールもいいけれど、たまには手紙で。
手書きの文字は、気持ちをつないでくれるはずだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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