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メディアグランプリ

書店が病院だった頃


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石川サチ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
毎日、地獄のような日々だった。
理不尽で、うまく行かない連続。私だけ不幸だと思っていた。
 
新卒で入社した会社の仕事は「営業職」。
 
当時、「営業職」という仕事の意味を良くわからず就職してしまった。
 
女性が男性並みのお給料をもらうなら、「営業職」しか選択肢は無かった。
会社のネイムバリューとお給料の中身だけで選んでしまったのが、そもそも悲劇の始まりだったのだ。
 
「営業職」の仕事は、私の今までの価値観を破壊するほどの力を持っていた。
 
毎日、知らない人に声をかけて、見込客を開拓。彼らから個人情報を引き出す、
 
何が出てくるか分からない雑居ビルへの飛込み営業を強制的にやらされる、
 
見知らぬ会社の受付で、虫けらのようにあしらわれる、
 
理由も無く、「帰れ!」と怒鳴られる、
 
自分自身が全く魅力を感じない商品を売り歩く、
どんなに必死で頑張ったつもりでも、売れなければ、評価されない、
 
数字は毎月、月末にリセットされ、月初にゼロから始まる
 
等々
 
元々人見知りで、馬鹿正直。知らない人どころか、知っている人ともしゃべるのが苦手。人と話すより本ばかり読んでいた超文化系の私にとって、営業の仕事、全てがムリだった。地獄そのものだった。
 
毎日血を吐きながら、地べたを這いずり回り、身も心もボロボロになって、それでも障害物競走をやらされているようなものだった。
 
素手で敵と戦う戦場の戦士だった。
 
仕事として割り切れば良かったのかも知れない。気楽に楽しめればよかったのかもしれない。
向いていないならさっさと辞めて仕舞えば良かったのかもしれなかった。
 
しかし、当時は生真面目に考えすぎて、そんな余裕などなかった。
ただただ、毎日重たい気持ちを引きずって朝晩電車に揺られていた。
 
同じような境遇で、私の状況を知り尽くし、適確なアドバイスをしてくれる相談相手など誰ひとりいなかった。
 
そんな私にとって、唯一救いの場所が書店だった。
 
通勤電車の乗り換え駅や最寄りの駅にある書店へは、会社の帰りに毎日のように通った。
 
背の高い本棚にびっしりと並んだ本に囲まれていると、日常を忘れた。
書店は、多種多様な考え方や価値観を詰め込んだ懐の深いゆりかごだった。
本棚の本のタイトルを一つ一つ、目で追い、その時の悩みにピッタリの本を探す。パラパラと中身を見て、読みたい本を見つける。
どんな悩みを抱えていても、たいていは書店の本の中にその答えがあった。
 
もし、見つからなければ、休日に大きな書店まで行き、隅から隅まで探し回る。そうすると必ず何かしらのヒントを与えてくれる本と遭遇した
 
自分に必要な本を見つけるのは、宝探しゲームのようでもあった。
めぼしい本を見つけると、テンションが高くなり、小躍りしてレジまで進んだ。お会計を済ませ買いたてホヤホヤの本をカバンに詰め込む。
速く読みたい一心で家路に向かった。
 
本が見つかった時には、仕事の悩みはどこかに吹き飛んでいた。
 
私のほとんどの悩みは、本が救ってくれた。
 
恋愛の悩みも、ずいぶん書店にお世話になった。
元気な女性作家さんたちのパンチの効いたエッセイは、カンフル剤のようだった。彼女たちの考え方やマインドセットを自分の頭と心に一気に流し込めば、ほとんどの悩みは一瞬で消えた。ムダに悩み、必要以上に傷つかずに済んだ。
 
女性作家さんたちは、セラピストだったり、カウンセラーだったり、女医さんだった。
 
誰よりも私の気持ちを汲み取って、癒し、前に進む勇気をくれた。
 
そう、書店は、悩める私がいつでも駆け込める、病院だったのだ。
 
図書館では、書店の代わりにはならなかった。
 
なぜならば、図書館は本を期間までに返却しなければならないから。
本は、書店でお金を支払って手元に置くことに意味がある。またいつか同じ悩みが襲ってきた時、その本がそばにあれば、いつでも解決できるという安心感があるから。
 
本は、私にとって処方箋であり、置き薬のようなものだった。
 
ネット書店でも、リアルの書店には叶わないと思う。
ネット書店は、直接本に触れない。本から伝わる作家のエネルギーのようなものが感じられない気がするのだ。
一方、リアルの書店は、本にさわれる。作家のエネルギーのようなものが伝わってくる気がする。その本をパラパラと開いてみると、印刷された文字から、作家の情熱が伝わってくるような感じになることもある。その感じは、電子書籍では味わえない。
 
しかし、ある時を境に、私は書店病院への通院が必要なくなった。
 
そのきっかけになったのは、ある一冊の本との出会いだった。
 
その本と初めて出会った時、大袈裟でもなんでも無く、私は雷に打たれたようなショックを受けた。
 
その真っ赤な龍が飛び立つ表紙の分厚い本を、まるで獲物を捕獲したかのように大事に抱き抱え、私はレジに走った。
 
家に帰って寝るのも忘れて貪るように読んだ。
 
読みながら、涙が溢れて止まらなかった。
 
その本は、私に教えてくれた。
 
世の中で私ひとりだけが不幸で、地獄のように思えた日々。
仕事のせいで苦しんでいたと思い込んでいた毎日。
 
この不幸と苦しみは、私が子どもから大人になるための通過儀礼なのだ、と。
 
古今東西、誰もが通る道だと知り、一気に肩の荷が降りた。
これまでの考え方の甘さや幼さ、独りよがりを猛省した。
 
地獄だと思っていた世界が、冒険するために用意された舞台に変わった。
 
私にとって運命的な本は、「神話の力」。
 
神話学者のジョーゼフ・キャンベルとジャーナリストのビル・モイヤーズの対談形式で展開する話は深く、衝撃的だった。
 
何度も読み返した。読み返す度に新しい発見があった。
 
そして私は、静かに成長し、大人になった。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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