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異国の地で、私を檻から解き放ってくれた人の話

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大森 瑞希(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「瑞希ちゃんって、休み時間いつも本読んでて、オトナだよね。私なんか全然読まないし―」
高校生の時、私にそう話しかけてきたのはクラスのカースト上位にいる優子だった。
クラスで一番可愛い子で、ミニスカートから伸びる細い足に男子の目が釘付けになっているのが分かる。
どうやったら、そんなに上手に巻けるのか不思議なくらい綺麗な茶髪が目の前で揺れていた。
「うん、本好きだからね……」
自分でも嫌になるほど、ぎこちない笑顔だったと思う。
「ふぅん」
私の返答が面白くなかったのか、すぐに優子は取り巻きの方に帰っていった。
こんな私に話しかけたのは、お嬢様の戯れだったのか。
そんな風に考える自分にも嫌気がさしていた。
 
どんな学校にだってスクールカーストは存在する。
分け隔てなく、全ての子と仲良く! なんてことは現実には難しい。
カースト上位と下位の間には、いつだって見えない境界線がある。
私は、下位の方だった。
たくさんの人と話すのは苦手だったし、ノリもよくなかった。
華やかでいつも楽しそうに笑う彼らを見ると、羨ましい反面、何がそんなに面白いのか分からないな、と思っている自分がいた。
でも、私にはわからないことに面白さがあるのかと思うと寂しくなった。
私の周りには同じタイプの子が何人かいて、その仲間と固まって話していると、急に自分たちが余りものの寄せ集めのような気がして息苦しくなる。
気の合う友達と話しているのは楽しいし、みんないい子だ。
けれどどこか居心地の悪さがあった。
どうして私の周りにはこんな地味でイケてない子ばかり集まるんだろう。
友達を下に見るような考え方をしてしまう自分を激しく嫌悪する。
それと同時に、それは私が地味でイケてないからだということに気づき、憂鬱になった。
 
私がエマと出会ったのは、大学4年生でフィリピン・セブ島に3か月間、語学留学に行った時だ。
彼女と私は同じ日に入学した。
授業は、発音や文法など基本的なものは全生徒共通のクラスに参加するが、それ以外は生徒が自分の取りたいカリキュラムを自由に選ぶことが出来る。
同い年のエマとはよくクラスが一緒で、寮の部屋が近いこともあってか、話す機会も多くなり、私の一番の友人になった。
タイ人の彼女は、微笑みの国から来たというだけあって、よく笑った。
「こんなに食べたらもっと太っちゃう」
と照れ笑いしつつ、毎日、学食の食事やスナック菓子をたくさん食べる。
おしゃれが大好きで、所持金を計算せずに洋服を散々買い占めたあと、財布の中を観て青ざめる。
愛嬌のある、太っちょな女の子だった。
彼女は勉強に関しては怠惰だった。そして細かいことは一切気にしなかった。
宿題はやったり、やらなかったり。
私がテストの点が悪くて落ち込んでいると、「いい点とる事よりも毎日楽しい方が大事だよ。ちなみに私は瑞希より10点も低かったけど気にしない」
と彼女流にフォローしてくれた。
 
エマはクラスの中で、みんなから少し引かれていた。特に女子からは。
授業中は先生の冗談にゲラゲラ笑い、自分もジョークを言って応戦する。
少し下品なことも言う。
周りの男子より体格が良く、のしのし歩く。
タバコも吸うし酒も強い。
座る時、いつも大きく足を開く癖がある。
おしゃれだけど女っ気はまるでなかった。
クラスには勤勉な子が多かったこともあって、宿題や時間にルーズな彼女は浮いていた。
エマといて楽しかったけれど、それと同時にカーストを意識している自分がいた。
エマはいい子だけれど、私たちはきっとカースト下位にいる。
彼女自身が周りからの目に全く気づかず、いつものように豪快にふるまう姿に時々苛立ちを覚えた。
その一方で、自分が生まれ育った国を出て、何もかも初めてだらけの異国の地でせっかく仲良くなった外国の友人にまで、こんなことを思ってしまう自分が心底嫌いになった。
そして案の定、私はエマに抱いてしまった感情を後悔することになる。
 
ある日の夜、いつものようにエマと校内のベンチで話をしていた時だった。
「私、SLEなんだよね」
さすがに英単語の意味が分からず、google翻訳で調べた私は言葉を失った。
全身性エリマトーデス。
膠原病の一つとされる原因不明の難病で、高熱や皮膚の変色、頭痛や痙攣を引き起こす。
女性に多い病気で、SLEと診断された患者の10%は10年以内に死亡するという。
たしか、何年か前にセレーナゴメスが罹患していると話題になった。
エマが体格がいいのは太っているからだけではない。全身が大きくむくんでいるのだ。
「高校生になるまで生きられないって医者に言われたの。小さい頃はずっと入院してた。
陽の光に当たると皮膚が腫れ上がっちゃうから、どんなに暑い日でも長袖だったな。大人になってちょっとずつ改善してきたからよかったけどね」
聞いているこちらが驚くほど淡々と話す。
確かにエマは、毎日30度近いセブでも、長袖のことが多かった。
おしゃれな彼女のことだから、日焼けを気にしているとばかり思っていた。
顔面蒼白になった私をみて、エマが噴き出す。
「そんな悲しい顔しなくていい。私、いつも最高にハッピーなの。」
どうしてこんな話をしているのに、エマは苦しい顔をしないのだろう。
「これから、どれくらい生きられるか分からないけれど、美味しいものを食べて、好きな服を着て、大好きな友達と話す。自分が楽しいことをする。
留学するって決めたのも、外国の友達が欲しかったからで、英語を上達させたいと思っているわけではないの」
なぜ、いつ死ぬか分からない身で笑っていられるのだろう。
「瑞希は真面目で時々自分を追い込みすぎる時がある。頑張ることも立派だけれど、楽しむことの方が私は大事だと思うな」
 
思わず涙があふれた。
病気の事実と、自分のこれまでの愚考に対してだった。
彼女の天真爛漫すぎる行動を一度でも嫌った私。
カーストを気にして、本当の彼女の姿を見ようともしなかった。
1万人に1人の難病に罹ろうとも、人生を目一杯生きようとするその強さ。
悩むよりも、楽しく生きるべきだと教えてくれたその人生観。
こんなに大事なことを、私だけに話してくれたその優しさ。
彼女は全てにおいて私より上だ。
カーストやグループというものは、クラスという独特な集団環境と自分の心が作り上げた、堅牢な檻だ。
私は鉄格子にかじりつき、その隙間からしか、物を見てはいなかった。
本当に大事なのは、生身のその人の姿だ。
確かに、スクールカーストは存在する。
特に、思春期の学生なら悩むこともあるだろう。
けれど、それに執着しすぎて、その人の中の確かに存在する価値を見失ってはならない。
誰が何と言おうと、エマの心は綺麗だ。
こんな彼女と、海を越えて友達になれたことを心から幸運だと感じた。
 
帰国の日、私はエマに
「私より先に死なないでね」
と言った。
「まだまだ生きるよ」
と彼女は答えた。
 
留学から3年。
彼女は入退院を繰り返しているものの、元気な笑顔が定期的にFacebookに投稿されている。
私が知っている誰よりも、明るく強く生きる女の子だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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